技能実習生の多くが現地で採用を仲介している送り出し機関やブローカーに法外な手数料を要求され、多額の借金を背負って来日。受け入れ先の企業で長時間労働などを強いられても職場を変えられず、失踪者が相次いだ。内外から「人権侵害」の批判が絶えない。

 新制度では転籍が可能になる。とはいえ、当面の措置として受け入れ企業は最長2年、引き留めることができる。当面がいつまでか、はっきりしない。相変わらず、家族の帯同は認めない。技能実習などの在留資格で来日した女性らが現地や日本の関係機関から就労の妨げとなる妊娠をしないよう、くぎを刺されたことも明らかになった。

 外国人の人権を守れるか、より長く安心して働ける環境を整えられるか-が問われている。新制度ができても、待遇改善や転籍支援を含めて課題は尽きない。一つ一つ官民を挙げて取り組み、共生社会への道筋を確かなものにしていかなくてはならない。

 政府の有識者会議は昨年11月、来日して同じ職場で「1年超」働けば技能や日本語能力なども判断し、転籍を認める案をまとめた。しかし自民党や受け入れ企業から「地方から賃金の高い都市部に人材が流出する」と異論が噴出。「少なくとも2年は転籍を制限すべきだ」という声が強まる中、政府方針は「最長でも2年」に落ち着いた。

 ただ新制度は3年間の就労を経て、人手不足に対応するため外国人受け入れを拡大する目的で導入された特定技能1号の水準に見合う技能を習得することを想定。転籍制限が2年に及ぶと、選択の幅は相当狭められてしまうだろう。企業側の事情で引き留めるのであれば、きちんと昇給など待遇改善を行うべきだ。

 妊娠・出産を理由とする不当な扱いも深刻な問題だ。共同通信NPO法人を通じ、技能実習や特定技能の在留資格で働く女性ら91人にアンケートをしたところ、56人が来日前に送り出し機関から「妊娠したら帰国」と念を押され、8人は避妊リング装着などの処置を受けた。特定技能1号の8人は、生活支援に携わる日本の機関から妊娠しないよう指導された。

 介護老人保健施設で働く特定技能のベトナム人女性が妊娠を報告した途端、施設から契約継続を拒否された例もある。「今の日本語能力では働けない」と言われたが、妊娠が理由だったとみられる。こうした扱いは法律で禁じられている。だが帰国させられるのを恐れて妊娠を誰にも相談できず、孤立出産に追い込まれる人が少なくない。

 バスやタクシー、トラック運転手らの残業時間が4月から規制され、人手不足で物流が停滞する「2024年問題」もあり、政府は外国人の受け入れ拡大を急いでいる。しかし労働力確保が先行し、人権問題が置き去りになっていないか。実態把握と対策に本腰を入れる必要がある。