米時間の10日夜に発表される米アカデミー賞の…(2024年3月1日『毎日新聞』-「余録」)

放射線測定器を使って第五福竜丸の船体を調べる大阪市医科大学の西脇安博士(奥右)と妻のジェーンさん(手前)=静岡県焼津市で1954(昭和29)年3月17日、写真部員撮影

 


映画館に設置された「オッペンハイマー」の広告=米南部バージニア州で2023年8月5日、西田進一郎撮影


 米時間の10日夜に発表される米アカデミー賞の有力候補、米映画「オッペンハイマー」と視覚効果賞部門にノミネートされた「ゴジラ―1.0」。二つの映画をつなぐのがきょう70年を迎える「ビキニ事件」だろう

▲米国がマーシャル諸島ビキニ環礁で広島型原爆の1000倍の威力という水爆実験を行ったのが1954年3月1日。周辺で操業していた「第五福竜丸」など多くの漁船や強制移住させられた島民らが「死の灰」を浴びた

▲「原爆の父」、オッペンハイマー博士は広島、長崎への投下後「手が血で汚れている」と核開発から距離を置き、水爆開発に反対した。公職を追われたのはビキニ実験の翌月だ。水爆実験で安住の地を奪われたという設定の初代ゴジラは同じ年の11月にデビューした

▲「雪のような粒子はやむことなく量を増しながら降っている」と島民が記録している。「光と轟(とどろ)きが雪に化けて。太平洋の真中から。ビキニ。島の名でない新しい地獄の門から」。草野心平の詩「ビキニ微塵」である

▲人類滅亡まで「残り90秒」。ロシアのウクライナ侵攻後、過去最短を記録した「終末時計」の針は今年も同じ位置にある。米国はロシアの宇宙への核配備計画を疑っている

▲「水爆と云(い)う怪物をお前が爆発さすから俺もやるとお互いに強力な物を次々と造り爆発させたら、第二、第三の僕達が生まれて来る事は必ず有ると思います」。事件の半年後に亡くなった第五福竜丸の久保山愛吉さんが手記に残した言葉が重く響く。

 

解説

ダークナイト」「インセプション」「TENET テネット」など話題の大作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を下敷きに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く。

第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。

オッペンハイマー役はノーラン作品常連の俳優キリアン・マーフィオッペンハイマーの妻キティをエミリー・ブラント原子力委員会議長のルイス・ストロースをロバート・ダウニー・Jr.が演じたほか、マット・デイモンラミ・マレック、フローレンス・ピュー、ケネス・ブラナーら豪華キャストが共演。撮影は「インターステラー」以降のノーラン作品を手がけているホイテ・バン・ホイテマ、音楽は「TENET テネット」のルドウィグ・ゴランソン。第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞助演男優賞、脚色賞ほか、同年度最多となる合計13部門にノミネートされた( 映画.com)。

2023年製作/180分/アメリ
原題:Oppenheimer
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年3月29日

オフィシャルサイト

解説

山崎貴監督が手がけた「ゴジラ-1.0」のモノクロ映像版。タイトルの読みは「ゴジラマイナスワン/マイナスカラー」。

特撮怪獣映画の金字塔「ゴジラ」の生誕70周年記念作品であり、日本製作の実写版ゴジラ映画として通算30作目となる節目の作品として生み出された「ゴジラ-1.0」。2023年11月に公開された日本はもとより、同年12月にはアメリカでも公開され、全米歴代邦画実写作品の興行収入1位を記録するなど大ヒットを記録した同作の映像をモノクロ化。山崎監督が目指した「怖いゴジラ」の原点ともいえる1954年の第1作「ゴジラ」を彷彿させる世界観を体感することができる。

戦後の日本。戦争によってすべてを失い、文字通り「無(ゼロ)」になったこの国に、追い打ちをかけるように突如ゴジラが出現し、その圧倒的な力で日本を「負(マイナス)」へと叩き落とす。戦争から生きて帰ってきたが、両親を失い孤独の身になった青年・敷島は、焼け野原となった東京で、赤ん坊を抱えた若い女性・典子と運命的な出会いを果たす。彼ら戦争を生き延びた名もなき人々が、ゴジラに対して生きて抗う術を探っていく。

2023年製作/125分/日本
配給:東宝
劇場公開日:2024年1月12日

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