自衛隊の多国間共同訓練、2006年比で18倍に増加…有事想定「戦術・戦闘訓練」が6割超(2024年3月3日『読売新聞』)

 自衛隊が昨年参加した多国間の共同訓練が56回を数え、現在の運用体制になった2006年比で18倍に増加したことが読売新聞の分析でわかった。有事などを想定した「戦術・戦闘訓練」の比重が増え、6割を超えた。中国が軍事力を膨張させ、北朝鮮がミサイルの発射を続ける中で、自衛隊がインド太平洋地域の国々と連携し、抑止力を強化している状況が浮き彫りになった。

ボートで徳之島に上陸する陸上自衛隊(手前)と米海兵隊(奥)の共同訓練(2023年3月3日、鹿児島県徳之島町で)
ボートで徳之島に上陸する陸上自衛隊(手前)と米海兵隊(奥)の共同訓練(2023年3月3日、鹿児島県徳之島町で)

 自衛隊は06年に統合幕僚監部を新設し、陸海空3自衛隊を一体運用する体制を作った。読売新聞は06年以降、自衛隊が公表した訓練や演習のデータを調べた。

 06年の多国間訓練は3回で、その後は2~10回で推移。海自の護衛艦が中国艦艇から射撃レーダーを照射され、緊張が高まった13年に20回を超えた。中国の空母が初めて太平洋に出た16年の翌年に30回となり、23年には56回となった。

 一方、米朝首脳会談で一時的に緊張が緩和された18年や、コロナ禍で訓練が制限された20年は減った。

 高度な連携が必要となる「戦術・戦闘」の項目を含む訓練は10年代から増え、23年は全体の64%を占めた。

 23年の訓練56回のうち、約6割が海で行われていた。高い練度が必要となる潜水艦を探知する訓練も12回あり、シーレーン海上交通路)の安全確保を重視する傾向がうかがえた。訓練場所は東シナ海日本海など日本周辺が18回、東南アジアが10回、南シナ海が4回だった。

 日本は、訓練を円滑に行うために食料や燃料を融通し合う「物品役務相互提供協定( ACSAアクサ )」を1996年に米国と結び、2010年以降、豪英加仏印独とも締結した。米国は23年の訓練のうち50回に参加。米国と同盟を結ぶ豪州が23回、韓国が16回と続いた。

 元海将補で笹川平和財団河上康博・安全保障研究グループ長は「多国間の訓練は『自由で開かれたインド太平洋の実現』など共通の価値観を重視する国が一度に参加するため、中国などへの強いメッセージになる。米国の軍事力が相対的に低下する中、今後も増えるだろう」と指摘する。

 ◆ 共同訓練 =自衛隊が国内外で外国の軍と行う訓練。遭難した船舶の捜索や人道支援物資の輸送など協力が容易な分野から、潜水艦の探知や弾道ミサイルの迎撃といった高度な連携が必要なケースまで内容は幅広い。自衛隊は1955年度から米国と2国間訓練を始め、相手国を拡大してきた。多国間の共同訓練も増やすことで、より重層的な国際連携を目指している。