AIに関する社説・コラム(2024年5月4日・9月30日)

人間のように文章や画像をつくる生成人工知能…(2024年9月30日『毎日新聞』-「余録」)
 
キャプチャ
生成人工知能(AI)ブームは足元で陰りも見える。アジア初の拠点を東京都内に開設し、記者会見する米新興企業、オープンAIのブラッド・ライトキャップ最高執行責任者(COO)=東京都千代田区で2024年4月15日午後3時9分、古屋敷尚子撮影
 人間のように文章や画像をつくる生成人工知能(AI)。「社会に革命をもたらす」と、もてはやされてきたが、足元ではブームに陰りが見える
▲企業などへの普及が思うように進まないため、投資家の間で過剰な期待感が修正され、夏場にはAI関連銘柄の株価が急落した
▲実際、米政府機関によると、商品・サービスの創出に活用する米企業の割合はわずか5%程度。帝国データバンクの調査では、日本企業の利用も全体の2割以下と低調だ。主な用途は「情報収集」や「文章の要約・校正」などにとどまり、ビジネスの変革という理想とはほど遠い
▲黎明(れいめい)期→「過度な期待」のピーク期→幻滅期→啓発期→生産性の安定期--。米調査会社ガートナーは、先端技術進化の過程を5段階に分類し「ハイプ(hype)サイクル」と呼ぶ
hypeは「誇大広告」を意味する英語で、この過程を通して真に有望な技術かどうか、ふるいにかけられるわけだ。生成AIは今、「過度な期待のピーク」を過ぎ、「幻滅期」にあるという。用途の拡大で人々に価値が認識される「啓発期」や、社会に定着する「安定期」にたどり着いていない
▲AIは1960年代にルーツと言える技術が開発されて以降、ブームと失望を繰り返してきた。「再びあだ花に終わるのでは」との懸念もあるが、2000年のバブル崩壊を経て社会インフラとなったインターネットの例もある。今度こそ、人間社会をより良くする、大輪の花を咲かせてほしいAI革命である。

AIのルール まずは国内で規制に取り組め(2024年5月4日『読売新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
マイクロソフトなど米巨大IT各社はデータセンターの増強を急ぐ
 
 生成AI(人工知能)の危険性を国際社会に訴えていく意義は大きい。ただ、国内でAIの開発を優先していては説得力を欠くのではないか。
 まずは国内でAIの法規制を強化する必要がある。
 パリで開かれた経済協力開発機構OECD)の閣僚理事会で、AIの規制と活用の両立を図るため、新たな国際枠組みを創設することで合意した。岸田首相が報告したもので、加盟国を中心に約50か国・地域で構成する。
 生成AIを巡っては昨年末、既に先進7か国(G7)が国際ルールをまとめている。
 このルールでは、AIの開発者に対し、市場でAIの技術を活用する前に、犯罪を助長する恐れがないかなどリスクの点検を求めた。また、AIが作った画像かどうかを判別するため、電子透かしなどの技術の導入も提案した。
 今回、OECDが新たな枠組みを作ることで合意したのは、G7がまとめたルールをより多くの国で共有する狙いがある。
 欧州では、AIで作った偽情報や動画が、選挙を混乱させかねないといった警戒感が強まっている。日本ではSNS上に、著名人が投資を呼びかける偽の広告が氾濫し、詐欺被害が広がっている。
 AIの負の側面を直視し、危険性を取り除くことは国際社会全体の課題と言えるだろう。
 政府は、今回の枠組み作りを主導し、参加国の共感を得た。一方、国内ではこれまで著作権法の改正には取り組まず、AIの規制に消極的だ。業界の自主規制にとどめ、活用に積極的になっている。
 日本は2018年、著作権法を改正し、著作権者の許可なく文章やイラストなどをAIに学習させることを認めた。
 この状態を放置していたら、芸術家やクリエイターらは創作活動への意欲を失うだろう。著作物を含む知的財産の重要性を政府はどう考えているのか。
 首相はOECDでの演説で、ネット上にある情報の真偽を区別するための技術開発を支援する考えを表明した。
 現在、報道機関などが研究している、第三者機関が情報の信頼性を保証し、画面上に表示する「オリジネーター・プロファイル(OP)」を念頭に置いたものだ。
 そうした技術開発を支援することは大切だが、AIのリスクはそれだけで低減されるものではない。法規制を進めている欧州を参考に、著作権法の再改正を含めて検討すべきだ。

米巨大ITはAI市場を育む投資を競え(2024年5月4日『日本経済新聞』-「社説」

 
 米巨大IT企業の1〜3月期決算が出そろった。主力のスマートフォンが不振で減収減益だったアップルを除き、マイクロソフトやアルファベット、アマゾン・ドット・コムなどが前年同期比で2ケタ増収を確保した。
 生成AI(人工知能)の普及を受けて、膨大なデータの処理に使われるクラウドコンピューティング事業が成長を後押しした。各社はインフラ投資や技術の開発を急いでおり、新市場を巡る競争が激しさを増している。
 インターネットやスマホと同様に、生成AIは社会や経済に大きな影響を与える技術革新だ。この分野で巨大IT各社が競い合うことで、市場の健全な発展を期待したい。
 アルファベットなどは1〜3月期に100億ドル(約1兆5000億円)規模を設備投資に費やした。今後も巨費を投じて生成AIの開発や運用に不可欠なデータセンターを増強する。アマゾンが生成AI開発の米スタートアップに40億ドルを出資するなど大手による有望企業の囲い込みも進む。
 アルファベット傘下のグーグルは文字を入力することで動画を作成できる生成AIを発表した。マイクロソフトはネット接続が限られるスマホなどからでも使える新型の生成AIを開発した。メタは、誰でも自由に利用や改変ができる「オープンソース」と呼ぶ手法で生成AIの普及を目指す。
 生成AIはこれまで、マイクロソフトが出資するオープンAIのサービスがけん引役だった。多様なAIが登場することで選択肢が広がり、様々な企業が自社のサービスや製品に活用しやすくなる。
 日本でもソフトバンクが生成AIの開発に必要な設備を増強し、NTTなどが独自技術の開発を進める。日本語の処理に適した技術などAIの開発余地は大きい。日本勢の巻き返しにも期待したい。
 電気自動車(EV)大手のテスラは、2024年に自動運転などに使うAIに約100億ドルを投資する方針だ。日本の製造業などもAIの活用を急ぐ必要がある。
 スマホ市場ではアップルとグーグルが寡占を強めた結果、各国の独占禁止法当局から批判を受けている。生成AIでは、世界各地にデータセンターを持つ巨大IT企業が圧倒的に有利だ。勃興期にある市場が一部の企業に支配されないよう、各国の当局は今から監視の目を強めるべきだ。