女性が男性化することでキャリアを積む時代は終わり、持続可能な働き方の模索が始まっている。3月8日の「国際女性デー」を前に、日本の女性たちの現状と残る課題を今一度見つめ直そう。
AERA 2024年3月11日号より。
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従来の男女の役割意識からの解放。それは、誰もがより生きやすい社会のために欠かせないことだが、現状はどうなっているのだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所が実施している全国家庭動向調査をみると、「結婚後は夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべきだ」という設問に「まったく賛成・どちらかといえば賛成」と答えた有配偶者の女性(妻)の割合は、22年は29.5%。08年の47.7%から減っているとはいえ、まだ3割近くが賛成している。
■圧倒的に短い男性育休
さらに「夫は、会社の仕事と家庭の用事が重なった時は、仕事を優先すべきだ」においては、22年に妻の59.3%が「まったく賛成・どちらかといえば賛成」と回答している。この結果に、『「日本」ってどんな国?』などの著書がある東大大学院の本田由紀教授(教育社会学)は、ため息交じりにこう指摘する。
「まだこんな状態なのかと驚き、のけぞりますよ。若い世代では、ジェンダーを明確に区分しなくなってきていることは感じますが、結婚したり、子どもが生まれたりした途端に、家事育児は女性がやるものだという意識が浮上するのです」 その意識は、皮肉なことに育休制度によって強化されてしまうという。
「男性育休白書2023」によると、19年の男性育休の取得率は、9.6%で平均2.4日。それが23年は、取得率24.4%で平均23.4日にまで増加はしているものの、女性に比べると相変わらず圧倒的に短い。
「女性のほうが長く育休を取っている間に、家事と育児を自ら中心的に担うようになり、その役割が復職後も解消されないケースはとても多い」(本田教授)
家事育児の負担が偏ったままでは、女性たちは苦しいまま。その中で、以前よりもプライベートも充実させようとすると、むしろ追い詰められていってしまう。
■妻ではなく夫が転職
そんな現状を打破するためには、やはり男性の意識と働き方を変えなければならないだろう。
「妻ではなく、夫が職業を変える選択をする事例が増えてきています。いつも何かを犠牲にするのは女性だった社会が、少しずつですが変化しているのを感じます」
と話すのは、人材紹介事業・DEIコンサルティング事業を提供するXTalent(東京都港区)の大野綾事業部長だ。同社では「キャリアと家庭をトレードオフしない働き方を提案したい」と19年からワーキングペアレンツの転職サービス「withwork」を展開しているが、ここ数年、特に男性側からの転職相談が増えているという。
東京都練馬区の会社員の男性(39)もその一人。今年1月、それまで勤めていたメーカーからIT関連会社に転職した。ITデザイナーとして働く妻(34)が2人目の出産を経て、復職した頃から考えていたことだという。
「以前の職場では管理職で、夕方以降にもどんどん会議が入ってきました。子どもたちを保育園に送っていったり、間に合えば夕飯の準備をしたり、できる範囲でやってはいましたが、妻も働いているので、毎日が大変でした」(男性)
■サステナブルに働く
男性は結婚する前から、仕事の話を理解しあえる妻の存在が支えだったという。その妻が昨秋、より幅広い仕事にチャレンジできる職場に転職。キャリアを積むことに積極的な姿を見て、男性はこう思ったという。
「妻は、今の仕事が好きだから、そのまま楽しく働いていてほしい。でも、子どもたちが大きくなるまでずっと今の生活ができるんだろうか、と。子どもたちともっと一緒に過ごしたいと思いましたし、何より夫婦ともに長く働いていける環境のために、僕自身が転職する選択をしました」
男性の中にも、会社に全てを捧げるのではなく、プライベートを充実させたいという価値観を持つ人は確実に増えている。不透明な経済状況の中、男性ばかりが家計を背負うことに居心地の悪さを感じる人もいるだろう。愛知県内の住宅メーカーで働く管理職の女性(45)は、
「いま、男性が家事・育児をしやすい体制をつくる絶好の機会だと思います。先日ある大手企業の人事部長と話す機会があり、やたらと『女性が生き生きと働いていて、家事育児も両立しやすい職場です』とアピールされましたが、今やるべきは、男性のほうでしょって」
と話す。
働く女性たちが男性化することもなく、女性ばかり家事育児を担ったり、何かを犠牲にしたりすることもなく、誰もが人間らしく働き続けることができる社会へ。コロナ禍で定着したリモートワークや地方移住という選択も組み合わせて考えた先には、今より良い日々がきっとある。
編著に『変わろうとする組織 変わりゆく働く女性たち』がある静岡県立大学の国保祥子准教授(経営学)は、こう話す。
「誰もが幸せにサステナブルに働くことを模索するようになったと感じています。根っこにあるジェンダー意識をフラットにして、男性も女性も、個人も会社も社会も変わっていくといいですね。男女が対等で、それぞれが幸せであることは、次の世代にとっても、とても重要なことですから」
(編集部・古田真梨子)
※AERA 2024年3月11日号より抜粋
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