さんのコンプレックス「いろいろありますよ。だけど…」(2024年2月25日『毎日新聞』)

江口のりこさん=東京都中央区で2024年1月27日、幾島健太郎撮影拡大
江口のりこさん=東京都中央区で2024年1月27日、幾島健太郎撮影

 切れ長の瞳に170センチの高身長。「半沢直樹」に「ドラゴン桜」、「うちの弁護士は手がかかる」などでスーツをさらっと着こなし、ズバッとセリフを言う姿が脳裏に焼き付いている。江口のりこさんはそんな自立した女性のイメージが強いが、「それは仕方ないですよね」と肯定も否定もしない。毒舌を交えながら、軽やかな関西弁で語り始めた。

 ドラマ「お母さんが一緒」(ホームドラマチャンネル=日曜午後10時)では、母親に親孝行しようと、温泉旅行に連れてきた3姉妹の軽妙な会話劇が描かれる。母親への愚痴や、姉妹だからこそできるストレートなトークが繰り広げられ、やがて修羅場へと発展する。江口さんは、妹たちにコンプレックスを抱く長女を演じる。
 「すごく難しかったですね。台本に『妹2人が美人』『強がって胸張って生きている』などのキャラクター設定が書かれていて。やればできるけど、そのままやって面白くなるのかなと、迷っていました」と振り返る。

 そんな迷いの中、役に立ったというのが、本番前のリハーサルだ。「何度も同じ演技をすると、それまでと違う感情が芽生えてくるもの。このセリフをこういうトーンで言えば、相手の言い方は変わるのかという発見もあります。芝居は正解がないから難しいですよ」

 江口さんや本作の橋口亮輔監督によると、ドラマの撮影でリハーサルをするのは珍しいという。新型コロナウイルス禍以前は、俳優たちが集まって台本を読み合う「本読み」という慣例があったが、今ではほとんどなくなったそうだ。今回は監督の方針で、台本読みを含め、数日間のリハーサル期間が設けられた。「監督がお手本で見せてくれる演技が面白くて、役のイメージを膨らませることができました。役作りとは何かを改めて教えてもらえたし、楽しみ方の発見もあって。学校に通っているみたいな感覚がありました」

 何かコンプレックスはあるかと質問すると、「いろいろありますよ」と笑う。「だけど、それが悪いことだと思っていないかもしれない」。「例えばキラキラしたお姉さんがいる合コンに誘われても、絶対に行きません。自分のいる場所じゃないと思うから。憧れはあります。生まれ変わったらピタピタの服を着て遊びまくりたいですよ。妄想ですけど」

「お母さんが一緒」の一場面。弥生(江口のりこ、右)と愛美(内田慈)©松竹ブロードキャスティング拡大
「お母さんが一緒」の一場面。弥生(江口のりこ、右)と愛美(内田慈)©松竹ブロードキャスティング

 人生を達観しているようにも見えるが、「いいふうに言えばそうですが、自分としては素直じゃないなーって。物陰から隠れて人を見ているようなところがあります」。

一番気になる「誰が監督か、演出家か」

 19歳のとき、柄本明さんが座長を務める「劇団東京乾電池」の扉をたたいた。「中学を卒業して、ずっと働いていて、面白くないなと思っていました。劇団に入ったら、大好きな映画に出られるのかなと思って」と俳優を目指したきっかけを語る。そこで芝居にのめり込んだ。「研究生の授業が週に2回あり、初めて舞台をやるわけですけど、緊張するし、手足がバラバラな感覚になる。それが面白いと思って、ここまできました」

 取材中、何度も「芝居は難しい」と口にした。「一つの面白いシーンやけんかのシーンをやるときに、事前に何度もやってみて、どう言えばみんなのテンションが上がるのかを考えるのが楽しいです。答えがないから、続けられています」と語る。

 現在も劇団に所属し、ドラマに映画に活躍を続ける。役柄のより好みはしないが、重視するポイントはある。「今回は橋口さんが監督だから出演したいと思いました。誰が監督か、演出家なのかが一番気になります」

 将来について尋ねると、「今後も変わらず、やっていくんじゃないですかね。その中で今回みたいに、ご一緒できてうれしかったなと思える監督と出会えるのが幸せ。めったにないことなんですよ」。【諸隈美紗稀】

江口のりこ(えぐち・のりこ)さん

 1980年4月28日生まれ。兵庫県出身。2002年「桃源郷の人々」で映画デビュー。主演ドラマに「ソロ活女子のススメ」シリーズや「SUPER RICH」など。

関連記事