聴覚障害認知症がある、単身の高齢者をターゲットにして訪問販売を繰り返し、多額の現金を得たとして「準詐欺」の罪に問われた20代の兄弟。大阪地裁は3月6日、兄弟に執行猶予付き有罪判決を言い渡しました。

 ▼聴覚障害認知症の高齢者に執拗に訪問営業 計約400万円得る

 「準詐欺」とは、知識が不十分な未成年者や、判断能力が十分とはいえない状況(心神耗弱)にある人から、そうした状況につけこんで利益を得る罪のことです。

 大阪市中央区の兄・野崎永遠(とわ)被告(26)と弟・野崎宇宙(そら)被告(25)は、住宅用火災報知器の点検・設置・電池交換や、エアコン清掃などを行う訪問販売事業を営んでいましたが、2022年から去年にかけて次の犯行に及んだとして、準詐欺の罪に問われていました。

 ▽聴覚障害がある独居の高齢女性(大阪市在住)に対し訪問営業を繰り返し、エアコンの室外機洗浄や、火災報知器の取りつけなどの名目で21回も契約。総額295万円あまりの支払いを受けた。
 ▽アルツハイマー認知症を患っている独居の高齢女性(大阪市在住)に対し訪問営業を繰り返し、エアコン洗浄や、火災報知器の電池交換などの名目で6回も契約。総額94万円あまりの支払いを受けた。
 また両被告は、火災報知機の電池を新品に交換するように装って、実際には中古電池を取りつけ、4人の被害者から計2万円あまりをだまし取ったとして、詐欺の罪にも問われていました。

 ▼ターゲットをLINEグループで共有 被害女性を「ボケ」「イージー」呼ばわり…
 この事件では、実行行為は共犯の営業担当者がおおむね担っていましたが、弟の宇宙被告がそれらの担当者をまとめる「現場責任者」、兄の永遠被告が事業全体を統括する「経営者」の立場にあったとみられています。
 実際、獲得した売り上げの約3割を永遠被告、約2割を宇宙被告が得ていたとされています。
 また、永遠被告・宇宙被告らは、犯行のターゲットに定めた顧客を「凸」と称して、LINEのグループ内で共有。
 さらに、今回の事件で94万円あまりを詐取された認知症の被害女性のことは、「ボケ」「イージー」と称していました。
 共犯の営業担当者らも準詐欺と詐欺の罪に問われ、執行猶予付きの有罪判決が言い渡されています。

 ▼兄・永遠被告「営業マンに任せすぎていたところもあった」

 裁判で永遠被告・宇宙被告は起訴内容を認めたものの、2人とも “営業担当者に犯行を指示したことはない” と主張しました。

 (今年1月の被告人質問)
弟・宇宙被告「(被害女性が)認知症という認識はなかったんですが、うすうす感じてはいた」
弁護人 「だましてでも契約を取ってこいと指示したことは?」
宇宙被告「それはないです」「被害者に申し訳ないと反省しております」

兄・永遠被告「(自分は)経営者というポジションではなかったと思っています。弟や営業担当者から上がってくる相談に応じる立場」
弁護人 「営業担当者たちは兄弟の指示だと言っているが?」
永遠被告「なせそう言っているのか分からないです」

(今年2月の被告人質問)
永遠被告「営業マンに任せすぎていたところもあって、自分たちがもっと付き添っていれば…」
裁判長 「営業担当者たちが指示を聞かず、こうした事態になったという認識なんですかね?」
永遠被告「半分はそういう認識です」
裁判長 「被害者に対しては?」
永遠被告「申し訳ない気持ちです」
裁判長 「今後、訪問販売は?」
永遠被告「二度としないです」

 ▼「組織的に社会的弱者を狙って食い物にした犯行」兄に懲役4年6か月・弟に懲役3年6か月求刑

 検察官は論告で「組織的・職業的に社会的弱者を狙って食い物にした犯行で、強い非難に値する」と糾弾。

兄・永遠被告について懲役4年6か月、弟・宇宙被告について懲役3年6か月を求刑していました。

一方で弁護人は「両被告はまだ若く、人格形成は発展途上だ」などとして、執行猶予付きの判決を求めていました。

大阪地裁は6日、兄・永遠被告に懲役3年執行猶予5年、弟の宇宙被告に懲役3年執行猶予4年の有罪判決を言い渡しました。