代執行訴訟 県敗訴確定 国への権限集中を疑え(2024年3月3日『沖縄タイムス』-「社説」)

 名護市辺野古の新基地建設を巡る代執行訴訟で、最高裁は県の上告申し立てを退けた。

 県敗訴が確定したことになるが、最高裁の判断に意外性はない。

 地方分権改革の際、法定受託事務に対する国の関与を強化する制度を設け、日米安保体制の運用に支障が出ないような制度設計にしたからだ。

 米軍用地特措法は、2000年4月に施行された地方分権一括法で改正された。

 知事の事務とされていた土地調書への署名押印の代行を知事から取り上げ、国の直接執行事務とした。

 収用委員会権限にも制約を加え、内閣総理大臣が代行裁決を行う制度を設けた。

 署名押印を拒否した当時の大田昌秀知事の異議申し立てに衝撃を受けた国が、自治体の権限を大幅に取り上げたのである。

 公有水面埋め立てなどの法定受託事務については、地方自治法改正で国の関与を強化し、国による代執行が認められるようになった。

 昨年9月の最高裁判決は国交相が行った裁決を重視し、県は裁決に従うべきだと指摘した。同12月の高裁判決は最高裁判決を受けて県に設計変更を承認するよう求めた。

 そして今回、最高裁は上告そのものを退けた。

 そのような司法判断が得られる巧妙な制度設計がなされていることは、一連の経過からも明らかだ。

 同時に辺野古訴訟で浮かび上がったのは、米軍基地絡みの訴訟に対する司法の政府追従の姿勢である。

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 改正地方自治法に基づいて代執行が行われるのは辺野古を除き、過去に例がない。代執行は自治権の侵害になるからだ。

 国があえて代執行という名の国の強権発動を制度化したのはなぜか。

 大田知事の代理署名訴訟に象徴されるような米軍基地絡みの対立事案が発生する可能性をも考慮して代執行の導入を図ったのではないか。

 地方分権改革の際、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に変わった、と盛んに喧伝(けんでん)された。

 今やそれも怪しくなりつつある。

 自治体に対する国の指示権を拡充する地方自治法改正案が今月1日、閣議決定されたのだ。

 「自治体は国の指示に応じる法的義務を負う」ことなどを盛り込んでいる。国の指示権の拡充は、地方自治体の自治権の縮小を意味する。

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 懸念されるのは「台湾有事」を想定した沖縄の要塞(ようさい)化と、政府への権限集中の動きが、同時並行で進んでいることだ。その影響を直接受けるのは沖縄である。

 俳人の渡辺白泉は、日中戦争真っただ中の1939年にこんな銃後の句を詠んだ。

 「戦争が廊下の奥に立ってゐた」

 太平洋戦争が始まったのはその2年後のことだ。

 国が進める離島から九州などへの避難計画には、この俳句ほどの現実味はない。

 白泉の一句を沖縄戦場化への警鐘と受け止めたい。