パートナーシップ“後進”の福島県 消極姿勢に当事者から憤り(2024年3月5日『毎日新聞』)

福島県内の自治体で初めて導入した伊達市のパートナーシップ制度のガイドブック=福島県南相馬市で2024年2月21日午後0時9分、尾崎修二撮影

福島県内の自治体で初めて導入した伊達市のパートナーシップ制度のガイドブック=福島県南相馬市で2024年2月21日午後0時9分、尾崎修二撮影

 性的少数者らのカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」を独自に導入する福島県自治体が現れつつある。今年1月に伊達市が初めて導入したことで「空白県」状態は解消されたが、そのほかで導入に向けた動きが具体化するのは福島市南相馬市に加え、富岡町の計3市町程度。県も消極姿勢を崩さず、当事者らは「切実な状況を分かってほしい」と憤りを募らせている。

 「自治体単独ではなく、より広いレベルで導入しないと『効果がないのでは?』と考えてるのは確か。ただ、県などを見ると当面『動き』はなさそうで、市民のために動かないのはいかがなものか」

 2月8日、関連条例を6月市議会で改正し市パートナーシップ制度を導入する方針を示した福島市の木幡浩市長は、報道陣の取材に理由を答えた。昨年6月の記者会見では「個別の自治体で導入しても効果が薄い。カバーできる人口に限りがあり、国や都道府県がまず動くべき」と慎重姿勢を示していたが、消極的な県の動きにしびれを切らした格好だ。

 パートナーシップ制度は法的な効力はないものの、カップルがお互いを「パートナー」だと申請すると行政が認定証を発行して公営住宅への入居など一定の行政サービスを受けることができ、生命保険が受け取りやすくなるなどのメリットも期待されている。

 公益社団法人「MarriageForAllJapan――結婚の自由をすべての人に」(東京)によると、パートナーシップ制度は3月1日時点で全国20都府県と376市区町村で導入済み。個別の市町村単位での導入の動きが先行しているが、県のような広域自治体が取り入れれば制度のない市町村で暮らす人々にもメリットが及ぶ。

 都道府県が導入すると、導入していない市町村でも都道府県のパートナー証明書が発行される。引っ越しても証明が引き継がれて行政サービスの対象になるなどメリットがあり、居住場所によって生じる不平等が減る。自治体によって制度の内容は異なるが、22年に導入した栃木県では制度がない市町も対象となり、17中核医療機関で家族として面会することなどができるようになった。また、独自に導入していない市町も県と連携し、県の証明書があれば市営墓地の利用や市営住宅への入居などができる。 2月8日には県男女共同参画審議会も「県が中心となって方向性を示すべき。24年度に制度導入に向けた検討に着手してほしい」として、パートナーシップ制度の導入を求める意見をとりまとめた。しかし、内堀雅雄知事は2月15日の会見で「審議会の意見を受け止めつつ、国における動向や住民に身近な行政サービスを提供している市町村の意向などを丁寧にうかがってまいる」と答えるにとどめた。

 男女共生を担当する県のある男性職員は、所属する県の対応を疑問視する。「市や町がパートナーシップ制度の導入などに取り組む中で、広域自治体として申し訳ない思いだ。トップの知事が『やる』と言えば動き出すのに一向にそうならないし、庁内では職員が上司に意見を進言できる雰囲気もない。(知事が話す)『誰もが暮らしやすい県づくり』を本当に進めるなら、性的マイノリティーの当事者の声も積極的に聴きに行ってほしい」と憤った。

 性的少数者の権利獲得に取り組む「多様性を認め合ういわき市を目指す会」で活動する10代の当事者=いわき市=は「市に署名を提出しても『検討中』で、この状況の中で『県も』かという思い。差別的な視線はいまだにあり当事者らがなかなか声を上げにくい事情もある中で、まずは当事者の現状を理解し、県や導入していない市町村に制度が広まっていってほしい」と話した。【岩間理紀、尾崎修二、松本ゆう雅】

知事らは「自分ごと」として考えて

「郡山にじいろサークル」を運営する広瀬柚香子さん=福島県矢吹町で2024年2月29日午後7時50分、岩間理紀撮影

 福島県内に住む当事者はパートナーシップ制度導入が進まない今の状況をどう見るか。自身は性自認を男女の枠組みに当てはめない「ノンバイナリー」で、性的少数者らの居場所づくりを進める「郡山にじいろサークル」を運営する広瀬柚香子さん(27)に聞いた。【聞き手・岩間理紀】

 ――当事者にとってパートナーシップ制度が持つ意味を教えてください。

 そもそもこの国は性的少数者がパートナーと結婚できない国であり、その上で最低限のパートナーシップ制度さえ導入されていないのが現状だ。性的少数者の権利を巡るこれまでの訴訟などを見ても、公的に関係が認められていなければ公営住宅にはパートナーと一緒に住みたくても住めず、年を重ねて病気になっても病院で家族として立ち会いできないことも。お葬式にも出ることができるかといった問題が現実に発生している。自分の将来を考えてもパートナーシップ制度が導入されていれば安心感があり、精神的にも「世の中に認められている」と感じられることには大きな意味がある。

 ――制度導入に後ろ向きな県に思うことはありますか。

 純粋に「どうして動かないんだろう?」という思い。内堀雅雄知事をはじめ、県や導入に後ろ向きな人たちには「自分ごと」として考えてほしい。もし自分の子どもが性的少数者だったら、その子どもに愛している人がいて、一緒に福島県で暮らしたいと思っているのに何も保証もなく守られず、認められることもなかったらどう感じますか。

 知人が他県の自治体でパートナーシップ制度の認定を受けましたが、そこも県として制度を導入してはいませんでした。認定を受けた自治体から別の自治体に引っ越すことになったけれど、それにはパートナーシップを一度解消しなければならず「無理矢理、離婚させられた気になった」と。福島の場合も同様で、そんな県ならもう他のところへ移ろうと考える人も実際存在している。いくら自治体が頑張ったとしても限りがあり、県として導入する必要性がある。

 ――パートナーシップ制度を巡り訴えたいことはありますか。

 私は矢吹町出身で矢吹町にもパートナーシップ制度は導入されていません。通っていた中学校は1学年160人ぐらいで、卒業式には集まって町長さんのお祝いの言葉を聞いた。それぐらいの、本当に声の届く距離に私のような当事者はいるんです。好きな人が同性であるだけで本当は得られたはずの権利がない。そうした現実の中にいる一人一人の当時者のことをもっと考えてみてほしい。

ひろせ・ゆかこ

 福島県矢吹町出身。2018年に性的少数者のための「郡山にじいろサークル」を立ち上げる。20年にオンライン開催した「第1回ふくしまレインボーマーチ」では実行委員長を務め、現在は共同代表。

 

ふくしまレインボーマーチ2023