首相と地位協定 改定をなぜ提起しない(2024年10月4日『東京新聞』-「社説」)

 石破茂首相は日米安全保障体制を変質させる持論の数々を訴えてきた。政権に就き、そのまま実現を目指すのか軌道修正するのか。明確に語り、国会で議論を重ね、有権者の判断を仰ぐべきだ。
 まずは、在日米軍の特権的地位を定めた日米地位協定の改定だ。米兵の犯罪や米軍による事故が起きても、日本側が十分、捜査できない背景に、協定の不平等性があると指摘されてきた。
 在日米軍専用施設がある自治体や周辺住民が改定を強く求めながら、政府が応じてこなかった経緯がある。首相が本気で改定に取り組むのなら支持したい。
 しかし、首相は2日、バイデン米大統領と電話会談した際、協定改定には言及しなかった。3日のエマニュエル駐日米大使との面会でも、議題になったとは伝わってこない。
 改定実現に向けた好機であるにもかかわらず、提起すらしないのは理解に苦しむ。長年訴えてきた持論を就任早々棚上げするなら、米軍施設を抱える自治体や住民の期待を裏切ることになる。
 米側には、容疑を否認すれば勾留が続く「人質司法」や死刑制度など日本の司法制度の後進性への懸念があり、改定の障壁にもなっている。首相は司法の在り方も含めて検討し、改定の具体的な道筋を引き続き探るよう求める。
 首相は安保条約改定に言及し、自衛隊の訓練基地を米国内に置くべきだとも主張する。日本は米国防衛の義務は負わないと説明するが、米側には理解されまい。
 米国との核共有や核持ち込みは日本が国是としてきた非核三原則を覆す。断じて認められない。
 加盟国に相互防衛の義務を課す北大西洋条約機構NATO)のアジア版構想は、集団的自衛権の行使の全面的容認が前提で許容できない。中国を仮想敵とする枠組みにアジア各国が同調するのか。
 一連の持論は地位協定改定を除き、憲法9条との整合性が問われる。首相の一存で強行していいわけはない。27日の衆院選有権者が政権選択の判断材料とするためにも、4日の所信表明演説と続く論戦で説明を尽くすよう求める。