今年は医療と介護、障害福祉サービスの3報酬を同時に見直す「トリプル改定」の年に当たった。このうち介護報酬について、厚生労働省は全体で1・59%引き上げる方針を公表し、職員の処遇改善を優先事項とした。ただ、業界の人手不足は深刻化している。賃上げをどう持続させ、膨らむ費用を誰がどう負担するかの議論には終わりが見えない。
厚労省の調査によると、令和4年、医療・福祉の分野で離職する人の数が、働き始める人に比べて上回る「離職超過」が起きた。一方で、同省は団塊ジュニア世代が高齢者となる2040(令和22)年度に必要となる介護職員は約280万人と試算する。令和6年度の介護報酬改定では、介護現場の人材確保が最大の論点となった。
人手不足の背景には、賃金の問題があるとされる。介護職の平均月収は全産業平均に比べ約7万円低い。そこで今回、介護報酬は全体で1・59%引き上げ、事業所経営の安定や職員の処遇改善を期待した。賃金のベースアップ(ベア)も、6年度2・5%、7年度2・0%が可能な措置を行う。
一方で連合は今年の春闘の闘争方針でベアを3%以上とし、年齢や勤続年数に応じて毎年賃金を引き上げる定期昇給と合わせて5%以上の賃上げを目指している。介護業界では今回の介護報酬改定をもってしても他産業との賃金格差を埋めることができないだけではなく、その差が広がる懸念すら生まれている。
ひとつ気になるデータもある。介護労働安定センター(東京)の調査では、離職理由として「職場の人間関係に問題があったため」「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」をあげる人が、「収入が少なかったため」とした人の数を上回っている。介護の担い手を確保するには、賃上げだけでなく、適切な職場環境づくりも急務となっている。