持続的な成長を促す企業統治に踏み込め(2024年3月3日『日本経済新聞』-「社説」)

 

第一生命HDは福利厚生代行のベネフィット・ワンの買収で成長戦略を加速させる

 年金基金や資産運用会社は企業価値の向上へ経営に様々な働きかけをすべきである。そうした原則を明文化した「日本版スチュワードシップ・コード」が2014年2月につくられてから10年が経過した。これを一つの節目ととらえ、株主と企業がさらに歩み寄り、成長の礎を固めたい。

 「スチュワードシップ・コード」は15年策定の「コーポレートガバナンス企業統治)・コード」とあわせ、市場の規律にもとづく経営改革を推進する力だった。まだ歴史は浅く、企業社会に根づいたとは必ずしもいえない。改革の深化が必要である。

 ガバナンスの要となる企業の取締役会は、かたちの上では過去10年で大きく変わった。

 かつて社内の生え抜きで占められた取締役会は、上場大企業に限れば95%超で人員の3分の1以上を社外人材が占めるようになった。株主が外部の視点を経営に反映させるよう求め、企業が応じた結果とみることができる。

 しかしガバナンス改革の実態は満足すべきものではない。経営の知見に乏しい人材が、数合わせで社外取締役に選任される事例が散見される。株主もそれを許容し、配当や自社株買いの増額を優先する場合がある。

 株主還元が重視されるあまり、人や設備、研究開発への投資が抑えられ、成長の芽はいまひとつ大きく育たなかった。過去10年で日本の上場大企業の純利益は約2倍になったが、売上高は3割強しか増えていない。必要な支出を削り還元の原資となる利益を確保した例もあるのではないか。

 そうだとすれば、今後求められるのは、より長期の成長を重視するガバナンスだ。株主と経営陣は対話を通じて、有望な投資先を見つけ行動すべきだ。

 第一生命ホールディングス(HD)は、他社が買おうとした福利厚生代行会社に、より高値の提案を出して買収を成功させた。第一生命HDの成長戦略に対する同社株主の理解と後押しがなければ、難しかったに違いない。

 東京証券取引所が企業に「資本コストや株価を意識した経営」を求めて、ほぼ1年がたつ。企業が発表している対応策は、株主との対話を重視するものが目立つ。

 株主にとっては企業との距離を一段と縮める好機だ。長期の視点に立って、持続的な成長戦略をともに描いてほしい。