ペイ・フォワード(2024年2月25日『秋田魁新報』-「北斗星」)

 医師の日野原重明さんは「ペイ・フォワード」という言葉を胸に刻み、105歳で亡くなるまで医療の充実や社会貢献に尽くした。著書「いのちの使いかた」(小学館文庫)に、その思いをつづっている

 

ペイ・フォワードは、誰かに親切にされたりした時の恩をその人に直接返すのではなく、まったく別の人に返すことを意味する英語だ。この言葉を題名にした米国映画もある。日本にも同様のことを意味する恩送りという言葉がある

▼日野原さんがペイ・フォワードを意識したのは、1970年の赤軍派による「よど号」ハイジャック事件で人質となった体験がきっかけだ。解放された時に自分は生かされていると感じ、それを恩と受け止めた。以後、いかに人に役立つことができるかを考えて生きるようになったという

▼災害発生時、被災地の復旧に一役買う存在にボランティアの人たちが挙げられる。かつて被災した際に支援を受けたことへの感謝の気持ちから、同様の支援を他人に対して行う。そんな例もよく見聞きする。まさにペイ・フォワード

ボランティアは95年の阪神大震災の際に全国各地から参集し注目された。昨年夏に県内各地が記録的大雨に見舞われた際も多くの被災者が助けられた。能登半島地震の被災地でも今、住宅の片付けなどに懸命だ

▼誰かの役に立とうと遠くからでも駆け付け汗を流す。なかなかできないことだ。恩返しの輪が自然発生的に広がっていることに、目を見張らされる。