自民党の派閥の政治とカネの問題をめぐり、衆議院の「政治倫理審査会」に岸田首相がマスコミ公開の場で、出席する意向を表明しました。 岸田首相は決断した理由について「与野党の駆け引きの中で、開催に見通しが立たないことは極めて残念」としたうえで、「私自身説明責任を尽くしていきたい」と述べました。そのうえで、完全公開での出席に慎重な姿勢を見せていた他の5人の議員に対して、応じるよう促しました。
岸田首相の出席表明を受け、安倍派の事務総長だった塩谷氏ら5人の議員も、完全公開で政倫審に出席する意向を固めました。 岸田首相が出席するという異例の展開となりましたが、これまでの経緯をまとめ、詳しく解説します。
■公開か、非公開か 「政治倫理審査会」とは?
いま、焦点となっている「政治倫理審査会」ですが、この審査会は、議員の政治的、道義的責任について審査し、勧告を行う機関です。原則は“非公開”ですが、議員本人が要望し、審査会で決議されれば「公開」で行われます。 この審査会に、自民党の松野前官房長官や西村前経済産業相ら5人が出席を申し出ていました。
■岸田首相「公開」で政倫審に「出席」を表明
一度は、「政治倫理審査会」を28日と29日に行うことで、与野党が合意しました。しかし、自民党は「非公開」を提案したのに対し、野党側は「公開」すべきと強く反発しました。
自民党は27日に、安倍派の事務総長だった西村氏と二階派の事務総長・武田氏については、記者の傍聴などは認める一方、テレビ中継は認めない、などの妥協案を示しましたが、調整がつかず、開催が見送られることとなっていました。
こうしたなか、岸田首相は28日、自らが公開で「政治倫理審査会」に出席する考えを表明しました。現職の総理大臣が「政倫審」に出席するのは、初めてとなります。
■なぜ首相が「政倫審」出席を決断したのか?
藤井貴彦キャスタ
首相の突然の決断だったようですがー、今回も『3つの疑問』について、政治部・官邸キャップの平本典昭さんとひもといていきます。 今回の3つのギモンは… 1. なぜ?首相が出席を決断したのか 2. 首相の『決断』はどう評価されるのか? 3. 『チーム岸田』司令塔“不在” まず、岸田首相には“政治とカネの問題”はあったのでしょうか? また、なぜこのタイミングで、岸田首相は決断したのか、この点についてはどうでしょうか?」
日本テレビ 政治部・官邸キャップ 平本典昭
「1つ目の質問については、岸田首相が“自民党総裁”として出席すると言っていました。この“政治とカネの問題”は党全体での問題として危機感をもっていると、岸田首相は総裁として言っていました。この点で出席する、ということだと思います。
2つ目、なぜこのタイミングなのか、という点については、政倫審をめぐる協議はまとまらず、岸田政権は追い込まれていました。この厳しい状況を打開するために、首相周辺によれば、岸田首相が『最後のカード』を切った形になっています。岸田首相は決断した後、周辺に『もう、これしか選択肢はなかった』と話していたそうです。
岸田首相周辺では、ほかに『出席は議員の判断。意志ある議員は誰でも、出られる姿を見せられる』と話していました。安倍派幹部らが27日まで『公開で出ます』と自ら手をあげないなかで、岸田首相は“自分が手を挙げれば、5人も挙げざるを得ない”と追い込んだ形になったと思います」
藤井キャスター
「事前に、岸田首相が出るなら、幹部5人が出る、という流れはあったのですか?」 政治部・官邸キャップ 平本典昭 「取材していると、どうも、そうではないようです。出席表明の後、ある首相周辺は『これで安倍派幹部も腹を決めてくれるだろう』と、5人の出席が決まったあとには『うまくはまってよかった』と話すなど、“出たとこ勝負”だったようです」
■首相の「決断」評価は? 側近「勝負師の一面を見せた」 野党 「国会を振り回しているだけ」
藤井キャスター
「結果的には“完全公開”の形で『政治倫理審査会』が行われるということになりましたが、この決断、岸田首相の行動は、どんな評価がされているのでしょうか?」
政治部・官邸キャップ 平本典昭
「プラス、マイナス、両方あると思います。 ある岸田首相の側近議員は、『岸田首相は“勝負師の一面を見せた”』と言っています。閣僚経験者の中には『身を切る覚悟を見せた』などという評価もあります。また、中堅議員の1人からは『これは“1つのリーダーシップ”だと、安倍派の議員からは『5人を引き出すよい作戦だ』という声もありました。 ただ、マイナスの声も非常に多く聞きます。
まず、野党側は非常に冷ややかに見ています。ある立憲民主党幹部は、『岸田首相自身はすでに国会で、予算委員会で説明していますから、「政倫審」に出てきても何の意味もないじゃないか』、『国会を振り回しているだけだ』と話しています。 身内の自民党内からでさえ、ある閣僚経験者は『勝手な発言だ。さらなる混乱を生む』という声もあります」
◇ 政治部・官邸キャップ 平本典昭
「今回の“突然”の決断なのですが、ちょっと、“あの時と似ている”と、取材をしていて感じます。今年、派閥の問題で、岸田首相が突然、自ら会長を務めていた“岸田派を解散する”と言ったときと似ている、という声をきょう(28日)、よく聞きました。 あの時も岸田首相は、“自民党の派閥全体を解消したい”と打ち出したけれども、他が非常に慎重な姿勢でした。その時に、やはり今回と構図も一緒で、自ら姿勢を示して他への判断を迫る。この手法は、“岸田流サプライズ手法”だという声もあがっています。
■調整不発は誰のせい? 自民党議員に聞くと…“岸田首相の責任”
藤井キャスター
「各所で驚きの声はあがっているということですが、岸田首相はリーダーですから、“派閥を解散しろ”であるとか、“政治倫理審査会に出席しろ”というふうに『指示』をすれば済む話ではないのですか?」
政治部・官邸キャップ 平本典昭
「それが済まなくなっているのが、いまの岸田政権の状況だと思います。どうも、この“追い込まれてのサプライズ発表”の形が続いているんです。 その最大の要因は、いま『チーム岸田』に“司令塔が不在”の状況になっている、という点だと思います。その結果として、“自民党のガバナンスが低下”してしまっている、と思います。 何が起きているのか、27日の例で説明しますと、27日は「政治倫理審査会」の調整が不発に終わりました。自民党議員に『誰のせいなのか?』と28日に聞いてみると、2つあげていました。 1つ目は、まず、トップである『岸田首相の責任』。 2つ目は、No.2の党の責任者、『茂木幹事長の調整不足』を指摘する声が多い」
■調整不発は誰のせい? 自民党議員に聞くと…“茂木幹事長の調整不足”
政治部・官邸キャップ 平本典昭
「岸田首相の責任については、ある自民党の中堅議員は、『自分で判断すべき局面なのに、危機感がない』と、トップのリーダーシップが欠如していると指摘しています。 そして、茂木幹事長の責任については、政倫審で交渉にあたったある議員は、『安倍派の幹部・重鎮委員を説得するのは、幹事長の仕事だろう』と、『茂木さんが仕事をサボタージュ=さぼっている』という声が出ていました。首相周辺からも、『本当は司令塔となる幹事長が、仕事をしていない』という声も聞きます。
ただ、問題は、2人の溝が岸田首相の“派閥解消”の打ち出しで、かなり深まってしまった点だと思います。あの時、茂木幹事長は周辺に、『とても大事な決断なのに、先に相談すらなかった』と話していたんです。茂木幹事長からすれば、岸田首相が自分に相談をせずに大事な決断をすること、つまり、“自分は信頼されてないのではないか”と、不信感を抱いているわけです。 こうした、No.1と No.2のミスコミュニケーションから、政権の意思決定の調整がつかず、スタックしてしまう、止まってしまう事項がすごく最近多いんです。 その結果、岸田首相が『追い込まれて、仕方なく、サプライズの一手を打つ』と、これが最近の『岸田パターン』になっていると思います」
藤井キャスター
「いつの世も、どの部隊も『聞いてないよ』ということが一番、人の心理をかき乱すのかもしれませんが…。 もともと、政治倫理審査会を公開で、皆さんにオープンにした状態で進めてもいいのではないかと思ったのですが、これを何かの条件にして、“開くか開かないか”ということが“政争の具”のような状況になってしまっているのは、あまりいい方向ではないと思います」
■「政治倫理審査会」 大事なのは“実態解明”が進むかどうか
藤井キャスター
「29日からの『政治倫理審査会』に求められることは、どんなことだと思いますか?」
政治部・官邸キャップ 平本典昭
「大事なのはやはり、“裏金事件”を受けた『実態解明』が進むかです。 まず、1つ指摘しなければいけないのは、捜査は1月に一区切りがついたなかで、国会が始まって1か月以上たって、ようやくこの場がセットされた、『遅い』という点。 あとは、大事なのは、やはり“実態解明”に向けて、特に安倍派幹部は率先して説明する責任を負っています。『裏金を何に使ったのか?』、『安倍派の組織的な裏金作りの実態がどうだったのか』、まだまだわからない点は多くあります。政治倫理審査会が、その解明につながるかが大事だと思います」