化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件を巡り、社長らが東京都と国に賠償を求めた訴訟の控訴審第2回口頭弁論が9日、東京高裁で開かれ、証人として出廷した警視庁の男性警部補が「捜査に問題があった」と証言した。
警部補は「立件するような理由はなかった」「決定権を持つ人の欲」「マイナス証拠を無視した」とも語った。
大川原化工機の事件では、1審・東京地裁の審理で別の警部補2人が「(事件は)捏造(ねつぞう)だと思う」「立件しなければいけないような客観的事実はなかった」などと証言した。
公の場で捜査を批判した警視庁の現職警察官はこれで3人目となり、極めて異例の事態となった。
1審・東京地裁判決(23年12月)は捜査の違法性を認め、国と都に約1億6000万円の賠償を命じたが、双方が控訴していた。
控訴審で会社側は、公安部が経済産業省の輸出規制省令を独自解釈して、大川原化工機の装置が輸出規制の対象になるとみなし、立件に踏み切ったと主張。公安部が経産省に不当な働きかけをしたとして、公安部と経産省の打ち合わせが記載されているメモを証拠提出している。
9日の尋問で捜査批判をした警部補は、事件着手前の公安部と経産省の打ち合わせに同席していた。
化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件を巡る国賠訴訟の控訴審第2回口頭弁論が9日、東京高裁で開かれ、元顧問の相嶋静夫さん(享年72)を取り調べた警視庁の男性警部が証人として出廷した。
相嶋さんは被告の立場のまま病気で死亡した。警部は「亡くなったことはお悔やみ申し上げたいが、捜査自体は適正だった」と述べた。
事件では、大川原正明社長(75)と相嶋さんら3人は軍事転用可能な装置を不正輸出したとして外為法違反に問われ、2020年3月に警視庁公安部と東京地検に逮捕・起訴されたが、21年7月に起訴が取り消された。
社長らは東京都と国に賠償を求めている。
訴訟では、捜査当局が、大川原化工機の装置が輸出規制品に当たるかを確認する温度実験を尽くしたかどうかが争点となっている。
1審判決は、相嶋さんらが取り調べで「装置内に温度が上がりにくい箇所がある」と訴えたのに、公安部が温度を測る再実験をしなかったとして捜査を違法とした。
警部は証人尋問で、「相嶋さんが温度が低い箇所があると指摘したことはない」と述べ、捜査が適正だったと主張した。
原告の一人となっている相嶋さんの長男(50)も警部に直接質問。一連の起訴取り消しを踏まえ、遺族に謝罪の意思があるかどうかを尋ねたが、警部は「謝罪はありません」と答えた。【遠藤浩二、春増翔太】