生煮えの政治改革(2024年3月4日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 「ジャーナリズムは歴史の最初の下書き」と言った人がいる。多角的に歴史を捉えるには、多くの下書きがあった方がいい。衆議院が正副議長を務めた人の回顧談をまとめる事業に取り組んでいる。下書きの貴重な資料になるだろう

◆昨年末、最初の対象者として河野洋平元議長の口述記録が公開された。その中で1994年、自民党総裁として関わった政治改革について振り返っている。リクルート事件などをきっかけに深まっていた政治不信を払拭するため、何としても形にしなければならない問題だった

◆難航の末に結実したのがきょうで成立から30年となった改正政治改革法。さまざまな抵抗を受けながらも小選挙区比例代表並立制政党交付金制度、企業・団体献金の制限などが実現したが、河野氏は「生煮えというか、本当に完全に議論し切った結論じゃなかった」と悔やんでいる

◆改革の狙いは腐敗撲滅が目的だったが、選挙制度のあり方に主眼が移っていった。成立した後も「政治とカネ」の問題が続く現状に、河野氏は「麻痺(まひ)状態」と苦言を呈した上で「無限の改革をやっていく気がないとできない」と指摘する

自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で衆院政治倫理審査会が開かれたが、生煮えどころか、まだ火もついていない。無限の改革を続ける覚悟はあるのか。(知)