東大の授業料値上げ 公的支援を考える契機に(2024年9月14日『毎日新聞』-「社説」)

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授業料改定について説明する東京大の記者会見=東京都文京区の東大で2024年9月10日午後6時34分、田中泰義撮影
 高等教育のコストを誰がどの程度、負担するのか。国全体で議論を深めるべきだ。
 東京大が授業料を値上げする方針を明らかにした。来年度に入学する学部生から、現在の年53万5800円を2割増の64万2960円とする。改定は20年ぶりだ。修士課程については2029年度の入学者から適用される。
 家計が苦しい学生に配慮し、授業料免除の対象を、世帯収入400万円以下から600万円以下に拡大する。
 すでに東京工業大千葉大などが値上げに踏み切った。他の国立大も検討しており、東大の対応が影響する可能性がある。
 値上げの背景にあるのは、財務状況の悪化だ。大学の収入には授業料のほかに、人件費や光熱費にあてる国の運営費交付金、寄付金などがある。
 20年前の法人化以降、国は財政難などを理由に運営費交付金を減額してきた。
 大学は支出削減や外部資金の獲得に取り組んでいるが、光熱費など物価の高騰が経営を圧迫している。国立大学協会は「もう限界」だとして、国の支援拡充を求める異例の声明を出した。
 そもそも日本は高等教育に対する公費支出の割合が先進国の中でも際だって低い。経済協力開発機構OECD)が今月発表した報告書によると、加盟国平均の68%を大きく下回る37%にとどまる。
 その分、家計の負担は大きくなり、物価上昇が追い打ちをかけている。教育を受ける権利が経済的理由で制限されるようなことがあってはならない。
 近年、日本の大学の実力低下が著しい。研究の質、国際性、産業界への貢献などを総合評価する英誌のランキングでは欧米や中国が上位を占め、100位以内に入ったのは東大と京都大のみだ。
 社会保障や気候変動対策などの難題が山積している今こそ、人材育成を担う大学の機能強化が求められている。文部科学省は、来年度の概算要求で運営費交付金の増額を要求している。
 大学の運営を持続可能にするためにも安定的な財政基盤が欠かせない。学生に過度な負担をかけず、政府や産業界が支える仕組みを考えていく時だ。