基本法改正を食料安保の強化へ生かせ(2024年2月28日『日本経済新聞』-「社説」)

 

輸入に頼る穀物の国内生産の強化が食料安保では重要となる

 政府は27日、食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定した。日本の農政の重要な課題として平時からの食料安全保障の確保を掲げ、国全体での総合的な取り組みを後押しする。国会で議論を十分につくしてほしい。

 基本法は1999年に制定された。海外の軍事紛争や異常気象の頻発など農業を取り巻く環境の変化に現行法では対応が難しくなり、改正が必要になった。

 改正案は農政の目的として、食料安保の確保を明記した。そのうえで、スマート農業など先端技術の導入による生産性の向上や、農産物の輸入相手国の多様化、新しい品種の保護や活用など幅広い課題に対処する方針を掲げた。

 物足りないのは、何がより重要なのかはっきりしない点だ。日本の食料自給率は4割弱と主要国の中で異例の低水準にある。国民に食料を安定して供給する政策の必要性は、基本法の制定時と比べて格段に高まっている。

 これまで農政は2つの面で食料安保への対応が不十分だった。一つは日本でつくりやすいコメを、国内市場の縮小に合わせて減産し続けたこと。もう一つは麦や大豆、飼料穀物、肥料のほとんどを輸入に任せ、正面から増産に取り組んでこなかったことだ。

 農政が今後柱にすべきなのはこれらの是正だ。まずコメは生産性の向上に努めながら、需要が拡大する海外市場をさらに開拓する。いざというとき、輸出していた分を国内に回せば国民の不安を和らげることにつながる。

 輸入に依存しているコメ以外の穀物の増産や国内で手に入る原料を使った肥料の生産は、生産者や自治体の間ですでに取り組みが始まっている。基本法の改正を通して、そうした動きを後押しすることが求められている。

 ここで大切なのはコメの輸出だけで不安を取り除くことも、穀物や肥料を自給するのも非現実的であるという点だ。バランスよく施策を推進しながら国際相場の影響を和らげ、生産インフラである農地を守る道を探るべきだ。

 新型コロナウイルスの流行による国際的なサプライチェーンの混乱、ウクライナ戦争での穀物と肥料の相場の高騰をきっかけに、食料を輸入に頼る危うさが浮き彫りになった。同様の危機は今後も起こりうる。想定されるリスクを綿密に点検し、食料安保を強化する議論を深めてほしい。