元テレ朝法務部長の西脇亨輔弁護士が指摘
日本テレビは15日、昨年10月期に放送した連続ドラマ『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子さんが1月29日に急死したことを受け、「社内特別調査チーム」の設置を発表した。訃報から半月が経てようやく始まる調査について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「最終回終了後に起きたこと」がポイントだと指摘した。
【実際の投稿】「ごめんなさい」…亡くなる前日、芦原さんの最後のポスト
調査チームがこれから何を検証しなければならないか。ポイントの1つ目は、やはり「ドラマ制作の中での原作者の立場」だろう。
芦原さんは亡くなる直前のブログで、原作に忠実にドラマ化するという約束だったのに、毎回、原作を大きく改編した脚本が提出され、ついに最終2話は自ら脚本を書かざるを得なくなったと明かしている。原作者が大きな負担を強いられた経緯は、当然、明らかにされなければならない。
しかし、それだけではない。もう1つ、今回の調査で絶対に無視されてはならない点がある。それは「番組放送が終わった後」に起きたことの検証だ。
芦原さんが亡くなったのはドラマの制作中ではない。ドラマの最終回が放送された昨年12月24日から1か月以上過ぎてからだ。では、その間に何があったのか。それは脚本家と原作者のSNS上での論争だ。
このドラマの脚本家・相沢友子氏はドラマ最終回当日の昨年12月24日、自分が最終2話の脚本を書けなかったことについてインスタグラムに次のように投稿した。
「最後は脚本も書きたいという原作者たっての希望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることになりました」
番組制作の仕事=「放送が終わったらおしまい」ではない
まるで、原作者が突然に「脚本を書きたい」と言い始めたかのような投稿内容だった。対して芦原さんは今年1月26日、最初から原作者が脚本を書く場合があると約束していたことなどをSNSで説明、ネット上で議論が過熱した。芦原さんが亡くなったのはその後だった。
芦原さんの死の要因には番組制作中のさまざまな出来事もあったと思う。しかし、番組終了から1か月以上後に亡くなったことを考えると、脚本家との間に巻き起こったSNS上の論争の過熱が直近の原因だったのではないか。そしてここで、大きな疑問が浮かぶ。
なぜ、日本テレビは芦原さんが反論するまで、相沢氏の投稿を放置したのか。
通常、テレビ局は番組制作の内幕を当事者が外部に明かすことを避けようとするし、議論が起きたら双方を説得して矛先を収めてもらう。相沢氏がドラマ出演者とのツーショット写真を添えて出した問題の投稿をドラマのプロデューサーが目にしていないとも思えない。それなのに、その投稿を放置していた。結果、芦原さんは約1か月後、反論せざるを得なくなってしまった。この間、番組制作サイドは一体何をしていたのか。
相沢氏は芦原さん死去後の今月8日、インスタグラムでこうコメントした。
「芦原先生がブログに書かれていた経緯は、私にとっては初めて聞くことばかりで、それを読んで言葉を失いました」
これが事実であれば、日本テレビ側は相沢氏の投稿を見た後も、芦原さんがブログでしたような説明を相沢氏に対して行わず、SNS上の応酬を見物していたことになる。あるいは、相沢氏の投稿に賛同してあえてそのままにしていたのか。
本来なら相沢氏の投稿後すぐに、プロデューサーが相沢氏に経緯を説明して投稿を削除してもらったり、番組として事情を説明する発信をしたりして、事態を火消しすべきだった。
それなのに芦原さん自身にSNS上などで反論をさせ、原作者と脚本家という個人を無防備なまま過熱しやすい議論の真っただ中に放置した。それが危険であることはフジテレビ系『テラスハウス』の出演者が亡くなった事件で皆、分かっていたはず。日本テレビが今回犯した極めて深刻な失敗の1つはこの「放置」だったのではないか。
番組制作の仕事は放送が終わったらおしまいではない。終了後も火種が残っているなら、火が消えるまでクリエイターの一人ひとりに向き合い続けるのが制作者の仕事のはずだ。クリエイターは使い捨てなどではない。
果たして、日テレの「社内特別調査チーム」は最終回放送終了後のことも検証し、悲劇の本質を掘り下げることができるのか。表面だけの調査では許されない。これは、人の命の問題だ。(元テレビ朝日法務部長、弁護士・西脇亨輔)
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。
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フジ 芦原妃名子さん急死の問題に言及 「ミステリという勿れ」の脚本家と原作者は「良好な関係」(2024年2月16日)
フジテレビは16日、東京・台場の同局で定例社長会見を行い、昨年10月期に日本テレビでドラマ化された漫画「セクシー田中さん」の芦原妃名子さん(享年50)が急死した問題について、見解を述べた。
芦原妃名子さんの訃報は1月29日に伝えられた。芦原さんは1月26日に更新した自身のXで、脚本をめぐり局側と折り合いがつかず、自らが9、10話の脚本を書くことになったとして視聴者に向けて謝罪。当初提示していた「漫画に忠実に描く」などの条件が反故になっていたと明かしていた。
港社長は、芦原さんの訃報に「本当に大変驚いた。この場を借りて、心より哀悼の意を表したい」と追悼した。
小説や漫画の映像化にあたり、専務取締役の大多亮氏は「一番肝心なのは、やはり原作者の方と、それから出版社、脚本家、制作者、これは主にプロデューサーになるかと思うが、その信頼関係にあるというふうに思っている。当然、原作へのリスペクトっていうのは最大限に持たなければいけない。その中で、映像化にあたっては、ドラマならではの魅力を引き出したいというふうに制作サイドは思うことはある」と語った。
「このケースに関してはオリジナル脚色と違う。脚色という分野。脚色していくわけだから、原作者の方への理解も当然必要になると思う。それでも原作者の方のイメージと違う場合もあるだろうし、一方で、原作者の方が感心するような脚本や演出も中には当然ある。お互いがWIN-WINの関係であれば最も幸せな作品になるが、全てがそうでないこともあるかとは思う。その場合、やはり原作者と制作者、出版社の方の信頼関係、そして丁寧な説明、すり合わせを地道にやっていくしかないというふうに思う。今回のことは、原作の映像化にあたってとても大きなテーマだと思うので、弊社の作り手たちとしっかりこのテーマを共有して映画やドラマ制作にあたっていきたい」と語った。
なお、2022年1月期に同局でドラマを放送し、昨年9月には映画を公開した「ミステリという勿れ」は、「セクシー田中さん」と同じく小学館出版の漫画が原作で、相沢友子氏が脚本を務めていた。原作漫画との相違に関して、当時視聴者や観客から指摘があったか聞かれると、大多氏は「特に大きいのは聞いていない。感想としてはあったのかもしれないが、現場、それから原作者、脚本家の方から制作現場で、そういうことで何か齟齬(そご)があったというのは聞いていない」とコメント。詳細については把握していないとしつつも「脚本家と原作者は良好な関係だったと聞いている」と話した。
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「原作者へのリスペクトは最大限に」 フジテレビが芦原妃名子さん死去巡り表明(2024年2月16日)
日本テレビがドラマ化した漫画「セクシー田中さん」の原作者、芦原妃名子さんが死去したことを巡り、フジテレビの港浩一社長は16日の定例記者会見で「心より哀悼の意を表したい」と述べた。また、同席した大多亮専務は「原作者へのリスペクトは最大限持たなければならない」と話した。
【時系列で見る】芦原さんとドラマ「セクシー田中さん」に関する経緯
芦原さんは、ドラマ制作側が提示した脚本や登場人物の設定が原作とかけ離れていたことに心労を募らせていたとみられる。フジテレビでも小説や漫画を数多く映像化しており、大多専務は原作者、出版社、脚本家、プロデューサーらの信頼関係が重要だとした上で、「今回のことは原作の映像化にあたり、とても大きなテーマ。しっかりこのテーマを共有して、ドラマや映画制作にあたっていきたい」と述べた。
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