掟の盃(2024年2月25日『中国新聞』-「天風録」)

 「掟(おきて)の盃(さかずき)」と呼ばれる酒杯がJR三原駅前の図書館で展示されている。赤穂浪士を率いた大石内蔵助が好んだ器の複製らしい。酒席で無理強いは禁物、けんかや口論はもっての外…。高札(こうさつ)を仰ぎ、五つの掟を読む侍の絵が見える

▲内蔵助が自ら絵筆を執った―と伝わる。侍の姿は、自画像のようだ。酔った勢いで、万が一にも口を滑らせ、吉良邸討ち入りの悲願が漏れてはならない。杯を傾けるたび、自分にブレーキをかけていたのかもしれない:

▲今昔問わず、心のブレーキは欠かせないのだろう。厚生労働省が先日、飲酒ガイドラインなる高札を掲げた。1日当たり、日本酒なら1合以上、ビールは中瓶1本以上で大腸がんの発生リスクが高まるという

国内初の飲酒ガイドライン案「男性40g、女性20g以上はリスク ...

毎日新聞

▲その直後、酒席のセクハラで石油元売り大手「ENEOS」グループの子会社会長が地位を追われた。グループではトップのセクハラ解任・辞任は3年連続である。おまけに「酒の席で記憶にない」と口上も同じ。ご乱心リスクの目安も欲しくなる

▲列島のあちこちで梅がほころび、1カ月先には桜前線も北上を始める。花見酒の季節が近い。八代亜紀さんをしのび、「舟唄」流にしみじみ飲むのがこの春の掟と心得る。