首相の裏金対応 後ろ向きにも程がある(2024年2月15日『北海道新聞』-「社説」)

 岸田文雄首相は、これまでと同様の言い回しで真相究明に踏み込まず、改革を主導する姿勢は最後まで乏しいままだった。
 首相が実績として強調した自民党の全国会議員アンケートは、質問項目が2問のみで、裏金づくりの経緯や使途は聞いていない。
 調べたというアリバイ作りの意図が透け、実態解明への意欲はみじんも感じられない。
 政治資金規正法の改正を伴う対応策の検討も、自民党は足踏みを続けたままだ。与野党から提案があった企業・団体献金の廃止や政策活動費の見直しについても、首相は慎重姿勢を崩さなかった。
 後ろ向きにも程がある。
 このままでは政治とカネの問題が国民の常識からかけ離れるばかりである。首相は自らの動きの鈍さが、政治の危機をより深刻化させていることを自覚すべきだ。
 首相は予算委で「アンケートと併せて(関係議員への)聞き取りを行い、党としての説明責任を果たしていきたい」と強調した。だが、不透明さは消えていない。
 2022年までの5年間で政治資金収支報告書への不記載があったのは85人で、各議員は訂正したが、中には支出の額や日付などを「不明」とした計上がある。
 「使途不明金」として処理した道内選出の堀井学氏のような例もあり、ずさんと言うほかない。
 二階俊博元幹事長の資金管理団体は派閥からの1768万円の収入と、「書籍代」として約3470万円の支出を追加した。不自然な支出であり、説明が必要だ。
 お手盛りとの指摘がある自民党の関係議員への聞き取り調査は、こうした疑念をしっかり追及しているだろうか。安倍派の派閥運営の後ろ盾となってきた森喜朗元首相からの聴取も欠かせない。
 裏金は、議員の個人所得として課税義務が生じる可能性がある。訂正だけで済む話ではなく、自ら税務署に修正申告するのが筋だ。
 焦点となっている政治倫理審査会について、首相は「国会が決めること」と繰り返したが、自ら開催を促すべきだ。裏金を受けた安倍派幹部らが説明責任を果たすのは当然の対応だ。
 原則は非公開だが、本人の了解があれば公開できる。形式にとらわれない議論を徹底する必要がある。首相は、裏金の全容解明がなければ、前に進めないことを肝に銘じるべきだ。