マグロやハマチ、サーモンといった「王道ネタ」だけでなく、創作寿司や麺類・スイーツなど多彩なサイドメニューが安価で楽しめるのが回転寿司の魅力の一つ。しかし、ヒット商品として定番化するものがある一方で、自信を持って開発したものの日の目を見なかった商品もあるという──。 【写真】今ならSNS映えする?くら寿司の正式メニューに採用されなかった『ラーメン押し寿司』『お好み焼き寿司』『きつねうどん風にぎり』
全国に539店舗を展開(2024年2月29日時点)、3大回転寿司チェーンの一角を占める「くら寿司」も客を飽きさせない商品づくりに余念がない。旬のネタを活かした季節商品だけでなく、時折「ぶっ飛んだ」創作寿司が登場するのが同社の特徴でもある。
“寿司とラーメンを一体化してしまおう”
だが、同社社員が創意工夫を凝らして送り出した商品が時に「大コケ」することもあった。
そのひとつが、2011年に開発された「ラーメン押し寿司」だ。 開発を担当した、くら寿司商品開発本部長の松島由剛さんが語る。
「美味しいとは当然として、回転寿司の枠を超えて“面白い商品”を作るのがくら寿司のモットー。当時、ご家族連れに喜んでいただけるメニュー開発のためアンケートを取ると、お寿司とラーメンの人気が高かった。そこで“寿司とラーメンを一体化してしまおう”という単純な発想で『ラーメン押し寿司』を思いつきました。また、ラーメンはコアなファンが多いので、“くら寿司がまたなにかやってきた”と話題になるだろうとの思いもありました」
試行錯誤の末に完成した「ラーメン押し寿司」は、細かく刻んだ麺にチャーシュー、ネギ、ゴマ、メンマを加えてシャリの上に乗せ、甘たれとコショウで味付けして、棒状に押し込んだもの。まるでラーメンを食べているような不思議な食感もあり、試食スタッフに「おいしい」「発想が面白い」と絶賛されたことから、松島さんは「これはイケる!」と大きな手応えを感じたという。しかし――。
「試験販売した店舗では、お客様から『おいしいけど、わざわざ食べようと思わない』といったご意見が多数寄せられました。お子様には喜んでいただけると思ったのですが、結果は厳しく、正式なメニューにはなりませんでした。私もちょっと調子に乗り過ぎたか……と反省の日々でした」
「お好み焼き寿司」「きつねうどん風にぎり」「TKG・卵かけご飯寿司」
そう振り返る松島さんは、もともとは和食の料理人。たまたま訪れたくら寿司で「味とクオリティの高さに衝撃」を受け、中途入社したという。
「くら寿司に入社後、配属された商品開発部門で考案した『鯛のねぎ塩たれ寿司』が大当たりしました。その勢いで『ラーメン押し寿司』を手掛けたものの大惨敗。くら寿司にきてくださる“お客様目線”が欠けていたと反省しています」
くら寿司の開発チームは年間3000もの新商品を試作。正式に採用されるのは1割という狭き門だ。日の目を見なかった商品は少なくない。志半ばで頓挫した他の「大コケ商品」について松島さんが振り返る。
「その後、シャリの上に素揚げしたお好み焼きを乗せた『お好み焼き寿司』などを開発しましたが、これもNG。ならばと、きつねうどんの出汁のジュレに天かすとネギを加えた『きつねうどん風にぎり』や、シャリと温玉を組み合わせた『TKG・たまごかけごはん寿司』を考案しましたが、試験販売でまったく売れない。途方に暮れました(苦笑)」
ボツの中から“復活”する商品があるかも?
客を喜ばせたい、満足させたい――商品開発の現場は、そんな一心で「ぶっ飛んだ」メニュー開発に苦心してきたのだろう。
ここで、くら寿司広報・マーケティング本部広報部の辻明宏さんに聞くと、こんな答えが返ってきた。
「世に出るのが少し早かったのかもしれません。今売ったらもしかしたら……という商品は結構あります、
『ラーメン押し寿司』や『お好み焼き寿司』は今なら“SNS映え”する可能性もある。今後はボツの中から“復活”する商品があるかも」――。
前出・松島さんは「回転寿司の粋を超えて面白い商品を作る」――というが、開発商品の9割はボツ。「年間3000近く考案される商品に“ボツ”があるのは当然」と笑うが、近年、一部店舗で提供される「SUSHIクレープ」など従来の回転寿司の範疇を超えた、「くら寿司」ならではの遊び心溢れる商品開発は止まらない。
「『ラーメン押し寿司』や『お好み焼き寿司』みたいなボツ商品もありましたが(苦笑)、お客様に『驚いて』いただき、最後は『美味しかった』『ありがとう』と言ってもらえるのが私たちの目標。感動と驚きのある商品の創造がくら寿司の商品開発の原点なので、我々も楽しみながらやっています」(松島氏)
失敗を糧とし、今もさまざまな新商品が開発されている。
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