企業献金守ろうと、古すぎる判決を持ち出す岸田首相のご都合主義 具合の悪い新しい判決はスルー(2024年2月19日『東京新聞』)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、企業・団体献金の禁止を訴える野党に対し、岸田文雄首相は、企業献金の自由を認めた1970年の最高裁判決を持ち出し、消極的な考えを繰り返している。一方、96年の最高裁判決は、政治献金について「個人の判断で決定すべきだ」として、企業献金に否定的な見解を示したが、首相はこの判決には触れようとしない。(大杉はるか)
岸田首相

岸田首相

◆首相が根拠にした1970年の論理

 今月初めの衆院本会議で、共産党志位和夫議長が「経済力のある企業が献金することは金の力で政治をゆがめ、国民の参政権を侵害することになる」とただしたのに対し、岸田文雄首相は「企業は憲法上の政治活動の自由の一環として、政治資金の寄付の自由を有するとの最高裁判決がある」と主張。54年前の八幡製鉄(現日本製鉄)政治献金事件の最高裁判決を持ち出して「論理の飛躍がある」と反発した。
 この事件は、八幡製鉄の役員が自民党に350万円を献金したのは事業目的に反するとして、株主が61年に提訴。最高裁は、憲法上、公共の福祉に反しない限り、企業にも政治献金の自由があるとの判断を示した。巨額献金による弊害への対処は「立法政策にまつべきこと」とした。

 企業献金金権政治汚職の温床となり、ロッキード事件リクルート事件などが国民の政治不信を招いた。非自民政権になった93年、企業献金をあっせんしてきた旧経団連は、政治資金の公的助成や個人献金の定着を前提に「廃止を含めて見直すべきだ」と表明した。94年、政治改革関連法が成立し、企業・団体献金は廃止の流れとなった。

◆1996年には個人以外の献金を事実上否定する判決が

 そんな世相の中で出されたのが96年の南九州税理士会事件の最高裁判決だ。政治献金のための会費徴収を求められた税理士会員が、献金は会の目的外と主張した裁判で、最高裁は原告の訴えを認めた。
 政治献金は「投票の自由と裏表をなすもの」とした上で「どの政党、候補者を支持するかに密接につながる問題」のため、「個人的な政治的思想、見解、判断にもとづいて決定すべき事柄」と認定した。個人以外による献金を事実上否定する判断が示された。

◆「判例変更と解釈するべきだ」

 だが、政党や政党支部への企業・団体献金は温存され、経団連献金あっせんも再開した。自民党の2022年の収入249億円のうち24億5000万円が企業・団体からの献金だ。税金から支出される160億円の政党交付金との「二重取り」も続く。自民幹部は企業・団体献金の禁止について「企業も社会を構成する一員。政治活動の自由を奪うことは良いことだとは思わない」と語る。
 元自治省選挙部長の片木淳弁護士は「南九州税理士会最高裁判決は、献金は個人に任せるべきだという新しい考えを示した。八幡判決の判例変更と読むべきだ」と指摘。「抜本的な政治改革をしようという時に、50年以上前の古い考えを土台にすること自体がおかしい。企業・団体献金は民主主義、国民主権とは相反する」と語る。

 企業・団体献金の制限 1994年成立の政治改革関連法は、献金を通じた特定の企業や団体との癒着を防ぐため、政党に公費助成する政党交付金制度を導入。代わりに、政治家個人への企業・団体献金を禁止した。激変緩和のため政党への献金見直しは5年後に先延ばしした。だが、99年の法改正では、政治家の資金管理団体への献金を禁じただけで、政党や政党支部への献金は容認した。また、パーティー券は購入できるため、献金制限の「抜け道」となっている。