現存する国内最古の学生寮とされる、京都大学「吉田寮」(京都市左京区)。大学側が1913年建設の「現棟」に住む寮生らに明け渡しを求めた訴訟で京都地裁は16日、大半の寮生に明け渡しの必要がないと判断した。寮生が守ろうとしてきた「営み」とは何なのか。彼らの暮らしを見つめ、吉田寮への思いを聞いた。
経済や性別などさまざまな格差、差別が存在する日本社会。その歪(ゆが)みに抗(あらが)う存在が自治寮だと、京大理学部4回生で吉田寮生の大本英晶さん(22)は考える。
新型コロナ禍の2020年4月に入学。課外活動は中止、授業もオンラインになり、実家にいることがほとんどだった。人との交流がない生活を「機会損失」だと感じ、22年春に入寮した。
現棟の玄関に入るとすぐ目に入るこたつが好きだ。生活を送る寮生が最もよく通る場所にあり、友人たちと鍋をしたり、ゲームをしたり、思い出は尽きない。「万年床」で夏にも薄い布をかけて置かれているが、居室まで来ることは少ない寮外の学生などとも気軽に話すことができる空間がそこにある。
見学に訪れた人たちが寮内に入ることができるだけでなく、入寮に関しても門戸を広げてきた歴史が吉田寮にはある。大学との取り決めである「確約」により、入寮選考は寮生たちが担当。元々男子寮だったが時代の変化を感じ取り、1985年に女子、1990年には留学生の入寮も可能にした。
賃金差などの要因による地方と都市との教育格差が歴然とある中、月2500円という安価な寮費も、その格差を緩和する一助になっている。現在は月1回となったが、コロナ禍では頻繁に開催されていた元寮生などの支援者による食事支給「ゼロ円飯」にも、母子家庭で育った大本さんは感謝している。
大本さんらは吉田寮のことを知らない学内の教員などにも面会して、寮の必要性を伝える機会を作ってきた。その際、「私とは関係ないことだから」と冷たい言葉を受けたこともある。それでも伝える努力を惜しまないのは、「寮を残して自治運営することは、格差や差別を是正し、教育の機会均等を守ること」だと信じているからだ。
今冬、数人の有志と一緒に、イスラエルとの戦闘が続くパレスチナの映画上映会を企画。寮内の談話室にプロジェクターを持ち込み、告知用のビラも用意した。「ニュースを見て、『関係ない』と済ませてしまうのは違う」。自分たちと異国の地の人たちを重ね合わせながら、少しでも力になりたいと強く願う。【山崎一輝】