同姓の義務づけ 現状はもう放置できない(2024年2月15日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 

 

 経団連の十倉雅和会長が記者会見で、選択的夫婦別姓制度の導入を「やるべきだと思っている」と述べた。

 「女性の働き方をサポートするため」として、政府に「一丁目一番地としてやってほしい」と要望した。経団連会長が同制度に明確な賛意を示したのは今回が初めてである。

 経団連は昨年12月に夫婦別姓制度についての意見交換会を開くなど、組織内部で議論を進めてきた。2024年度前半に政府に提言を提出するという。

 政府が進める旧姓の通称使用を容認する立場だった経済界が、方針を修正したといえる。現状の放置が限界に来ていることの表れ、と受け止めるべきだ。

 夫婦同姓の義務づけは、世界で日本のみだ。経済界にはこの規定が国際的なビジネスの推進を阻害している、との危機感がある。

 経団連意見交換会では、結婚後に旧姓を通称で使用するのは海外では一般的ではなく、仕事上で混乱するとの指摘が多く出た。

 実績の本人証明が難しくなったり、出入国時やホテルのチェックイン時にトラブルになったりすることもある。国内でも旧姓名義で銀行口座を開設できない金融機関も多い。改姓がハードルになって結婚を諦める人も少なくない。

 厚生労働省の統計によると、婚姻時に夫の姓を選択した夫婦は22年、94・7%を占めた。経済界には夫婦別姓の導入が婚姻の選択肢を増やし、女性の活躍につながる、との認識が強い。

 法制審議会は1996年に選択的夫婦別姓制度の導入を答申している。それなのに、自民党内の保守系議員の強い反対で法案がいまだに提出されていない。

 岸田文雄首相は2日の参院代表質問で「家族のあり方の根幹にかかわる問題」として、「国会で議論を進めることが重要」と述べただけだ。国会では具体的な議論が進んでおらず、答弁は事実上のゼロ回答である。

 共同通信の昨年5月の世論調査では77%が選択的夫婦別姓に賛成した。30代以下の若年層は87%が支持し、女性若年層の賛成は91%だった。自民党内の慎重意見が世論と乖離(かいり)していることは明白だ。

 最高裁は21年6月、夫婦別姓を認めない民法などの規定を合憲と判断した。一方で「国会で議論、判断されるべきだ」として、立法府の取り組みを促したことを見過ごしてはならない。

 国会が議論を進めないのは怠慢だ。現状を直視して、導入へかじを切るべきである。