石破首相「年金改革で各党議論」呼びかけ 記者会見(2025年1月6日『日本経済新聞』)

 

 石破茂首相は6日、三重県伊勢市で記者会見を開いた。少数与党での政権運営に関連し、党派を超えた合意形成を図るため「野党にもこれまで以上に責任を共有してもらうことが求められる」と指摘した。年金制度改革について「各党による建設的な議論を期待する」と呼びかけた。

与党についても「比較第1党として自民党公明党とともに国政を預かる立場から現在、次の世代の国民に対して責任を持つ責任与党でなければならない」と強調した。

社会保障の安心は不可欠 「手取り増」にも言及

首相は「投資が賃上げにつながり、消費に結びつくという好循環を実現するためには社会保障制度の安心の確保は不可欠だ」と提唱した。「手取り増を求める声に応え、制度の持続可能性を維持・強化することが重要だ」と訴えた。

①全世代型社会保障の構築②地域共生社会の実現③働く人を大切にする社会の再構築――の3つがカギになると挙げた。特に長期間運営する年金制度は「与党も野党もなく、合意を探ることが求められる」と強調した。

企業・団体献金与野党の枠を超えて議論深める」

結論の期限を3月末まで先送りした企業・団体献金を巡り、改めて議論する考えを示した。「政党や政治団体としての規律のあり方をどのように考え、その規律をどのように担保していくか与野党の枠を超えて議論を深めたい」と語った。

選挙制度巡り「党派超えた検証必要」

選挙制度のあり方も提起した。2024年の東京都知事選や兵庫県知事選などで話題になったSNSを使った選挙活動を踏まえた議論が必要だと唱えた。

「民主主義とは多くの意見が健全な言論空間で戦わされてこそ成り立つものだ」との認識を示した。「重要なことは有権者に判断材料が正しく提供されることだ」と述べ、選挙制度に関して党派を超えた検証の必要性を指摘した。

野党との大連立「考えているわけではない」

野党との連立について「今の時点で考えているものではない。大連立を考えているわけでもない」と否定した。

首相は1日の文化放送番組で大連立を巡り「選択肢としてあるだろう」と語っていた。この発言に関して「可能性はあると申し上げたのであって、何のためにということが明らかにならなければ意味のないことだ」と指摘した。

地方創生「令和の日本列島改造と位置づけ」

肝煎り政策の地方創生に関し「『令和の日本列島改造』と位置づけ地方創生2.0を強力に推し進める」と発言した。「これができないと日本は本当に終わるという危機感を持って進める」と訴えた。

「官が一歩前に出るべきだ」と掲げ、政府機関の地方移転などを進める方針を打ち出した。民間との連携ではスタートアップの地方での創業や企業の本社機能の移転などに取り組む考えを見せた。

24年12月の記者会見で打ち出した「楽しい日本」のスローガンに再び言及した。国の若手職員による二拠点活動を支援する制度を新設するとも明らかにした。

電力や水素といった次世代燃料、人工知能(AI)などを取り上げ「GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支える新時代のインフラを軸として産業拠点や生活拠点の再配置を促進する」と言明した。

安全保障に関して「拒否的抑止力の強化が重要だ」と唱えた。相手の試みを無効として行動を思いとどまらせる能力だと説明し「シェルターの確保などを着実かつ早急に進めていく」と述べた。

トランプ氏との会談「最もふさわしい時期で調整」

首相は米国のトランプ次期大統領の就任式前の会談を見送る方針だ。「最もふさわしい時期にふさわしい形で実現するよう調整している」と説明した。

USスチール買収中止命令「日米間の投資に懸念の声」

日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画に、バイデン米大統領が中止命令を出したことについても質問を受けた。首相は「今後の日米間の投資について懸念の声が出ている」と答えた。

米政権が中止命令の理由とした安全保障上の懸念について説明を求めると明かした。

北朝鮮のミサイル発射を巡り「打ち上げの頻度は非常に高い」と語った。発射を重ねるたびに技術が上がっているとの認識を示し「重大な懸念を持っている」と話した。

戦後80年の節目にあたる2025年を「平和と『平和国家日本』のあり方について国民とともに考える年にしたい」と述べた。民主主義についても改めて考える年にすると言明した。

24年10月の衆院選で自民、公明両党は過半数を下回って30年ぶりの少数与党になった。