疑惑が取り沙汰された議員をただす政治倫理審査会(政倫審)に現職首相として初めて出席した岸田文雄首相は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件について何を語ったのか。29日の衆院政倫審は注目を集める中で開かれたが、首相はこれまでの国会答弁を繰り返すばかり。いつから裏金づくりが始まったかや、何に使っていたか、関係議員の処分など、真相究明、再発防止につながるやりとりはあったのか。(井上峻輔)
◆語ったのは既に公表されていることばかり
首相は冒頭の弁明で「党総裁として自ら出席し、説明責任を果たすことにした。前例にとらわれないという私の決意だ」と意気込んだ。だが、その言葉とは裏腹に、語られたのは、党の聞き取り調査の報告書など既に公表されている内容がほとんどだった。
3日前の26日の衆院予算委員会に続いて首相と対峙(たいじ)した立憲民主党の野田佳彦元首相は、裏金づくりに関与した議員の処分について「刑事処分にもならない、説明責任を果たさない、税金も払わない、処分もない。何もないんだったら同じことがまた起きる」と追及した。首相は「説明責任の果たし方と事実を踏まえて判断していく」と曖昧な答弁に終始した。
◆攻め立てられ「在任中のパーティーは自粛」
野田氏は「首相が2022年に7回もパーティーをやっている。政治資金パーティーを勉強会と言い換えるのはごまかしだ」と重ねて問いただしたが、首相は「就任前からの勉強会を続けている」と予算委と同じようにはぐらかして正当化した。野田氏から首相在任中のパーティーをやらないよう何度も迫られ、ようやく首相は「結果的に在任中はやることはない」と渋々応じる格好となった。
岸田派の政治資金収支報告書の不記載に関しても、公表されている2018年より前に不記載があったかどうかを問われたが「資料がないので確認できていない」とかわし続けた。真相究明に及び腰な対応は、不記載を「事務的なミスの積み重ね」と過小評価して詳細な説明を拒んできた予算委の時と変わらない。
◆「自民は危機対応ができないドタバタ組織」
安倍派の裏金づくりが始まった時期や、安倍晋三元首相が裏金をやめようとしたが継続された経緯にも焦点が当たった。首相は「少なくとも10年以上前からと(党の)報告書に記載されているが、ご指摘の点は確認できていない」と述べるにとどめ、党としての調査が進んでいないことを露呈するばかりだった。
日本維新の会の藤田文武幹事長は「危機対応ができない自民党というドタバタの組織が日本国を動かしているのは悲劇だ」と痛烈に批判。首相は「自民党のガバナンスが問題だということは当たらない。結果が出たなら一致結束する方針はわが党の良き伝統だ」と反論してかみ合わず、最後まで実のある答弁は得られなかった。
政治倫理審査会 ロッキード事件を契機として1985年に衆参両院に設置された。本人の申し出か、委員の3分の1以上の申し立てと過半数の賛成で開かれる。出席に強制力はなく、2009年に当時の鳩山由紀夫民主党代表の政治資金虚偽記載問題で開催を議決したが、鳩山氏は出席しなかった。原則非公開で、本人の了解があれば公開される。出席委員の3分の2以上による議決で登院自粛などの勧告ができる。証人喚問と異なり、発言は偽証罪に問われない。