成年後見を柔軟に使いやすく(2024年3月1日『日本経済新聞」-「社説」)

 
 

 


高齢者を支える仕組みを充実させたい

 認知症の人らに代わって財産管理などをする成年後見制度について、小泉龍司法相が法制審議会に見直しを諮問した。2026年度までに関連法の改正を目指すという。

 社会の高齢化で潜在的な需要は高まるとみられる。より使いやすい制度にしてほしい。

 成年後見制度は、判断能力が衰えた高齢者や知的障害者らが不利益を被らないよう、財産管理や福祉サービスの手続きなどをサポートする制度だ。介護保険制度と同時に、00年に始まった。

 利用者は22年12月末時点で約24万5000人いる。認知症高齢者が25年には700万人になるとの推計もあるなか、利用は一部にとどまっている。

 背景として指摘されるのは、使い勝手の悪さだ。判断能力が回復しない限り、利用をやめることはできない。家庭裁判所が選任する後見人は、司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門職が多く、報酬の支払いもずっと続く。後見人に不正行為があれば解任されるが、通常はほかの人に交代することも難しい。

 見直しでは利用にあたっての期間制や、必要性に応じて開始・終了する仕組みが議論される見通しだ。本人の状況に合わせて後見人を柔軟に交代できる仕組みも検討する。例えば遺産相続のときは弁護士が、それが終われば福祉の専門家や親族らにバトンタッチすることなどが考えられる。

 後見人をめぐっては、本人の財産を守ろうとするあまり家族との旅行など本人の希望に沿った出費が妨げられる、といった指摘もある。本人の自己決定を必要以上に制限することがないよう、同意要件や権限の範囲なども検討する。

 もちろん、成年後見制度には悪徳商法などから本人を守るといった重要な役割がある。ただ、制度の柔軟性が乏しければ、使うべき人をかえって尻込みさせてしまう面もあるだろう。より身近な制度になるよう、幅広く議論してほしい。