相撲界の暴力(2024年2月27日)

相撲界の暴力 指導を徹底して根絶を(2024年2月27日『北海道新聞』-「社説」)

 日本相撲協会が、弟弟子に暴力を振るったとして幕内北青鵬(22)を引退勧告処分相当とし、提出された引退届を受理した。
 師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)は、委員から最下位の年寄への2階級降格と減俸処分とした。
 モンゴル生まれの北青鵬は幼少期に移った札幌で相撲を始めた。2メートル超の体格を生かしたスケールの大きい取り口が持ち味だった。
 将来を期待された力士の退場は残念だが、暴力は許されず、これを幕引きにしてはならない。
 角界では暴力問題が繰り返されてきた。これまでの対策が十分効果を上げていないことが改めて浮き彫りになったと言える。
 公益財団法人である協会は各相撲部屋を監督する責任を重く受け止め、今度こそ暴力の根絶に徹底的に取り組むべきだ。
 北青鵬は弟弟子2人の顔などを平手打ちしたり手の指に瞬間接着剤を塗ったほか、スプレーに点火した炎を近づけたという。危険で卑劣と言うほかない。
 暴行は日常的に1年以上続き、協会の調査に部屋の力士たちは北青鵬の復帰を拒絶したという。問題の根深さがうかがえる。
 宮城野親方の対応も問題だ。
 暴行は今年1月に協会の公式Xに投稿があったことで判明した。宮城野親方は北青鵬の問題行為を知りながら協会に報告せず、注意などの対応も取っていなかった。
 未成年を含む若い力士たちが親元を離れ、集団生活をするのが相撲部屋だ。親方には、力士に稽古を積ませながら社会人としての教育も行う責務がある。
 宮城野親方は歴代最多の優勝45回などの実績を打ち立てたが、その自覚を欠いていたのではないか。素質のある力士だからといって特別扱いは認められない。
 春場所宮城野部屋は伊勢ケ浜一門の監督下に置かれる。親方として出直す覚悟が問われている。
 協会は2007年の力士暴行死事件以降、研修を重ねるなどして暴力の排除を図ってきた。
 17年に横綱日馬富士による傷害事件が発覚すると暴力禁止規定を定め、外部有識者を入れたコンプライアンス委員会を発足させた。
 それでも再発を防げなかった現実を協会は直視してこれまでの取り組みを検証し、さらに手だてを尽くすべきだ。各部屋に協会の目をどう届かせるかも課題となる。
 スポーツの世界には鉄拳制裁は付きものだ―といった時代錯誤の感覚があるのなら、直ちに改めなければならない。

 

大相撲でまた暴力 根絶への気概が見えない(2024年2月27日『福井新聞』-「論説」)

 何度、暴力という愚行が繰り返されるのだろう。その根をどう絶つのか、日本相撲協会に問いたい。

 横綱白鵬として数々の記録を打ち立てた宮城野親方の部屋で、力士による暴力行為が1年以上も日常的に行われていた。暴力を働いていた幕内北青鵬は引退届を提出し、協会は受理したが、引退勧告に相当する事案と確認した。宮城野親方については監督責任を問い、降格という重い処分を科した。当然の判断だ。しかし、これで幕引きを図ることは許されない。

 協会は2018年10月、「いかなる目的の、いかなる暴力も許さない」などとする7項目の暴力決別宣言をまとめた。きっかけは、その前年、巡業中の宴席で後輩力士を殴打した横綱日馬富士(当時)の傷害事件である。

 事件により日馬富士は引退し、酒席にいながら暴力を止められなかった白鵬も減給処分を受けた。発覚後、八角理事長は力士を前に「暴力問題を二度と起こさない」と誓った。当時の教訓がまったく生かされていないではないか。

 暴力決別宣言にはこんな文言もある。「暴力と決別する意識改革は、師匠・年寄が率先して行い、相撲部屋における暴力を根絶する」。宮城野親方は北青鵬の暴力を把握していながら、目をつむってきた。協会への報告も怠った。言語道断というほかない。協会は、師匠としての素養や自覚の欠如を理由に、4月以降、伊勢ケ浜一門が部屋を預かる異例の決定をした。宮城野親方には部屋の存続や運営が土俵際にあることを自覚してもらいたい。

 暴力決別宣言を出しても力士による暴力行為は後を絶たない。19年には鳴門部屋で、22年には伊勢ケ浜部屋で判明した。昨年も陸奥部屋で起きている。

 力士の多くは10代で部屋の門をたたく。厳しい上下関係と集団生活の中で心身を鍛えるとともに神事とされる相撲道を学び、人として力士として成長を遂げていく。そこに大相撲の伝統と美学がある。

 一方で、寝食を共にする部屋はともすれば閉鎖的な空間となり、暴力の温床と化す危険もはらむ。暴力行為が続いても「意識改革」を部屋任せにしていたのなら、それは協会の怠慢であり、ガバナンス能力の欠如である。

 発覚のたびに協会は関係者を処分してきた。しかし、もぐらたたきのような対処では暴力根絶に至らないことは明白だ。ことは角界全体の問題なのである。再発防止策を早急に練り、協会、親方、力士こぞって、染みついた時代錯誤の体質を変えなければならない。変化に二の足を踏むようでは、大相撲は必ずやファンに見限られる。

 

相撲界の暴力 まだ根絶できないのか(2024年2月27日『中国新聞』-「社説」)

 大相撲の元横綱白鵬宮城野親方が、日本相撲協会から懲戒処分を受けた。弟子の暴力行為に対する監督義務違反である。当の幕内北青鵬は処分が下される前に現役を引退した。

 またかという印象であり、あきれるほかない。親方や力士による暴力行為や違法賭博関与といった不祥事が何度も明らかになってきた。その都度、暴力根絶に向けて協会は親方や力士らを対象に研修会などを開いてはきたものの、一向に根絶されない。

 宮城野親方は、委員から年寄への2階級降格と3カ月の20%報酬減額とされた。現役時代、史上最多45度の優勝を果たした。その大横綱が師匠としては素養・自覚が大きく欠如しているとされ、処分を受けた。角界相撲ファンはもちろん、日本社会にとっても大きな衝撃に違いない。

 今度こそ、抜本的な変革に取り組まなければ、国技も廃れてしまうのではないか。

 協会発表によると、北青鵬は2022年7月から翌年11月にかけて、弟弟子2人にほうきの柄で尻をたたく、バーナー状にした炎を体に近づけるなどの暴行を重ねていた。

 2人が痛がる様子を、北青鵬は面白がっていたらしい。おぞましい行為であり、決して許されない。

 協会のコンプライアンス委員会が調査し、処分案をまとめた。宮城野親方については監督義務、報告義務、調査協力義務の違反を重くみた。

 「(被害に遭った)弟子を守れなかった責任を重く受け止めている」。そう語った宮城野親方。北青鵬とともに頭を下げた。

 22年に北青鵬の暴行事実を知りながら協会に報告しなかったという。それから1年以上、北青鵬の暴力やいじめを黙認していたようだ。

 聞き取り調査に先立ち、部外者を使って口止め工作をしていたことも判明した。コンプラ委の中で「もう協会から排除すべきでは」との意見まで出たという。

 部屋は、伊勢ケ浜一門が任命する師匠代行の下、春場所に臨む。4月以降は同一門の「預かり」に。宮城野親方は現役時代、粗暴な取り口や独善的な振る舞いも目立った。師匠の座を奪われ、指導を受けることになった。

 大記録を樹立した元横綱である。だが若者たちを人間として育成する能力は欠けていたようだ。同じモンゴル生まれの北青鵬に目をかけ、スピード出世させたものの、心を成長させることはできなかった。指導者失格なのは当然だ。

 暴力行為は決して許されず黙認するような組織や風土に対しては厳しい目が向けられている。ところが角界においては何度も明らかになってきた。従来のような研修会では根絶できそうにない。

 相撲部屋などに閉鎖的な部分があるのではないか。「伝統」にこだわることなく、外部の力も導入して暴力根絶へ積極的に取り組むべきだ。

 心技体を磨いてこその力士だろう。横綱審議委員会も推薦に際して重視しているはずだ。角界の浄化、変革を急がねばならない。