国の指示権拡充 地方との対等な関係守れ(2024年3月7日『河北新報』-「社説」)

 地方分権の流れに逆行し、対等な関係が損なわれないよう注視する必要がある。

 政府は、自治体に対する国の指示権を拡充する地方自治法改正案を閣議決定し、国会に提出した。災害や未知の感染症など非常事態であれば個別法に規定がなくても、国民の生命保護に必要な対策の実施を国が自治体に指示できるようにする。

 改正案で、地方は対等関係にあると定めた地方分権の原則は維持し、非常事態に限った特例と位置付けたが、自治体は指示に従う法的義務を負うことになる。不当な介入を誘発しないのか疑問は残る。

 国の指示権拡充は、首相諮問機関の地方制度調査会が昨年末にまとめた答申に盛り込まれた。新型コロナ禍で国と自治体の意見が異なり、対策の決定に時間がかかったことなどが背景にあるという。

 確かに、企業や店舗への休業要請を巡っては、住民の健康や地域の衛生環境を守るとして対象範囲を広げたい東京都と、感染拡大を防ぎつつ経済を回すために限定的にしたい国との調整が難航した。

 振り返れば、どちらかが100%正しいとは言い切れない難しい状況だった。だが、今後同様の事態が起きれば、指示権を発動し、国の意向に従わせることが可能になる。地域の実情に合わせてなされるべき判断が、全国一律になりはしまいか。

 2000年施行の地方分権一括法は、国と自治体の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に改めた。指示をはじめとする自治体行政への国の関与は必要最小限に抑え「自治体の自主、自立性に配慮しなければならない」とも定めている。

 国は一括法の精神に従い、現場に近い地方の声を丁寧に聞きながら、調整に最大限の努力を払うべきだろう。

 ところが、総務省幹部は共同通信の取材に「国と自治体で判断が割れたとき、国を優先すると決めておかないと混乱する。最終的な責任は国が果たす必要がある」と答えている。双方が対等という意識は希薄のようだ。

 地方自治法は国と自治体の役割分担を守るための法律であり、非常時の対応は個別法の改正で対応すべきだとする専門家は少なくない。

 日弁連は今年1月、法改正に反対する意見書を公表し、「(現場のある自治体に比べ)限定的な情報しか持たない国の判断に従うよう義務付けるのは誤っている」「対等関係を定めた地方分権改革の貴重な成果をないがしろにする」と批判した。

 全国知事会は安易に指示権を発動できない仕組みを要望。これを受け政府は「自治体に指示する場合は、事前に資料や意見の提出を求めるなど適切な対応に努めなければならない」との規定を改正案に盛った。指示権乱用によって地方が混乱しないよう厳格に運用しなければならない。