東大が値上げしたら次は広島大か 「最大の利害関係者は学生のはずなのに秘密裏に…」国会内で学生ら怒りの声(2024年6月15日『東京新聞』)

 
 東京大が検討中の授業料値上げを巡り、反対する学生団体などが14日、国会内で集会を開いた。「家計と大学という、物価高に苦しむ当事者同士で負担を押しつけ合うことは悲劇」として、国に相応の予算措置を求めた。同様に値上げの可能性が浮上している広島大の学生も登壇し「教育格差が深刻化する」と懸念した。(西田直晃)

◆東大の判断は今後他の国公立大にも影響か

 「物価高騰のあおりを受けるのは家計。教育負担は減らす必要がある。国公立・私立を問わず、全ての授業料値上げに反対する」。衆院第2議員会館で、東大法学部4年の松香怜央さん(22)が訴えた。
国立大の学費値上げ反対を訴える東大4年の松香さん(中)=東京・永田町の衆院第2議員会館で

国立大の学費値上げ反対を訴える東大4年の松香さん(中)=東京・永田町の衆院第2議員会館

 現在の東大の授業料は、標準額とされる年53万5800円。関係者によると、文部科学省令で認められる上限約10万円の増額を検討している。今月中にも値上げの方針が固まる、との観測もある。
 松香さんは、国立大の基盤的経費とされる運営費交付金の増額や、経済的に困難な学生への授業料免除の拡充などを求める要望書を、文部科学省国立大学法人支援課の担当者に手渡した。担当者は「運営費交付金は(2004年の)法人化後、年1%ずつ減額していた」と認めつつ、「昨今の物価高騰が大学の財務に影響していることは認識している。交付金はしっかり確保する」と述べた。
 5月中旬に東大の授業料値上げの方針が表面化して以降、広島大、熊本大も今後の増額の可能性を示した。東大の判断が他の国公立大に影響する、との危機感が強まっている。

◆教育格差の深刻化を懸念

 懸念されるのは、学生や教員への十分な説明がないまま、値上げが強行されることだ。広島大文学部2年の原田佳歩さん(19)は「広島大では本質的対話を経ず、2年間も秘密裏に検討されていた。教育格差の深刻化を招きかねない。最大の利害関係者は学生のはずだ。大学統治の改善を求めたい」と憤る。
国立大の学費値上げ反対を訴える広島大の学生(左から2人目)=東京・永田町の衆院第2議員会館で

国立大の学費値上げ反対を訴える広島大の学生(左から2人目)=東京・永田町の衆院第2議員会館

 中国哲学を専攻し、文系大学院への進学を考えているという原田さん。「大学にカネを稼ぐことが求められるなら、哲学のような、問題解決の基礎となる学問は衰退してしまう。基礎研究の軽視は、社会を貧しくする」と訴えた。
 原田さんが言うように、大学が背負わされた「競争力強化」に対し、特に人文系の学生や教員の危機感は強い。実際、広島大で値上げ反対の署名を集めた学生団体も、メンバーの半数が人文系の学部という。

◆「政治家にだまされた」有馬氏は晩年、法人化を悔やんだ

 法人化後の国立大などの苦境を「後悔している。私が大失敗した」と回想したのは、検討開始当時の文部相で東大学長でもあった故有馬朗人氏だ。「橋本行革」のさなか政界入りした有馬氏は、最晩年の2019年、本紙のインタビューに「大学が自主的に考えられる仕組みになるから、法人化はよかろうと。教員が公務員ではなくなる問題点が、よく分かっていなかった」「政治家にだまされた。絶対やっちゃいけなかったことは、人件費につながる運営費交付金の削減」と明かした。
院内集会で国立大学の学費値上げ反対を訴える参加者ら=東京・永田町の衆院第2議員会館で

院内集会で国立大学の学費値上げ反対を訴える参加者ら=東京・永田町の衆院第2議員会館

 法人化により、教育公務員特例法の適用から外れ、「国立大の教員は『非公務員』となり、身分が不安定化した」と解説するのは、岡山大の堀口悟郎教授(憲法)。ただ、当時の法案には「公費投入額を十分に確保」との付帯決議があったとする。「『運営費交付金は減らされない』と有馬氏は考えていた。責められるべきは、当時の政府と国会ではないか」と問う。
 この日の集会では東大の加藤陽子教授(歴史学)も登壇し、学生と教職員は運営への参画の機会を有するなどとした東大憲章を、「大学の憲法」と強調した。運営の基本目標の「公正で透明な意思決定による財務計画」という記述を引用し、「今回の決定は、CFO最高財務責任者)オフィスでなされたもの。全く公正な手続きは取られていない」と批判した。
 
 
東京大学 授業料値上げ検討に学生ら団体「撤回」訴える 藤井総長“学生と対話の場を”(2024年6月15日『NHKニュース』)
 

東京大学が授業料の引き上げを検討していることを受けて、6月14日、学生らの団体が会見や集会を開き授業料免除の拡充や引き上げ案の撤回を訴えました。

授業料の引き上げを検討していることについて、東京大学は、6月10日に藤井輝夫総長のコメントをホームページに公表し、今後は総長が学生と対話する場を設けるなどして慎重に見極めた上で、決定した方針は速やかに公表するということです。

東京大学は現在、授業料の引き上げについて経済的困難を抱える学生への支援策とあわせて検討していて、仮に国が定める上限まで引き上げられると、現在の年間53万5800円から10万円余りの増額となる可能性があります。

~学生アンケート~
“「反対」71% 「どちらかといえば反対」20%”
14日は東京大学教養学部学生自治会が会見を開き、5月下旬に行った学生へのアンケートでは、回答した2297人のうち引き上げに「反対」が71%、「どちらかといえば反対」が20%だったと説明しました。

~理由は?~
理由で最も多かったのは「経済的困窮者が大学教育から疎外される」で、次いで「ほかの大学も追随する可能性がある」が多かったということです。

会見した4年生の女子学生は「物価高による家計のひっ迫も深刻で、このタイミングで値上げされた場合さらに追い込まれる」などと訴えていました。

また、別の東京大学の学生らの団体も衆議院議員会館で集会を開き、文部科学省の職員に▼国立大学への運営費交付金の増額や、▼経済的に困難を抱える学生への授業料免除の拡充などを求める要望書を手渡しました。

東京大学3年の男子学生は「奨学金という名の借金を背負っており、授業料が上がれば大学院で研究したいとは言えない。高等教育の機会は誰にでも公平に与えられるべきだ」と訴えていました。

藤井総長“値上げの場合 経済的困難な学生への支援策検討”

授業料の引き上げを検討していることについて、東京大学は、6月10日に藤井輝夫総長のコメントをホームページに公表しました。

この中では「国からの運営費交付金や授業料収入など、限られた財源を活用して、教育研究環境の充実に加え、設備老朽化、物価上昇や光熱費等の諸費用の高騰、人件費の増大などに対応せねばなりません」とした上で、「過去3年間にわたり、さまざまな施策に取り組んできました。そうしたなかで20年間据え置いてきた授業料についても、改定を検討しています」としています。

あわせて「もし値上げをする場合には、経済的困難を抱える学生への配慮は不可欠で、授業料免除の拡充や奨学金の充実などの支援策もあわせて実施しなければならないと考えており、その具体的な仕組みも検討しています」とコメントしています。

今後は総長が学生と対話する場を設けるなどして慎重に見極めた上で、決定した方針は速やかに公表するということです。

学生ら反対集会“撤回や支援策など求める決議”

東京大学は現在、授業料の引き上げを検討していて、国が定める上限まで引き上げられた場合、現在の年間53万5800円から10万円余りの増額となる可能性があります。

これを受けて、6月6日に東京・文京区にある東京大学本郷キャンパスで学生の団体が、授業料の引き上げに反対する集会を開き、およそ400人が参加しました。

参加者からは「特に地方出身者や女子学生が進学しづらくなり、多様性が失われる」とか「経済的支援を充実させても漏れるケースは必ず出る」といった意見が出ていました。

その上で大学側に、▼引き上げ案の撤回や、▼引き上げの根拠や詳細、経済的な支援策についての情報開示、▼学生団体との交渉の場の設定などを求めることを決議しました。

大阪出身 4年生の女性
「大学のお金がない状況は分かるが、10万円は相当大きな額でプレッシャーを感じます」

博士課程の男性
「これほど多くの学生が集まるとは思わず驚きました。それだけ問題視しているということなので、大学はきちんと声を聞いてほしい」

東京大学は「授業料に関して話し合っていることは事実だが検討中のため、公表できる情報はありません」とコメントしています。

国立大学 授業料引き上げる動き相次ぐ

国立大学の授業料は、文部科学省の省令で標準額が年間53万5800円となっていますが、特別な事情があるときは各大学が120%を上限に授業料を引き上げることができると定められています。

文部科学省によりますと、国立大学が授業料を標準額より引き上げる動きは相次いでいて、2019年度に初めて東京工業大学東京藝術大学が引き上げて以降、一橋大学東京医科歯科大学などこれまでに7つの大学が全学的な引き上げを行っています。

このうち6つの大学は上限の120%まで引き上げ、64万2960円としているということです。

国立大学の授業料“20年近く据え置き”

文部科学省の調査では、大学の授業料は私立では上昇が続いている一方、国立ではこの20年近くは据え置かれています。

国立大学の年間の授業料はおよそ半世紀前の1975年度・昭和50年度は3万6000円でしたが、2、3年に1度引き上げられ1987年度・昭和62年度には30万円となりました。

平成に入ってからも2年に1度引き上げられ、1993年度に40万円を超え2003年度に50万円を超えました。

国立大学が法人化され、2005年度に国が定める「標準額」が年間53万5800円となってから、20年近く国立大学の授業料の標準額は据え置かれています。

一方、私立大学の年間の授業料の平均はおよそ半世紀前の1975年度は18万円余りでしたが、1987年度に50万円を超え、2005年度には年間およそ83万円となりました。

私立大学ではその後も上昇が続き昨年度(2023年度)の平均は年間95万9205円となっていて、国立大学では標準額が据え置かれている間に、私立大学の平均は13万円近く、率にして15%増えています。