石破氏「おきて破り」の解散明言、政権安定化へ賭け…議席減なら責任論も(2024年10月1日『読売新聞』)

 自民党石破茂新総裁が30日、衆院解散・総選挙の方針表明に踏み切ったのは、政権基盤を安定化させるため、可能な限り早期に国民の信を得ることが必要だと考えたためだ。結果が振るわなければ責任論に発展しかねず、選挙はもろ刃の剣でもある。(政治部 中田征志、樋口貴

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弱党内基盤

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衆院解散の意向を表明する自民党の石破新総裁(30日、党本部で)=西孝高撮影

 「首相でない者がこのようなことを行うのは、かなり異例なことだと承知をしている」

 石破氏は30日、党本部で行われた新四役の記者会見の前に割り込む形で解散方針を明言した後、記者の質問に対し、解散権を握る首相への就任前に投開票日まで言及するのは「おきて破り」だと認めた。

 石破氏が「最短日程」にこだわったのは、先送りすれば、総裁選や新内閣発足の熱が冷めかねないためだ。森山裕新幹事長もこれを懸念し、「早期決戦」を強く求めて30日の表明を後押しした。

 長く「党内野党」の立場にあった石破氏の党内基盤は弱く、衆院選での勝利を背景に求心力を高めることが急務だ。

 党役員・閣僚人事では、総裁選勝利に貢献した旧岸田派や菅前首相らに報い、挙党一致のため、高市経済安全保障相の支援に回った麻生派からも鈴木俊一新総務会長らを起用したものの、党内不和の火種はくすぶっている。

冷ややか

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 石破氏の打診に対し、高市氏は総務会長を断り、1回目投票で5位だった小林鷹之・前経済安保相も党広報本部長を固辞した。

 高市、小林両氏を支援した党内保守層は、選択的夫婦別姓などに前向きでリベラル色の強い石破氏を冷ややかな目で見ている。高市氏周辺は「政権に入って支えるよりも、党がおかしな方向に行かないように監視すべきだ。支持者もそれを望んでいる」と漏らした。

 今回、入閣がゼロだった旧安倍派の不満も強い。

 派閥の政治資金規正法違反事件を受け、岸田首相は昨年12月、旧安倍派の閣僚4人と副大臣5人の全員を更迭した。石破氏は8月のテレビ番組で「有権者の審判を受けて要職にということだ」と語っており、選挙を経るまで重要ポストで処遇しない考えだ。

 旧安倍派若手は岸田氏が総裁選後、ノーサイドを呼びかけたことを皮肉り、「これではワンサイド人事だ」と批判した。安倍元首相を「国賊」と表現し、2022年に党の役職停止1年の処分を受けた村上誠一郎氏が総務相に起用されたことも反発を呼んでいる。

リスク

 「政治とカネ」を巡る自民への逆風は収まっておらず、新体制への世論の評価も定まらない中での選挙にはリスクも伴う。新執行部や新閣僚に不祥事が浮上すれば、選挙前に失速する可能性もある。

 21年10月の前回衆院選で、自民は単独で絶対安定多数(261議席)を確保しており、石破氏の「勝敗ライン」が注目されるのは確実だ。大幅に議席を減らせば、早くも政権運営に黄信号がともりかねない。

 党ベテランは「石破氏は国民人気が高く、選挙に強いという期待感から選ばれた面もある。敗れれば、『反石破』の動きが顕在化し、政権運営は苦しくなる」と指摘した。

不記載議員らの公認が焦点

 与党内では、早期解散に対し、おおむね歓迎の受け止めが出ている。

 閣僚経験者は、知名度の高い石破新総裁と小泉進次郎・新選挙対策委員長について、「選挙応援の最強タッグだ。勝負を急ぐ判断は正しい」と評価した。秋の衆院選を求めていた公明党からも、「新総裁の意向をしっかり受け止め、準備をしたい」(石井代表)との声が上がった。

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 小泉氏は30日の記者会見で、「大事な仕事は一人でも多くの仲間を当選させることだ」と力を込めたが、公示まで2週間と準備期間が短い中、早速手腕を試されることになる。

 最大の焦点は、派閥の政治資金問題で政治資金収支報告書に不記載があった旧安倍派議員らへの公認問題だ。石破氏は8月、総裁選へ出馬表明を行った際、「公認するにふさわしいかどうかの議論は徹底的に行われるべきだ」と述べた。

 森山新幹事長はこの日の記者会見で、「国民の信頼に値する公認候補の決定を考えていかなければならない」と強調。小泉氏は「都道府県連に対し、不記載の件も含めて厳正な審査のうえで機関決定をし、公認申請をするように今依頼をかけている」と明らかにした。

 一律の基準は設けず、地方組織の声を尊重することで柔軟に判断する考えとみられる。もっとも、理由が曖昧なまま公認すれば、有権者の批判を招き、非公認が続出すれば、党内の不満が強まるというジレンマがある。

 石破氏は公明とのパイプが細く、選挙協力をいかに円滑に進めるのかも懸案だ。自民内には「双方が新体制に移行したばかりで、これまで通りにできるかどうかは手探りだ」との声が出ている。