日本GDP4位

GDP4位転落 経済の底上げを着実に(2024年2月16日『北海道新聞』-「社説」)

 日本の2023年の名目の国内総生産(GDP、速報値)が、ドル換算でドイツに抜かれ、世界3位から4位に転落した。
 円安ドル高で日本のGDPが目減りしたほか、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、ドイツの物価が日本を上回るペースで上昇したためだ。
 逆転は為替要因が大きい。ドイツのGDPも物価変動の影響を除いた実質ではマイナス成長だ。
 GDPは一つの指標であり、将来の為替動向や日本の成長次第では再逆転もあり得る。
 ただ2000年以降でみると、日本の成長率はドイツを下回っている。貿易や通貨を巡る環境は異なるものの、日本が経済の実力を高められず、多くの大企業が存在感を失ったのは確かだ。
 政府・日銀は政策を点検し、内需を中心に経済の底上げを着実に進めていかなくてはならない。
 平均為替レートでドルに換算した昨年の名目GDPは、日本が4兆2106億ドル、ドイツは4兆4561億ドルだった。
 日本は1968年に国民総生産(GNP)で当時の西ドイツを上回り、世界2位となった。
 だが2010年にGDPで中国に抜かれ、今回は人口が日本の3分の2であるドイツに抜かれた。
 日本は1人当たりGDPでも、経済協力開発機構OECD)加盟国で中位に低下している。
 アベノミクスと今も続く大規模金融緩和の成果は円安と株高にとどまり、GDPの過半を占める個人消費は低迷したままという現実を直視すべきだろう。
 少子高齢化が加速する日本で、今後投入できる労働力や消費者の量的な拡大は限られよう。
 成長力を向上させるには、企業がより高付加価値の製品やサービスを提供し、消費される環境を醸成していくことが肝要だ。
 きのう発表の23年10~12月期の実質GDPで、個人消費は3四半期連続のマイナスだった。食料品をはじめとする物価高が家計に重くのしかかっている。
 物価と賃金の適度な上昇が循環していくためには、昨年を超える大幅な賃上げが欠かせない。
 今春闘で経営側は、日本経済再生の責任が問われていることを自覚してもらいたい。
 日本企業が海外で稼いだお金の多くが、国内に還流していない現状を変えることも重要だ。
 政府は税制なども活用し、国内市場の育成と雇用の確保に一層努めていく必要がある。
 
 
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GDP4位転落 アベノミクスの通信簿だ(2024年2月16日『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)

 

 内閣府が発表した2023年の名目国内総生産(GDP)は、日本がドイツに抜かれ世界4位に転落した。政府・日銀は、巨額の財政出動を伴う経済対策を繰り返し、大規模な金融緩和を続けてきたが成長への寄与は限定的だったと言えよう。今なお事実上継続するアベノミクスへの通信簿と受け止めるべきだ。

 

 昨年の日本の名目GDPは591兆円余りで、内閣府のドル換算では4兆2106億ドル。これに対してドイツは約4兆4500億ドルとなり、日本を上回った。

 

 日本は米国に次ぐGDP世界2位の座に長くあったが、10年に中国に抜かれ3位に。国際通貨基金(IMF)によると4位も盤石でなく、26年にはインドに抜かれ5位へ後退する見通しだ。国際社会、とりわけアジアでの発言力低下は避けられないだろう。

 

 日独逆転に注目したいのは、その要因や背景からアベノミクスに代表される近年の経済政策の問題点が浮かび上がるからだ。第一に円安である。

 

 ドイツの名目GDPが昨年伸びた要因は物価高騰にあり、実質成長率は小幅なマイナスだった。それにもかかわらず日本が下回ったのは、記録的な円安でドル換算額が目減りしたためだ。円の下落には産業構造の変化などさまざまな要素が働いているが、影響の大きいのは日銀による金融政策である。デフレ脱却を掲げて13年に始めた大規模金融緩和は、円安による輸入物価の上昇などに期待した政策であり、今も変わらない。

 

 だが円安の恩恵は輸出やインバウンドの関連産業に偏る。一方で、物価高を一層深刻にした負の面を国民は感じているはずだ。自国通貨安政策の危うさを日独逆転は改めて気付かせてくれる。

 

 アベノミクスのもう一つの柱であり、岸田政権でも変わらない巨額の財政出動も同様だ。毎年のように補正予算を組みばらまきを続けてきたが、効果はその時限りだったと言うほかあるまい。

 

 金融緩和、財政出動ともに成長力向上の効果は乏しく、過去10年平均の実質成長率は年0・6%。その半面、多大なツケを残した点を見過ごしてはならない。超低金利の長期化は経済の新陳代謝を停滞させ、予算のばらまきは1千兆円を超える国債残高の山を築いた。

 

 日独の差は「1人当たり」という別の物差しで見るともっと大きい。経済協力開発機構(OECD)加盟国の22年の1人当たり名目GDPは、ドイツが約4万9千ドルで16位に対して、日本は約3万4千ドルで21位。年間労働時間はドイツの1341時間に比べ、日本は2割多かった。ベルリンの1人当たり公園面積は東京23区の6倍超だ。

 

 少子高齢化と人口減少の加速する日本が成長を維持するのは容易でない。これまで同様「GDP至上主義」を続ければツケは膨らむばかりだ。日独逆転を、個々の「暮らしの質」を重んじる経済運営へ軸足を移す好機と捉えるべきだろう。

 

 国民が豊かさを実感できない中での足元の株高も、企業利益優先のわが国のゆがみを映している。

 

 低賃金、非正規雇用の増加、税や社会保障負担の不公平、止まらない東京一極集中-。大企業優先でなく、個々の生活を重んじる視点に転じれば、直面する課題に今までと異なる答えが出てこよう。それを求めて国民が声を上げたい。共同通信・高橋潤)

 
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 日本の日本GDP4位 デフレ完全脱却で再浮上図れ(2024年2月16日『読売新聞』-「社説」)
 名目国内総生産(GDP)が世界4位に転落した。最近の円安や過去のデフレが要因だ。デフレから完全に脱却して、経済の成長軌道を早期に取り戻したい。
 内閣府が発表したGDP速報値で、2023年の日本の名目GDPは前年比5・7%増の591兆4820億円となり、ドル換算では4兆2106億ドルだった。
 既に発表されたドイツの名目GDPは4兆4561億ドルで、日本はこれを下回り、米国、中国、ドイツに次ぐ4位となった。
 名目GDPは物価上昇で押し上げられるほか、国際比較では為替相場に左右される。日本が4位になったのは、円安でドル換算値が目減りしたことや、ドイツの高い物価上昇による面が大きい。過度に悲観する必要はないだろう。
 しかし、日本経済の長期低迷を反映しているのも事実だ。
 日本は、1968年に旧西ドイツを抜いて世界2位の経済大国となった。その後、バブル崩壊後の不況の長期化で2010年に中国に追い抜かれ、3位になった。
 長引くデフレの中で、企業はコストカットを最優先し、賃上げや投資を怠った。それが、さらに物価を押し下げる悪循環に陥り、名目GDPが伸びなかった。
 現在、日本経済は、その連鎖を断ち切り、経済の好循環を実現できるかどうかの転換点にある。
 企業業績は好調で、主要上場企業の24年3月期決算の最終利益は過去最高となる見通しだ。株式市場で、日経平均株価はバブル期の最高値に迫っている。訪日外国人客の消費も急回復している。
 そうした好材料をデフレ脱却につなげるには、まずは春闘で、企業が物価高を上回る賃上げを行うことが不可欠だ。それが消費を活性化し、好循環が生まれれば、GDPの再逆転も可能となろう。
 現状は、景気回復に足踏み傾向もみられる。23年10~12月期の実質GDP速報値は、前期比の年率換算で0・4%減と、2四半期連続のマイナス成長だった。
 個人消費が前期比0・2%減と振るわず、企業の設備投資も0・1%減だった。設備投資は、建築関係の人手不足で計画が滞っている可能性があるという。
 今後の安定的な成長には、人手不足の克服もカギとなる。省力化投資による生産性の向上、働き方や処遇の改善など、企業はあらゆる手を尽くしてもらいたい。
 GDPの世界4位への転落を、日本全体でデフレ下の意識を変革していく契機とするべきだ。
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GDP4位に後退 民間主導で停滞を脱せよ(2024年2月16日『産経新聞』-「主張」)
 
 政府が公表した令和5年の国内総生産(GDP)で、ドル換算した日本の名目GDPがドイツに抜かれて世界4位に後退した。
急激な円安ドル高が日本のGDPを目減りさせたことや、ドイツの物価騰勢が日本以上だったことが名目値の逆転につながった面はある。
 だが、平成22年に世界2位の座を中国に明け渡してから13年で、経済不振のドイツにもGDPが抜かれたことは、日本経済の趨勢(すうせい)的な停滞を裏付ける証左でもあろう。その現実から目をそらすわけにはいかない。
 「失われた30年」を打開するには民間主導の力強い経済を取り戻す必要がある。現在の国内経済は、長期デフレから完全に脱却できるかどうかの岐路にある。企業の賃上げや構造改革で経済全体を底上げし、世界経済の牽引(けんいん)役としての役割を果たせるかどうかが問われよう。
 令和5年の名目GDPは591兆4820億円だった。ドルベースでは4兆2106億ドルとなり、約4兆5千億ドルのドイツを下回る。日本は人口減に伴う国内経済の縮小も懸念され、いずれは人口大国のインドにも追い越されるとみられる。
 日本がアジア唯一の先進7カ国(G7)メンバーとして国際社会で存在感を示してきた背景には国力の源泉たる経済規模の大きさがあった。日本は1人当たりGDPでも韓国などに迫られている。今後も国際的な影響力を発揮するには、経済力を一段と高めることが不可欠だ。
 積年の課題である労働生産性の向上は製造業、非製造業を問わず進展させたい。デジタル技術を効果的に活用し、人手不足でも収益を上げる事業構造を築く。成長分野に十分な人材や資金が流れるよう労働・金融面での改革も徹底すべきだ。大切なのは、政府頼みではなく民間企業が自律的に前向きな経営を展開できるかどうかである。
 15日に公表された昨年10~12月期の実質GDPは物価高に伴う消費不振などが響き2四半期連続のマイナスだった。足元では能登半島地震中国経済の低迷などの懸念もある。
 だが、昨年4~12月期の上場企業決算は過去最高益を更新する見通しだ。春闘での賃上げ機運も高まっている。こうした流れを経済の好循環へと確実につなげられるかが、日本経済の浮沈を大きく左右しよう。