大学授業料引き上げに関する社説・コラム(2024年8月21日)

授業料引き上げ/大学運営の在り方考える時(2024年8月21日『福島民友新聞』-「社説」)
 経済的理由で断念することなく、誰もが希望する勉強や研究に励める環境を整える必要がある。
 東大が現在、授業料の引き上げを検討している。最近の物価、光熱費の高騰が背景にある。中教審の特別部会も大学など高等教育機関の教育費負担について年度内に答申する方針で、大学の授業料を巡る動きが活発になっている。
 国立大の授業料は文部科学省令が定める「標準額」の年間53万5800円で、20年近く据え置かれたままだ。ただ各大学は標準額の20%増まで引き上げ可能で、東京工業大や一橋大、千葉大など一部の大学はすでに値上げしている。
 国立大は、授業料を低く抑え、経済的に苦しい世帯の子どもなどが高等教育を受ける機会を保障してきた。地元に進学先のない地方の若者などは自宅から通学できない場合、住居費や生活費なども負担になる。物価高に加え、授業料も値上げとなれば、進学を諦める若者などが生じかねない。
 東大は上限までの引き上げを検討している。判断結果は多くの大学に波及するとみられる。東大は他大学への影響なども考慮し、慎重に検討してもらいたい。
 国立大法人の主要な収入源となる国からの運営費交付金は、2004年の法人化に伴う制度導入以来、国の財政難を背景に約1割減っている。さらに物価高などが経営を圧迫しており、国立大学協会は6月、国立大の財務状況は「もう限界」と訴える声明を出した。
 大学は人材育成だけでなく、地域の研究拠点などとして産学連携の役割も担っている。国は各大学の財政状況を踏まえ、交付金を増額するなどの対応が急務だ。
 授業料の引き上げの動きは私立も同様だ。文科省の調査によると、昨年度の私立大授業料は平均で95万9205円に上り、毎年のように増額を続けている。
 国は国公私立を問わず、昨年度から低所得世帯や多子世帯を対象に、授業料などを減免する制度の拡充を行っている。しかし対象は一部に限られる。支援措置の対象拡大などを検討する必要がある。
 文科省の推計では、昨年時点で63万人いた大学入学者は、40年には2割減少する。少子化に伴い、大学経営がさらに厳しくなるのは避けられない状況だ。
 最近は企業との共同研究で収入を得る大学もある。しかし海外に比べ、日本は民間資金の投入、寄付が少ない。日本の大学の国際競争力の低下が懸念されて久しい。政府や大学だけでなく、産業界なども巻き込んで、大学運営の在り方について考える時期だ。

国立大の授業料/教育支出のあり方議論を(2024年8月21日『神戸新聞』-「社説」)
 
 国立大学の授業料を巡る動きに関心が集まっている。20年近く据え置かれてきたが、東京大などが値上げを検討していることが判明した。
 全都道府県に設けられた国立大は、私立より授業料を低く抑え、幅広い世帯の子どもに高等教育の機会を保障してきた。値上げで大学進学を諦める人が増えれば、社会にも大きな損失になる。安易な値上げは容認できない。
 人材育成や学術研究の根幹を担う大学教育の充実は一層重要になっている。だが日本は国内総生産(GDP)に占める高等教育への公的支出割合が、先進国の中で極めて低い。子どもが将来に希望が持てるよう、費用負担のあり方について社会全体で議論を深めるべきだ。
 東京大は年間約10万円の値上げを検討している。教育の国際化やデジタル化に充てるという。広島大や熊本大も値上げの検討に入るなど地方にも動きが波及しつつある。
 国立大の授業料は、文部科学省が標準額を年間53万5800円と定め、その1・2倍までは各大学の判断で増額できる。一橋大や東京工業大など7大学は既に引き上げたが、東京大を含め、多くは標準額を維持してきた。
 学生の反発は強い。「教育格差が深刻化する」「大学院に進学するかどうかに影響する」などの声が上がる。授業料減免や奨学金などの支援策は中間所得層には乏しい。学生が不安を抱くのは当然だ。
 慶応大の塾長は「国立大の授業料を年150万円程度に」と提言し、賛否が巻き起こった。私立大との公平な競争には値上げが必要-との主張だが、私立大の数が少ない地域への認識を欠いている。
 一方、国立大の厳しい財務状況にも目を向けねばならない。2004年の独立法人化以降、人件費などに充てる国からの運営交付金は減り続けている。物価高が加わり、今年6月には国立大協会が「収入を増やす努力も進めているが、もう限界」との声明を出した。設備更新を遅らせるケースも珍しくないという。
 日本の国際競争力にかかわる事態といえる。研究分野によっては、外部資金の獲得になじまない分野もあろう。国は運営交付金などの教育予算を増やす必要がある。奨学金制度の対象拡大など、学生が安心して学べる環境整備も求められる。
 都道府県別の四年制大学進学率を見ると、昨年度の最高は東京都の71%で、最も低い鹿児島県は36%だった。地方在住で家計が苦しい世帯の女子は大学進学に最も不利とも指摘される。教育への公費支出を考える上で、地域格差の是正やジェンダー平等の観点を持つことが不可欠だ。