安倍・菅・岸田と12年続いた「1強」体制が何をもたらしたのか。それは、国民の中に不安が残る政策を熟議を尽くさずに決めてしまう、民主主義を軽視する政治手法だと思う。「1強」体制と距離を置いてきた石破茂首相には、民主主義の立て直しが求められる。
安倍内閣は2015年、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法を成立させた。「違憲」と指摘する世論の反対を押し切り、歴代内閣の見解を解釈改憲で変更する異例の政治手法だった。森友・加計学園、桜を見る会の問題でも、政治の私物化との疑問に答える姿勢を欠いた。その後の菅内閣も日本学術会議の会員候補の任命拒否などで国民の政治不信を高めた。
岸田文雄氏はそんな政治姿勢を「民主主義の危機」と指摘し、「聞く力」を掲げた。だが、アベノミクスで拡大した格差に苦しむ国民が求め、岸田氏自身も強調した「分配」はすぐに影を潜め、高齢者が心配している現行保険証の廃止方針も変えなかった。安全保障では専守防衛を形骸化させる敵基地攻撃能力(反撃能力)保有も決めてしまう。岸田氏も「安倍路線」の踏襲者となっていたのだ。