警察官の職質 問われる人種差別意識(2024年2月12日配信『北海道新聞』-「社説」)

 国籍や肌の色などを理由に警察官から何度も職務質問されるのは人種差別で、法の下の平等を定めた憲法14条などに反するとして、外国出身の3人が国などに損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。
 こうした警察活動は「レイシャル・プロファイリング」といい、偏見を助長するなどの問題が国際的に指摘される。日本では3人以外からも被害の訴えが相次ぐ。
 問われているのは公権力による差別的行為である。何のいわれもないのに、見た目を根拠に職務質問された人の恐怖や悔しさは計り知れず、決して許されない。
 異なる民族の人と接する機会が増す中、問題を放置したままでは多様性を尊重した共生社会は構築できまい。国は提訴を重く受け止め速やかに是正する必要がある。訴訟でも真摯(しんし)に対応すべきだ。
 職務質問警察官職務執行法に基づき、犯罪が疑われる相当な理由がある場合に任意で行われる。
 原告は日本国籍や永住権を有する。長年、外見の特徴から警察に呼び止められる経験をしてきた。
 ある原告は交通違反もないのに警察官に車を止められ「外国人の運転は珍しいから」と言われた。他にも100回近く職務質問され、ひきこもりになったという。
 重大な人権侵害だが、これは氷山の一角だ。東京弁護士会が外国出身者ら約2千人に行った調査では6割が職務質問を経験し、このうち7割は複数回受けていた。
 「大勢の前で犯人のようにされた」「警察署に連行され、指紋も取られた」との回答もあった。
 在留外国人数は過去最多を更新したが、刑法犯などで摘発された外国人は年々減っている。外国人には犯罪者が多いという見方は根拠のない偏見でしかない。
 一方、原告の弁護団が入手した愛知県警のマニュアルには「外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等何でもあり」との記述もあった。
 警察は市民の信頼を得て地域の安全を担う。その警察にこんな偏見がまかり通れば市民も影響され、社会の分断を招きかねない。
 警察庁は2022年、人種の特徴に基づく不適切な職務質問が6件あったと公表し、「指導を徹底する」とした。だが原告はその後も不当な職務質問を受けている。
 国は現場に残る差別意識を直視し、改善を図らねばならない。
 職務質問の実務や禁止事項を明確化して、警察官への指導を強化するべきだ。不当に扱われた当事者から警察官が直接、話を聞く研修も検討してもらいたい。