自民党の派閥裏金事件で、旧安倍派幹部が真相を知りうる立場にあり、重い責任を負っていることが改めて浮き彫りになったと言える。政治不信の解消には、証人喚問などでさらに説明を求める必要があろう。
党利党略がうかがえる判断ではあるが、パーティー券販売のノルマ超過分を還流させていた裏金づくりの実態解明に向け進展があれば、政倫審の意義はあった。
中でも、萩生田氏の発言は注目された。事務総長経験者と並ぶ旧安倍派の有力者であり、政治資金収支報告書の不記載額が2728万円と巨額だったからだ。
ところが、2022年4月に安倍晋三元首相の指示で取りやめた還流を誰が主導して再開したかなどの核心部分については、協議に参加する立場になかったと主張。還流の目的や開始時期も不明なまま終わった。
一方で「過去にさかのぼって、分かる人がもう少し説明する必要がある」と指摘。参院政倫審でも「旧安倍派幹部には、国民への説明責任を尽くしてもらいたい」との意見があり、衆院では稲田氏が「多くの議員は幹部が決めたことに従っただけだという意識がある」と訴えた。
当事者意識に欠けた発言ではあるが、旧安倍派の「分かる人」や「幹部」は想像がつく。先の政倫審で還流再開を含め「知らぬ存ぜぬ」の態度に終始した西村、世耕両氏や松野博一氏のほか、座長だった塩谷立氏らだろう。
有罪が確定した同派の会計責任者は公判で、西村氏らの幹部会合で還流復活が決まったと証言した。食い違いをただすためには、うそをつけば偽証罪に問われる証人喚問を行うのが妥当ではないか。
野党は国会で会計責任者の証言を取り上げ、裏金事件の再調査を迫った。だが、石破茂首相は「新たな事実が出たとは認識していない」として否定的見解を示している。
首相答弁は二重の意味で問題だ。公判での証言を軽んじていることに加え、自民内で再調査を避けようと真相に近づく「新たな事実」の発掘や表明を抑制するムードが出かねないからだ。
自民では東京都連など地方組織でも政治資金の不記載問題が発覚している。問題がさらに広がる懸念は否定できず、地方組織も対象にした調査が欠かせない。
与野党が協議して決めることとはいえ、証人喚問に応じず、再調査も実施しない場合、もはや自民に自浄能力はないと断じられても仕方あるまい。
裏金問題の政倫審 国会での追及を強めねば(2024年12月20日『毎日新聞』-「社説」)
自民党派閥の裏金作りを誰がいつ始め、いったん中止が決まりながらなぜ復活したのか。疑問は残ったままだ。
裏金問題を巡り、旧安倍派や旧二階派に所属した19人の議員が衆参両院の政治倫理審査会に出席した。パーティー券収入が派閥議員に還流されながら、政治資金収支報告書に記載されなかった経緯が明らかになるかが焦点だった。
ところが「秘書に任せていたので知らなかった」と臆面もなく答えた議員が相次いだ。これでは実態解明は進まない。
注目されたのは、旧安倍派の実力者「5人衆」の一人で、不記載が多額に及んだ萩生田光一元政調会長の発言だ。2003年の初当選後、ノルマ超過分を還流する仕組みを派閥から説明されたが、不記載は昨年まで把握していなかったと証言した。秘書に不記載とするよう指示を出していたのは派閥の事務局長だったと述べた。
2人の証言通りとすれば、実態を知り得る立場にあった旧安倍派事務局長を国会に招致し、説明を求めることが欠かせない。
2~3月の政倫審も含め、還流や不記載がどのようにして始まったのかは明らかにならなかった。安倍晋三元首相が22年に還流を中止すると決めながら再開された経緯も、闇に包まれている。
萩生田氏は復活を決めたとされる幹部会合に出席しておらず「一切関わっていない」と強調する。
多くの議員が出席を表明したのは、みそぎを早く済ませたいとの思惑からだろう。このままでは、説明責任を果たしたとは言えない。
今後、政倫審に出席する予定の参院議員の大半は議員のみが傍聴する形での開催を求めるが、公開の場で証言するのが筋だ。
国民の政治不信は解消されていない。真相究明に向け、国会で追及を強めなければならない。
衆参政倫審 還流の真相解明を尽くせ(2024年12月20日『産経新聞』-「主張」)
16年には、ノルマ超過分を政治資金収支報告書に記載しないことになっていると、派閥事務局長から事務所担当者に説明があったとも証言した。
少なくとも約20年前から還流と不記載が行われていたことを裏付けるものだ。長期にわたり自浄作用が働かなかったことを、旧安倍派と自民は改めて深刻に受け止めねばならない。
還流をめぐっては4年4月の同派幹部会合で、安倍元首相の意向を踏まえ、一旦停止が決まった。だが、安倍氏の死去後に再開された。派内の反発があったためだが、具体的な経緯は不明なままだ。
有罪が確定した旧安倍派事務局長の松本淳一郎会計責任者は公判で、還流再開は4年8月の幹部会合で決まったと証言した。同派元幹部は今年3月の衆院政倫審で「結論は出なかった」と語るなど食い違いがある。松本氏は「ある幹部から還流再開の要望があった」ため会合が開催されたとも述べたが、幹部の名を明かさなかった。
萩生田氏は政倫審で「過去に遡(さかのぼ)って、分かる人がもう少し説明する必要がある」と語った。事情を知りながら、口をつぐんでいる関係者はいるだろう。
裏金づくりの実態解明に近づいたとは、到底言えない。全面公開での審査を拒む議員がいることは理解に苦しむ。これでは政治への信頼を回復できるはずがない。
04年には事務所担当者が、ノルマ超過分は収支報告書に記載しない取り決めだと派閥側から説明された、とも述べた。
旧安倍派が少なくとも約20年前から裏金づくりをしていたことを裏付ける証言といえるが、誰が始めたかは不明なままだ。03年当時の派閥会長だった森喜朗元首相への調査が必要だろう。
3月の政倫審で、会合に出席した塩谷立氏ら幹部4人が「結論は出なかった」とした。一方、会合に同席し、政治資金規正法違反で有罪となった派閥会計責任者は「4人の協議で決まった」と証言し、食い違いが生じている。
自民としては、来年の参院選に影響しないよう年内に審査を終え、幕引きを図りたいのだろう。
衆院選当選を「みそぎ」としたい旧安倍派の議員が出席を渋る中で、党執行部は人事の正常化や追加の処分をしないことなどを条件に、開催にこぎつけたという。
しかし、参院は出席意向の27人のうち全面公開に応じたのは5人にとどまる。残る22人が認めたのは議員傍聴だけだ。
与党からも「国民に説明しないと開く意味がない」「国民に説明責任を果たすことができるのか」と疑問の声が出ている。
参院で審査を終えたのは4人で、残る議員の審査日程は未定だ。
裏金で政倫審 証人喚問で真相の究明を(2024年12月20日『西日本新聞』-「社説」)
実態解明はまたも進まなかった。だからといって裏金事件の幕を引いてはならない。
いずれも公開で1人が1時間程度、弁明して質問に答えた。新たな証言はない。
この問題が決着しない理由は明白だ。裏金づくりを誰がいつ、どういう理由で始め、何に使ったのか。肝心なことが分かっていないからだ。
特に派閥の意思決定に関しては、そろって知らないと言うばかりだ。旧安倍派の稲田朋美氏は「派閥の多くの議員は幹部の決めたことに従っただけだという意識がある」と述べた。違法性の認識はなかったという。
他の議員も「裏金をつくる意図はなかった」「秘書から報告がなかった」と釈明し、知らぬ存ぜぬを繰り返した。
会計処理に疑問を持ったにもかかわらず、結果的に放置していた議員もいた。無責任と言うほかない。
当該議員からは、党や内閣の役職に就けないことへの不満が出ているという。政倫審での説明は最低限の責務である。「みそぎ」になると思ってはならない。
野党は証言の食い違いを指摘し、自民に再調査を要求しているが、石破茂首相は「新たな事実が出たとは認識していない」とかわす。これまでと変わらず、自民が進んで解明する意欲は見えない。
裏金事件が発覚して1年になる。貴重な国会審議の時間をこの問題ばかりに費やすわけにはいかない。