▼政策保有株 純粋な投資目的ではなく、取引先との関係維持や強化を狙って企業が保有する株式。取引先と相互に株式を保有する「持ち合い」の形をとる場合もある。日本の上場企業の間では1960年代ごろから広まった。
企業が、取引先との関係維持などを目的に持つ「政策保有株」を売却する動きが目立ってきた。売却で得た余裕資金を有効活用し、企業価値向上につなげることが重要になる。
政策保有株は、顧客企業との円滑な取引を目的に、長期保有を前提に持つものだ。配当や値上がりを狙った「純投資」とは区別して、保有状況を開示することが企業に義務づけられている。
日本特有の慣行で相互に株を持つことが多く、「持ち合い」とも呼ばれる。戦後の財閥解体後に、株を買い占める「乗っ取り」を防ぐために始まったとされる。
株式の持ち合いが広がれば、企業は買収にさらされる危険が減るため、長期的視点での経営がしやすくなる。過去の高度成長期などには、日本企業の発展に一定程度、寄与したと言えるだろう。
野村資本市場研究所によると、上場企業の株式に占める政策保有株の比率は、1991年度末に50・7%に上った。しかし、株式市場で外国人の投資が増えるにつれ、批判の声が強まった。
政策保有株の株主は、取引関係の維持が優先のため、会社側の提案には反対せず、株主による経営監視の機能が形骸化して「なれ合い」が生じる。投じた資金が有効に使われていないことになる。
このため、政府と東京証券取引所は2015年以降、成長戦略の一環として、政策保有株の縮減を企業に促した。さらに昨年春、東証が資本の効率を高める経営を上場企業に要請したことで、削減に拍車がかかっている。
トヨタ自動車は昨年11月、グループのデンソー株について、一部売却を決めた。トヨタグループの豊田自動織機とアイシンもデンソー株を売却し、デンソー側も2社の株式を売る方針だという。
トヨタは、売却で得た資金を電気自動車(EV)事業に充てるなど、有効活用するとしている。
上場企業の株式に占める政策保有株の比率は、今年度末に11・5%に下がる見通しだ。国内の株価が好調なのは、資本効率を高める企業の動きが一因とみられる。
持続的な成長に向け、政策保有株の売却を研究開発や人材への投資につなげることは大切だ。
一方、外資系ファンドなどの「物言う株主」は、企業の発展より、短期的な利益還元を要求することも多い。経済安全保障上、重要な技術を持つ企業が買収されるリスクが高まる恐れもある。
政府は政策保有株の縮減で生じる悪影響にも目を配るべきだ。