東大学費値上げ 教育予算を増やさねば(2024年9月30日『東京新聞』-「社説」)
東京大学は20年間据え置いてきた授業料を、2025年度の学部入学生から20%、約11万円値上げして年間約64万円とする。大学経営の厳しさは理解するが、その原因は教育への公費支出の少なさにある。国は将来を支える人材育成にこそ財源を振り向けるべきではないか。
授業料値上げ分の使途は、学生の履修状況を確認するシステムの強化、海外留学のための奨学金などだという。反対する学生が2万7千筆超の署名を集め、抗議集会を開いてきた=写真。
大学は学生への支援策として、授業料全額免除の対象を現在の世帯収入400万円以下から600万円以下に広げる。900万円以下から600万円超の世帯は出身地などに応じて減免するが、具体的な基準を示しておらず、きめ細かく支援すべきだ。
全国に86ある国立大学の授業料は、国が標準額(53万5800円)を定める。04年の独立法人化後、国は運営費交付金を13%減らしたため財務状況が厳しさを増している。物価高や人件費増が厳しい経営状況に追い打ちをかけており、国立大学協会は6月、国などに窮状を訴える声明を発表した。
国立大は私立大に比べて授業料が安く、裕福な家庭でなくても進学しやすい教育環境にある。各地域で人材を育成する中核的な高等教育機関という役割も担う。
各大学も授業料値上げに踏み切れば、しわ寄せは多くの家庭に及ぶ。東大に安易に追随しないようクギを刺しておきたい。
特に、高等教育の公費割合は37%と加盟国平均68%を大きく下回る。日本は、高等教育無償化をうたう国際人権規約を批准しながら誠実に履行していない状況だ。
授業料改定について説明する東京大の記者会見=東京都文京区の東大で2024年9月10日午後6時34分、田中泰義撮影
高等教育のコストを誰がどの程度、負担するのか。国全体で議論を深めるべきだ。
東京大が授業料を値上げする方針を明らかにした。来年度に入学する学部生から、現在の年53万5800円を2割増の64万2960円とする。改定は20年ぶりだ。修士課程については2029年度の入学者から適用される。
家計が苦しい学生に配慮し、授業料免除の対象を、世帯収入400万円以下から600万円以下に拡大する。
値上げの背景にあるのは、財務状況の悪化だ。大学の収入には授業料のほかに、人件費や光熱費にあてる国の運営費交付金、寄付金などがある。
20年前の法人化以降、国は財政難などを理由に運営費交付金を減額してきた。
大学は支出削減や外部資金の獲得に取り組んでいるが、光熱費など物価の高騰が経営を圧迫している。国立大学協会は「もう限界」だとして、国の支援拡充を求める異例の声明を出した。
その分、家計の負担は大きくなり、物価上昇が追い打ちをかけている。教育を受ける権利が経済的理由で制限されるようなことがあってはならない。
近年、日本の大学の実力低下が著しい。研究の質、国際性、産業界への貢献などを総合評価する英誌のランキングでは欧米や中国が上位を占め、100位以内に入ったのは東大と京都大のみだ。
大学の運営を持続可能にするためにも安定的な財政基盤が欠かせない。学生に過度な負担をかけず、政府や産業界が支える仕組みを考えていく時だ。