「不適切にもほどがある!」共感される秘密? 人はなぜ「昔話」が大好きなのか(2024年3月8日)

 

“昔話をすること”は同じ

 このドラマの特徴である突然始まるミュージカルの場面で市郎は次のように歌う。

「昔話じゃない 17歳の話 しているだけ」

 毎話、ミュージカル場面には脚本の宮藤官九郎が伝えたいメッセージが込められている。今回は、人は昔話をしているように見えても、それは17歳の頃の自分を始めとする「それぞれの青春」の思い出について話しているだけ。それは誰しも同じではないか、というメッセージだ。

 そんな市郎に対し、出演者のZ世代のお笑いコンビが「知らねーし」「生まれてねーし」と拒絶的な合いの手を入れる。そこに市郎が割り込む。

「そんな君らも歳を取る TikTokも いずれ昔話になる」

 その後で全員で合唱になる。

「おじさんが おばさんが 昔話しちゃうのは 17歳に戻りたいから」
「おじさんが おばさんが 昔話しちゃうのは 17歳には戻れないから」

 この後で純子が歌声を披露し、「私は今17歳 まだ何者でもない 昔話のネタがない」

 と締め括ってミュージカル場面が終わる。

「けど、今見ているこの景色。これが昔話になるんだよね…なんちゃって」と呟く純子。

 この場面は、どの世代も人が“昔話をすること”は同じだと示唆していると感じる。どんな世代の人間も17歳という青春期を体験するのは同じ。だから世代を超えても人は理解しあえる、そんな思いが込められているのではないか。

Z世代だって“昔話”をする

 実際、Z世代もよくよく観察すると“昔話”を頻繁にしている。筆者は大学教員という仕事柄、Z世代の若者たちと行動を共にすることがある。先日も、若者たちとある有名ラーメン店に入った際に、ミュージシャンのサイン入り色紙が壁に貼ってあるのが話題になった。彼らは「懐かしい…この歌」「あの曲よかったよね、よく聴いた…」と“昔話“に花を咲かせていた。昔話は、おじさんばかりの専売特許ではない。Z世代も大好きなのだ。

 たしかに、価値観が多様化した現在、昭和の時代ほどには映画やテレビ番組や音楽で「みんなでハマって熱狂する」という経験を、若い世代は持ちにくくなっている。だからこそ、そこにある種の「孤独感」があり、他の人とつながりたいという欲求が人一倍強いのかもしれない。

 人間は“昔話”で共通する体験を確かめ合い、一体感を持ってつながろうとする生き物なのかもしれない。

人間同士が共感し合えるものは何だろうか

【関連記事】