◆23社の52電源に総額4102億円が
この制度は「長期脱炭素電源オークション」。1月に入札が行われた。発電会社は施設などの維持費を積算し、経済産業省が所管する電力広域的運営推進機関(OCCTO)の入札に応じる。落札できた場合、維持費に相当する補助金を受け取れる。補助額は各社の落札価格が基になる。
OCCTOによると、初年度の2023年度の募集は最大1000万キロワットで、23社計52電源が総額4102億円で落札した。水力発電やバイオマス発電、蓄電池のほか、原発では唯一、中国電力の島根3号機(131万キロワット)が含まれる。
◆価格の情報公開請求には「非開示」
個々の落札価格や受取期間は公表されていない。東京新聞は個別の落札価格などについてOCCTOに情報公開請求をしたところ、「非開示」となった。「事業者の経営方針や事業活動の情報と考えられ、公表対象ではない」とした。
制度を設計した経産省資源エネルギー庁への情報公開請求では、文書不存在を理由に「不開示」だった。同庁の担当者は「必要な時が来たら(OCCTOに)情報提供を求めるが、現時点では作成も取得もしていない」とする。原発を対象に補助金を受ける中国電力にも尋ねたが「経営戦略上、回答を控える」とした。
◆支払いを拒めないのに負担させられる
島根原発=2011年撮影
初回の2023年度は新設や建て替えに補助対象が絞られたが、今月手続きが始まった2024年度からは「新規制基準への安全対策工事が必要な原発」も対象となる。
龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「発電会社への新たな補助制度で、支払いを拒めない税金のようなものを市民は負担させられる。どの電源に、どれだけの期間、いくら支払わされるのかが分かるよう公開するのが当然だ」と語る。
NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「落札価格が公表されなければ、応札価格が低い順から落札するという基本ルールが機能しているのかさえチェックできない」とも指摘。この懸念について、エネ庁の担当者は「OCCTOを信頼するしかない」と話した。
長期脱炭素電源オークション 発電した電気(キロワット時)を売買する卸電力市場に対し、発電能力(キロワット)を取引する容量市場の一つ。再生可能エネルギー拡大の影響で、卸電力市場での電気価格が低下し、大手発電会社が保有する大規模電源の投資回収見込みが不確実になったことが導入の背景にある。発電会社が電源維持のために必要な金額をキロワット単価で応札し、低い順から落札。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)実現に向け、毎年400万〜600万キロワットを調達し、化石燃料から脱炭素電源への移行を目指す。ただ初回は将来の脱炭素化を条件にLNG火力も参加した。
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◆落札すると人件費など20年間保証
脱炭素電源の発電会社を対象とする補助金で、個別の落札価格などが公表されておらず各社が得る金額は不明だ。国は原発も脱炭素電源に含めるが、落札した52電源で落札容量が最大の中国電力島根原発3号機はどれだけの補助金を得るのか。NPO法人「原子力資料情報室」が公開情報で試算すると、年間700億円を超えた。
この制度では、発電会社はまず年間の固定費(建設費や人件費など)に当たる金額をキロワット単価で応札する。落札すると、固定費分が収益の一部として原則20年間保証される。ただ実際の売電収入と合わせると収益の二重取りとなるため、売電後の利益の9割を還付する。
◆「国民の理解が得られるとは到底…」
補助金を受け取れる「制度適用期間」も非公表のため、原則通り20年だと計1.5兆円。OCCTOによると、落札電源の3分の1が20年を超える受け取り期間に設定している。
ここから還付金が発生するが、補助が巨額なのは変わりない。同NPOの松久保肇事務局長は「ほとんど知らされることなく、極めて複雑かつ不透明な制度の下で負担を強いられることに、国民の理解が得られたとは到底考えられない」と指摘する。