寺西封元(2024年3月8日『福島民友新聞』-「編集日記」)

 封建時代、領主に代わり領地を治めた役人を代官という。あの「お代官様」である。悪者のイメージが強いが「名代官」と呼ばれる人物もいた

 ▼江戸時代後期の幕府の代官、寺西封元(たかもと)は、塙と小名浜二つの天領を治め、後に桑折、川俣でも代官を務めた。天明の飢饉(ききん)の深い爪痕が残る時期に、公共事業や福祉政策の充実などで人口を増やし窮乏した村々を復興したという(誉田宏「寺西封元」歴史春秋社

 ▼その封元が多くの代官たちと違っていた点は、自ら現地に住み、周辺の諸藩とも連携。在任期間も、初任地の塙で20年以上と極めて長かったことだ。「長期政権」の弊害も指摘されているが、地域密着が持ち味だったのは確かだ

 ▼最近そんな彼の名をよく目にする。封元が主人公の小説「縁結び代官」が出版されたのが昨年の暮れ。今は県歴史資料館の企画展で彼の業績などが紹介されている。出版と企画展が続いたのは偶然だが、人々が封元に興味を寄せるのは時代の空気と無縁ではないだろう

 ▼人口は減り続け、災害や原発事故からの復興は途上にある。封元ならば、どう行動するだろう。前例踏襲はせずに、ひと味違った挑戦をする。そんな人物像を時代は求めている気がする。