会議同席の原告側証人元捜査員「捜査に問題あった」 大川原化工機国賠証人尋問詳報(下)(2024年10月16日『産経新聞』)

会議同席の原告側証人元捜査員「捜査に問題あった」 大川原化工機国賠証人尋問詳報(下)(2024年10月16日『産経新聞』)
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大川原化工機の大川原正明社長
外為法違反(無許可輸出)罪などに問われ後に起訴が取り消された「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長らが、東京都と国に損害賠償を求めた訴訟。東京高裁で開かれている控訴審(太田晃詳裁判長)では、警視庁公安部の取り調べが適正に行われていたかどうかが争点の一つとなっている。9日に開かれた第2回口頭弁論では、原告側の証人として警視庁公安部に当時所属した捜査員Cが出廷。Cは警視庁と経済産業省の会議に同席するなどしていたという。
《まず、原告側の弁護士による質問が始まった。Cは経産省と警視庁との打ち合わせに3回立ち会い、参加していないときは捜査メモを読んで情報を把握していたとした》
原告側の弁護士「(熱風で装置内を殺菌できるという)乾熱殺菌理論で公安部は(経産省に)相談していた」
C「初めからではないが、途中からそうなりました。警察内部で作りました」
原告側の弁護士「誰が思いついたのか」
C「上司と経産省に直前まで行っていた捜査員とで思いつきました」
《Cは、警視庁は平成29年9月の温度を測る実験で滅菌温度に達しなかったため、殺菌で行こうと、経産省と相談し始めたとするが、経産省は「なんの証明にもならない」と回答。30年1月26日でも断られ、2月2日に再び打ち合わせを行ったとした》
原告側の弁護士「2月8日、経産省側から家宅捜索に協力する姿勢を示された。この短い間に新たな材料の提供がないのに、(経産省が姿勢を)一転したのはなぜだと考えるか」
C「警部レベルではどうにもならないので、警視庁の上層部から経産省にお願いしたからだと考えます。(お願いしたのは)公安部長ではないかと考えています」
原告側の弁護士「誰のどういう発言でそう思ったのか」
C「上司の係長が『どうにもならないから上層部にお願いするしかない』といっていたのを聞きました」
原告側の弁護士「報告は誰がしたのか」
C「上司の係長」
原告側の弁護士「係長は何と言っていたか」
C「喜んでいました。上に感謝しないとだねと」
原告側の弁護士「経産省とのやり取りのメモは家宅捜索協力への密約に見えるが」
C「その通り」
原告側の弁護士「こういう話は正々堂々とできるものか」
C「恥ずかしい相談。あってはいけないこと。ただ、家宅捜索しないと向こうの言い分が分からないと言っていたので、向こう(経産省)も家宅捜索までは容認してもらったという認識」
《30年10月に家宅捜索し、12月から大川原社の役員の取り調べが始まった》
原告側の弁護士「乾熱殺菌理論の定義を従業員に伝えたか」
C「いいえ」
原告側の弁護士「示さぬよう係長に指示されていたのか」
C「そうです」
原告側の弁護士「どのように」
C「殺菌できるほうが性能がいいと理解されると。それで殺菌できると(言わせる)」
《Cは取り調べで従業員から「温度が上がらない」という指摘を受け、捜査が袋小路になったと証言》
原告側の弁護士「今回の話は検察が起訴を取り消している。捜査に問題がなかったと考えているか」
C「問題がありました」
原告側の弁護士「(公安部が)独自に殺菌理論を考えてまで立件を進めた、そこまでの理由があったのか」
C「組織としてもない。日本の安全を考える上でもない。決定権を持っている人の欲だと思います」
× × ×
《続いて都側の弁護士の質問が行われた》
都側の弁護士「(警視庁公安部の事件担当課で)勤務していた期間は」
C「平成26~31年。その前も1年ずつ2回」
都側の弁護士「31年3月以降は」
C「三宅島で勤務」
都側の弁護士「この事件に専従した期間は」
C「当初から平成31年3月に転勤するまで」
都側の弁護士「29年10月6日から12月8日までの間、経産省とのやり取りは別の捜査員が中心で、あなたは参加していなかったのか」
C「参加していません。結果は聞いていました」
都側の弁護士「あなたはどんな役割だったのか」
C「書類管理と理系の人材が少なかったので、噴霧乾燥機の性能検査。あとは経産省との窓口やりとり」
《昨年開かれた1審東京地裁の証人尋問で、捜査を担当した警視庁公安部の捜査員が、原告側代理人に「事件はでっち上げと思うか」と聞かれ、「捏造(ねつぞう)ですね」と証言。都側の弁護士は、この捜査員とCの関係について尋ねた》
都側の弁護士「(1審で「捏造ですね」と証言した)捜査員とあなたの上下関係は」
C「同期だが、彼はデスク業務、私は経産省に出向した経験もあり、書類を書くのに向いているので」
都側の弁護士「(大川原化工機を巡る事件)で取り調べに従事したことは」
C「ありません。個別に呼んだ人に係長が指示しているのを聞きました。何度も」
《最後に裁判官が質問し、Cが捜査にどのようにかかわったのか確認。Cは端緒を得たときから平成31年3月まで、データ管理、エクセル管理などを行っていたと証言し、この日の証人尋問は終了した》
《次回12月25日に控訴審が結審する。判決は来年になる見通しだ》
(終わり)
公安部捜査員「捜査は適切だった」 国賠証人尋問詳報(上)
捜査員「取調官は欺いていない」 国賠証人尋問詳報(中)