教委の金品受領 悪しき慣習なぜ続けた(2024年2月17日『東京新聞』-「社説」)

 教育行政をつかさどる組織にあるまじき「伝統」である。名古屋市教委が少なくとも2016年度以降、市内の多くの教員団体から毎年、金品を受け取っていた。各団体が、小中学校の校長、教頭などへの昇格候補を推薦する名簿を提出する際、セットにして金品を渡していたというのだから、あきれるほかない。
 金品を贈っていたのは小中学校の現役校長らで構成する校長会や出身校の同窓会、担当教科の研究会などの任意団体。計86団体の半数ほどが毎年夏ごろ、人事をつかさどる市教委教職員課に対し、推薦名簿とともに5千~3万円の現金や商品券を受け渡していた。
 その総額は毎年200万円ほどに達し、教職員課の担当職員が銀行口座などで管理。深夜残業時の飲食代や、採用試験、人事が一段落した際の打ち上げ費用に充てていたという。
 贈った側も、受け取った側も、長年続く慣習で「陣中見舞い」の認識だったと釈明し、市教委は推薦名簿や金品の授受が教員人事に与えた影響を否定するが、うのみにできない市民も多いだろう。
 市は、教育委員会と離れた市長部局が指揮をとり、第三者をメンバーに入れたチームで調査に乗り出すことを決めたが、当然だ。本当に、この「慣習」によりゆがめられた人事はなかったのか徹底的に究明してほしい。
 もし、金品で人事上の利益を得る、という構図ではないとしても「金品を贈らないと不利益を受ける」といった通念ができていなかったかも気がかりだ。ことの背景や実情を調査で詳(つまび)らかにし、市民に明らかにするよう求めたい。
 市教委の釈明通り、仮に、人事への影響はなかったとしても、まさに「李下(りか)に冠を正さず」ではないか。外部に知られれば疑惑を持たれてもしかたがない悪(あ)しき慣習を、今に至るまで、無批判に続けてきたこと自体に問題がある。
 多数の自治体で不適正な会計処理が発覚した2000年代後半、名古屋市教委でも153もの小中学校で領収書偽造など裏金づくりや横領が露見したことがある。悪しき慣習が延々引き継がれる構図は今回の問題にも通底しよう。
 名古屋市教委だけの問題ではない可能性もある。この機に、不適切な慣習や圧力が人事をゆがめる事態が起きていないか、他の自治体教委でも点検すべきである。