エネルギー戦略に関する社説・コラム(2024年5月20日)

エネルギー戦略の改定 将来に責任果たす議論を(2024年5月20日『毎日新聞』-「社説」)
キャプチャ
岸田文雄政権は脱炭素化に向け原発活用の推進を打ち出すが、現実味は乏しい。地元の同意がハードルとなり、再稼働が難航する東京電力柏崎刈羽原発7号機=新潟県刈羽村で2023年11月、佐久間一輝撮影
 2050年の脱炭素化に向けた取り組みを加速させつつ、電力の安定供給を確保する道筋を描かなければならない。
 政府が中長期のエネルギー戦略を示す「エネルギー基本計画」の改定作業に着手した。3年をめどに見直しており、今回は40年度の電源構成の目標を盛り込む。
 気候危機が深刻化する中、欧米は化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトを進める。欧州ではドイツなど電源に占める再エネの割合が5割を超える国も多い。
 日本は22年度の再エネの割合が2割強にとどまり、7割超を火力が占める。3割は温室効果ガスを多く排出する石炭火力だ。現行計画は30年度に再エネを36~38%に高め、火力を41%に抑える青写真を描くが、これでは不十分だ。
 主要7カ国(G7)は排出削減措置が取られていない石炭火力の30年代前半までの廃止で合意した。日本も対応が迫られる。
 エネルギー安全保障の重要性も高まっている。ウクライナ危機をきっかけにロシアから西側への石油・天然ガス供給が停止され、中東産価格が高騰した。電力の安定供給を図るためにも脱化石燃料が急務である。
 新計画では、再エネの普及目標を大幅に引き上げ、火力の割合を可能な限り低減すべきだ。天候に発電量が左右される再エネの弱点を克服できるように技術革新を後押しするなど、あらゆる手立てを講じなければならない。
 政府は「脱炭素電源」として原発の活用を推進する。岸田文雄政権は昨年、東京電力福島第1原発事故以来の方針を覆し、運転期間延長や新増設解禁を打ち出した。
 だが、22年度の原発比率は6%と、30年度目標の20~22%にほど遠い。国民の不信感が根強く、再稼働は停滞している。安全対策費が膨らみ、もはや「安い電源」でもない。現実離れした原発活用策は脱炭素にもエネルギー安保にも貢献しない。
 現行計画は人口減少などで電力需要が減ると想定する。だが、人工知能(AI)普及などデジタル化の進展で需要増加が見込まれている。省エネの強化も不可欠だ。
 脱炭素社会の実現という将来への責任を果たすには、国民や企業に行動変革を促す戦略が必要だ。
 
エネルギー計画 脱炭素のカギは技術革新に(2024年5月20日『読売新聞』-「社説」)
 
 脱炭素のために火力発電を削減しながら電力の安定供給をどう確保するか。政府は、その難題を解決するため、技術革新を強力に後押ししていかねばならない。
 経済産業省有識者会議が、国のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の改定に向けた議論を始めた。見直しは3年ぶりで、今年度内に新たな計画を閣議決定する方針だ。
 現計画は、2030年度の電源構成について、太陽光などの再生可能エネルギーを「36~38%」、原子力を「20~22%」、石炭など化石燃料を使う火力は「41%」とする目標を示した。
 新計画は40年度の電源構成の目標を打ち出すという。再生エネの比率を上げ、原発の活用をどこまで進められるかが焦点になる。
 日本は、温室効果ガスの排出量を50年に実質ゼロとする国際公約を掲げている。新計画で目標達成への道筋を明示してほしい。
 現状では、国内の電力の70%超を火力で賄っており、再生エネは約22%、原子力は約6%にとどまっている。50年目標の達成は厳しさを増しているのが実情だ。
 これまでは、人口が減り電力需要が減少すると見込まれていた。ところが、電力を大量に使う生成AI(人工知能)の普及で、需要は伸びるとの予測が出てきた。
 増える需要を賄うには、電力の供給力を高めなければならず、一方で、脱炭素のためには火力発電を減らさなければならない。克服には技術革新が欠かせない。
 二つの課題を両立させる対策の一つは再生エネの拡大だ。
 従来型の太陽光発電の適地は少なくなっている。シート状で、ビルの壁面や窓などにも貼ることができる新型の太陽光電池の普及を急ぐことが重要になる。
 洋上風力の拡大も大切で、浮体式の量産技術の確立が必須だ。
 NTTが開発に取り組んでいる光技術を使った新型の半導体は、電力消費量を激減させる可能性を持っているという。
 これら脱炭素に資する技術を開発し、実用化することが不可欠となる。政府は技術開発への投資を促す戦略を練ってもらいたい。
 また、原子力発電は、電力の安定供給と脱炭素の両立に有効だ。国内33基のうち、東日本大震災後に稼働したのは12基である。政府が再稼働を後押しすべきだ。
 原発の新増設や建て替えも重要なテーマとなる。基幹電源と位置づけている以上、新増設の方針を明記する必要がある。
 
エネ計画の改定 原発の積極活用を目指せ(2024年5月20日『産経新聞』-「主張」)
 
 国のエネルギー政策の指針である「エネルギー基本計画」の見直しに向けた議論が始まった。令和22(2040)年度の電源構成などを検討し、今年度中に改定する。
 ロシアによるウクライナ侵略でエネルギー情勢は一変し、エネルギー安全保障の重要性は一段と高まっている。次期計画では脱炭素とともに、低廉で安定したエネルギー供給を両立する戦略を描く必要がある。
 そのために必要になるのは原発の活用拡大である。
 岸田文雄政権は4年12月にまとめた「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」で原発を最大限活用する方針に転換した。生成AI(人工知能)の普及などによって今後、増大が見込まれる電力需要に対し、原発は大量の電気を安定的に供給できる。
 現行計画では12年度の電源構成のうち原発は20~22%としているが、4年度の実績は5・6%にとどまっている。
 活用拡大には、新規制基準に合格した原発を着実に再稼働するとともに、原発の建て替えや新増設が欠かせない。政府は次期計画でそうした方針を明確に示し、実現に向け率先して取り組んでもらいたい。
 脱炭素を進めるため、再生可能エネルギーの導入拡大も論点となる。だが、天候に左右される再エネを増やせば、電力供給は不安定化が避けられない。立地を巡り地元住民とのトラブルも増えている。蓄電池や送配電網の整備といった課題解決の手段も並行して議論しなければならない。
 大量のCO2を排出する石炭火力発電の是非も重要なテーマだ。先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合でCO2の排出削減対策を講じていない石炭火力を17年までに廃止することで合意したが、日本は4年度で30%超の電気を石炭火力で賄っている。
 日本は燃やしてもCO2を排出しないアンモニアを石炭に混ぜて燃やす技術開発を進めている。軌道に乗れば、石炭火力の割合が高いアジアの脱炭素にも貢献できるはずだ。
 政府は22年に向けた脱炭素化と産業政策の方向性を盛り込んだ新戦略を年内に策定する。次期エネルギー計画に沿う形で企業の投資を支援し、国内産業の競争力強化につなげたい。