「裏金」納税案 国民目線で実施すべきだ(2024年2月18日『熊本日日新聞』-「社説」)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、派閥からの資金還流を政治資金収支報告書に記載しなかった議員に、使途不明分を課税対象として納税させる案が党内で浮上している。確定申告シーズンを迎え、国民の税への関心は高まっている。このままでは「なぜ政治家だけが課税逃れできるのか」という疑念は払拭されないだろう。一刻も早く実現に動くべきだ。

 野党側は衆院予算委員会で「裏金を懐に入れ、脱税疑惑があるのに追徴課税もない」と指摘。議員の収支報告書に不記載だった還流分は個人の所得に当たるとして、岸田文雄首相に対応をただした。

 首相は「議員個人が受領した例は確認されていない」と答弁。「問題があれば税務調査を行うなど、国税庁が適正公正な課税に努めている」と繰り返した。

 議員側への還流分に課税できるかどうかの判断は、それが「政治団体の収入」なのか、「議員の個人所得」なのかが目安となる。政治団体の収入は原則非課税とされており、たとえ裏金であっても課税できない。

 裏金問題が表ざたになり、安倍派や二階派の議員は還流分を「派閥から議員の政治団体への寄付」だとして、収支報告書を相次いで訂正している。非課税を主張するかのような一斉訂正と、予算委での首相の答弁は歩調を合わせている。

 こうした対応にうんざりしている国民も少なくないはずだ。所得税の確定申告の受け付けが始まった16日、長崎市の80代男性は「自分たちに都合の良いようにルールを決めている」と批判。熊本市の会場を訪れた60代女性も「煩雑な申告もせず、お金だけ懐に収めて良い身分だ」と憤った。

 国民の疑念を意識してか、自民党内の一部から「個人所得として追徴課税で納めるべきだ」と、議員の自主的な修正申告を促す意見が出始めた。党として実施できるかどうかが、政治改革への自民の本気度を測る尺度になる。

 もう一つのポイントは政党から党幹部ら個人に渡される「政策活動費」の取り扱いだ。幹事長だった甘利明氏の場合、在任のわずか35日間に3億8千万円を受け取ったとされる。1時間当たり45万円のペースでやっと使い切れる額だが、使い道は秘匿されている。二階俊博氏も幹事長として5年間で約50億円を受け取ったという。

 野党は使途の公表や制度廃止を求めているが、自民党は「政治活動の自由が損なわれる」といった理由で見直しに慎重な姿勢を崩していない。使い道の公開を義務付けていない制度のままで、国民の理解は得られるのか。自民党は自浄能力を問われるだろう。

 派閥から議員への還流も政策活動費も、使わずに余った分は個人所得として課税対象になる。税務当局は政治家や政党への本格的な調査に乗り出すべきではないか。国民の高い納税意識を維持するためにも、厳正で公平な姿勢が求められる。