石破新総裁に関する社説・コラム(2024年9月28・30日)

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自民党の総裁室の椅子に座る石破茂新総裁=同党本部で
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自民党の新総裁に選出された石破茂氏(右)と岸田首相、高市早苗氏(左)=27日、党本部

適材適所を百年の計で(2024年9月30日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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自民党総裁選後の両院議員総会で握手を交わす石破茂新総裁(左)と高市早苗経済安全保障担当相=27日午後、党本部(鴨川一也撮影)
 
 奈良の法隆寺が来春から拝観料を値上げすると発表した。物価高などが理由で、東大寺薬師寺も値上げしている。世界最古の木造建築、五重塔をはじめ国宝の堂宇は度重なる災害にも耐え、先人らが守ってきた。100年、千年と後世に伝えるためにはやむを得まい。
▼その金堂などの修理を手掛け、一徹な仕事ぶりから「法隆寺の鬼」と呼ばれたのが宮大工の棟梁(とうりょう)、西岡常一さんである。生前、こんなことを言っていた。「木には癖があります」と。
▼いわく、いつも同じ方向から風が吹く所に生えている木は、その風に対抗するように働く力が生じている。その癖をみてうまく組むと「部材同士が上手に組み合わさって、動かんわけでしょ」(『木に学べ』小学館文庫)。祖父に教わった口伝の一つである。
▼巷(ちまた)でいう適材適所とはまさにこのことだが、当然ながら棟梁にはその癖を見抜く力が必要だ。眼力がなければやがて部材は勝手にあちこちを向き始め、建物は倒れてしまうだろう。人事とは組む方の力量も試される。
自民党石破茂新総裁が党役員と閣僚人事を進めている。癖があるのは人も木も同様だが、人には因縁というものがある。自分を支持してくれた人にいかに報いるか、戦った相手をどう処遇するか。政治家としてだけでなく、人としての器も問われている。それは受ける側にも言えるわけで、国民は双方の一挙手一投足を興味深く見つめている。
▼まもなく首相に就く新総裁はいわば日本の政治家の棟梁だ。百年の計を見据えて部材の適所、組み合わせをゆめゆめお間違えなきように。口伝はこうもいう。「(百人の職人の心を)ひとつにする器量のない者は、自分の不徳を知って、棟梁の座を去れ」と。

(2024年9月30日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 「村での裁判-稲を盗んだのは誰だ!?-」。県立文書館のウェブサイトがこんなタイトルで、江戸時代の古文書に記された「裁判」について紹介している
▼事件は1809(文化6)年9月15日に起きた。現在の上越市にあった「梶村」で、村人が干していた稲が盗まれた。当時は殺人などの大事件は幕府や藩の役人が検分し処罰するが、軽微な犯罪は村内で解決することが多かった
▼この事件では証拠が見つからず「入札(いれふだ)」という村人の投票で犯人を決めた。事前に証文を交わした。怪しいと思う人の名前を書いて投票し、名前の多かった人を犯人として村から追放する、結果には不平を言わないという内容だった
▼入札では10人の名前が挙がり、最多の18票が入った人物が犯人にされた。本当に村から追放されたかは記録に残っていない。村人が減れば年貢などを納める人手も減る。だから家族や親類らが保証人になってわびを入れ、村に留まることが多かったようだ
▼当時の入札は、証拠も自供もないのに犯人を決めるということだ。「嫌われ者選挙」のようで背筋が寒くなる。とはいえ、共同体には最低限の規律が求められる。村を維持するため、形式的にでも犯人を決める必要があったのかもしれない
▼今月、永田町でも「入札」が相次いだ。難局を打開するリーダーは誰か。かの村の住人は、どんな思いで一票を投じたのだろう。おかしな証文や密約が交わされていないか。総選挙が近いという。私たちもじっくり吟味しなければ。

自民党新総裁に石破氏 政治不信解消の道筋示せ(2024年9月28日『北海道新聞』-「社説」)
 
 自民党の新しい総裁に石破茂氏が選ばれた。1回目の投票で1位だった高市早苗氏を決選投票で逆転し、9人が乱立する総裁選を制した。
 来月1日召集の臨時国会で首相に指名される。
 岸田文雄首相が退陣表明した理由は派閥の裏金事件の引責だった。長年にわたって自民党内に巣くってきた構造的な不正の発覚は、国民に根深い不信の念を植え付けた。
 にもかかわらず総裁選の論戦で裏金の真相究明を明言した候補は一人もいなかった。石破氏も「ルールを守る政治を確立する」と繰り返すばかりだった。
 この間、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の会長と安倍晋三元首相が面談していた疑惑も浮上したが、9候補全員が再調査に慎重姿勢を示した。
 国民感覚とのあまりの乖離(かいり)に驚かざるを得ない。政治への信頼がなければ、どんな政策も推進できない。アピールするだけの「刷新感」は国民から見透かされるだろう。
 不透明な政治をこれ以上、放置することは許されない。石破氏は日本の民主主義が危機にあることを自覚し、政治不信解消の道筋を早急に示すべきだ。
■党の体質改善必要だ
 世論調査で人気が高かった石破氏は早くから「選挙の顔」として期待されていた。
 決選投票で議員票を大幅に上積みしたのは、タカ派色が強い高市氏に警戒感が広がったほか政策通とされる政治経験や論戦力が評価されたからだろう。
 総裁選の最終盤では、旧派閥ごとに議員が集まったり、候補者の重鎮詣でが相次いだりする場面も目立った。これでは従来の自民党の権力争いの構図と変わらず、開かれた総裁選とは言えなかったのではないか。
 裏金問題はその経緯や背景などがいまだに闇に包まれ、再調査も見通せない。企業・団体献金の廃止など「カネのかかる政治」そのものに切り込む抜本改革を行わねば、金権腐敗を一掃することはできないだろう。
 石破氏は国民から疑念を抱かれる党のそうした体質を根底から改めねばならない。それなしに党の再生はあり得ない。
■危うい外交安保政策
 石破氏はきのうの記者会見で「人口減に歯止めを掛けねばならない」と訴えるなど地方創生を政策の柱に据える。だが外交・安全保障では対話より力を信奉するような危うさが目立つ。
 総裁選の論戦では米国の核兵器を日本で共同運用する「核共有」は「非核三原則に触れるものではない」として、議論の必要性を訴えた。
 相互不信に基づく核抑止は際限のない軍拡競争を招きかねない。核廃絶を急ぐことこそ戦争被爆国である日本の責務だ。
 北大西洋条約機構NATO)のアジア版構築も主張しているが、憲法に基づく専守防衛の国是を崩し、集団的自衛権を行使するのは認められない。
 石破氏は憲法を巡っても、戦力不保持などを定めた9条2項の削除を持論とし、早期の改憲を訴えている。
 憲法9条は先の戦争の反省から生まれたものだ。戦後の平和国家としての針路を否定するような9条改憲は、東アジアの緊張をさらに高めかねない。
 一方で石破氏は、米軍の法的な特権を認めた日米地位協定について「見直しに着手する」と表明した。選択的夫婦別姓の導入にも前向きな姿勢を示す。
 どちらも米国や党内保守派の抵抗が必至だろう。粘り強い説得を続け、実現へと導いてもらいたい。
 石破氏は長期政権を築いた安倍氏と距離を置いてきた。第2次安倍政権以降、岸田政権まで続いた強権的な政治を見直す契機とすべきである。
■政権選択の争点示せ
 臨時国会では所信表明演説と代表質問が控える。石破氏は記者会見で衆院解散の時期について「なるべく早く審判をたまわらねばならない」と述べた。
 石破氏がどこかで国民の信を問わねばならないのは当然だ。
 しかし総裁選で露出を高め、有権者への好印象が崩れないうちに選挙に臨むという発想であれば、議会政治の冒瀆(ぼうとく)である。
 衆院議員の任期はまだ約1年残っている。
 地震被害から立ち直らないうちに記録的な豪雨被害に遭った能登半島への対応や物価高対策など、急を要する課題もある。野党はそのための補正予算を組むことを要求している。
 拙速に走ることなく、予算委員会党首討論などを開催し、まずは熟議を優先すべきだ。
 立憲民主党の新代表に就任した野田佳彦元首相は、次期衆院選政権交代を実現すると訴えている。野田氏も政治とカネの問題での対決姿勢だけでなく、まずは自らの政権構想をしっかり示すべきだろう。
 衆院選の争点は何か、政権選択の対立軸はどこにあるのか。有権者の疑問に答える中身の濃い国会論戦を展開してほしい。

(2024年9月28日『北海道新聞』-「卓上四季」)
 
史上最多の9人が立った。自民党総裁選は野球チームができそうな勢いだった。多士済々とはいえ、乱立乱戦でもあった。決選投票を制し、エースに選ばれたのは石破茂氏であった
▼総裁選に過去4回も挑み、いずれも涙をのんだ。閣僚や党の要職を歴任した政策通だ。耳障りな直言を辞さない。党内基盤の弱さが壁となった
▼それがどうしたことか。5回目で頂点に立つ。<もし私などが首相になるようなことがあるなら、それは自民党や日本国が大きく行き詰まった時なのではないか>。先月出たばかりの自著に記した。その通りだろう
▼政治とカネ、そして旧統一教会。国民の不信を招いた問題は何ひとつクリアされてはいない。物価高が一向に収まらず、近隣諸国との緊張も増す。自民党はもちろん、政治への信頼は揺らぐばかりだ
▼だからこそ、この個性派の出番となったのか。寸暇を惜しんで読書にいそしみ、宴席での仲間づくりは不得手。鉄道ファンにしてプラモデルやアイドルを好む。青春時代に人気絶頂だったキャンディーズは全曲歌えるそうだ
▼国民を信じ、勇気と真心を持って真実を語る―。その言や良しだが、実行が何より肝心であろう。信頼回復の切り札をめざしたはずが、<ハートのエースが出てこない>などとなることは許されない。国民は厳しく見つめている。

政治改革で真価問われる/自民新総裁に石破氏(2024年9月28日『東奥日報』-「時論」/『山陰中央新報』・『佐賀新聞」-「論説」)
 
 自民党の新総裁に石破茂元幹事長が選ばれた。10月1日召集の臨時国会岸田文雄首相の後継首相に就く。
 派閥の裏金事件など相次ぐ「政治とカネ」問題で、自民には国民の厳しい視線が向けられている。
 石破氏は5度目の挑戦の総裁選で「勇気と真心を持って真実を語る」「謙虚で、誠実で、温かく実行力のある自民党をつくる」と訴えた。その決意にたがわない政治改革を断行できるか。今秋にも想定される次期衆院選に向け、「石破自民党」の真価が明らかになるのはこれからだ。
 総裁選には、過去最多の9人が立候補。上位2人を対象にした決選投票の結果、石破氏が逆転で高市早苗経済安全保障担当相を下した。最終的に石破氏が勝利したのは、世論調査での人気の高さによる衆院選での集票と、論戦力への期待が要因とみられる。
 ただ、選挙戦終盤では石破氏ら有力候補の派閥領袖(りょうしゅう)詣でが続いた。決選投票で影響下にある議員票を回してもらうためだ。これでは派閥解消が見せかけだったと批判されても仕方あるまい。今後の内閣や党人事で「脱派閥」の証明が求められよう。
 過去最長の15日間に及んだ選挙戦は、裏金事件を糊塗(こと)する「党の顔」のすげ替えにとどまるのかどうか。試金石になるのは、政治改革への取り組みだろう。岸田首相が国民の信頼を失って退陣に追い込まれた要因である。
 石破氏は「改正政治資金規正法を守り、さらに透明性を深めるため、最大限の努力をする」と表明。裏金事件に関しては「国民が納得していなければ、総裁も説明責任を果たす」としている。まったくもって踏み込み不足だ。
 総裁選では、使途公開の義務がない政策活動費の廃止を唱えた候補が複数いた。野党は以前から要求している。石破氏には規正法再改正の方針を打ち出し、臨時国会で実現してもらいたい。
 政治不信の元を絶つには、裏金事件だけでなく、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民議員の関係についても再調査し、全容を解明する必要がある。しかし、石破氏ら総裁選候補は全員及び腰だった。これでは信頼回復はおぼつかないと指摘したい。
 ほかにも石破氏が向き合わなければならない政策課題は山積している。
 「人口が減る。医療、年金、介護は大丈夫か。今が良ければ良いという話にはならない」。石破氏は総裁選で日本の将来に危機感を示した。
 ならばどう対処するのか。それなりの処方箋を打ち出してはいるが、具体性に欠け、財源論を伴っているとは言いがたい。少子高齢化が進む中で、石破氏ら総裁選候補が重視した経済成長のみで補うことはできまい。防衛費も年々増大している。
 国民の負担増が避けられないのであれば、衆院選前でも率直に伝えるべきだ。それが「真実を語る」という信念に通じる責任ある態度と言える。
 外交・安全保障政策では、在日米軍の法的特権を認めた日米地位協定の見直しを掲げた。関係地を失望させないよう実行に移さなくてはならない。
 立憲民主党野田佳彦代表を選出した。石破氏は総裁選で当初言明した通り、臨時国会での論戦に応じ、衆院選有権者の審判材料となる政見を競い合うべきだ。

(2024年9月28日『東奥日報』-「天地人
 
「総裁選の名を借りた権力闘争。負けたら冷や飯を食う」。3年前の自民党総裁選。告示前日の派閥総会で領袖(りょうしゅう)の麻生太郎氏が言明した。総裁選は派閥の争いと知ってはいたが、重鎮のすごみある声を聞き派閥の本質を垣間見た。
 麻生派以外の「派閥解消」の流れで9候補が乱立した今回の総裁選。きのうの投開票までの報道から、有力・長老議員がにらみを利かせる派閥の呪縛にとらわれたままの党の姿がほの見えた。
 1回の投票では決まらずと目されていた。国会議員票が地方票より重みを増す決選投票は派閥幹部ら重鎮の動向が鍵となる。投票直前まで接触を重ねた陣営もあったようだ。結局は派閥回帰か。
 新総裁に決まった石破茂氏は、裏金事件で損なわれた信頼を取り戻す政治改革の本気度が問われよう。前提として未解明のままの裏金事件の真実を国民に示すべきだ。政権批判をいとわず「党内野党」とも言われた石破氏の手腕に国民の目が集まる。日本の政治を真に刷新する覚悟やいかに。呪縛を断てず、おざなりな「刷新感」で茶を濁すなら国民は見限る。
 2009年まで4年近く津島派領袖だった津島雄二氏はかつて「派閥が総裁選びの単位になる時代は終わった」と述べた。ただ派閥には政策研究など議員の政治活動を支える使命があるとも。津島氏が世を去り来月で1年。古巣の党の姿はどう見えているだろう。

自民党新総裁に石破氏 国民の信頼取り戻す改革を(2024年9月28日『河北新報』-「社説」)

 「政治とカネ」の問題で、逆風が吹く中での船出である。トップの交代で刷新感を演出したとしても、国民の政治不信は深刻だ。信頼を取り戻す改革を強く求めたい。
 自民党の新総裁に石破茂元幹事長が選ばれた。高い知名度を誇るベテランが過去最多となる9人の乱戦を制した。来月1日召集の臨時国会で首相に指名される見込みだ。
 1995年以降で最長の15日間に及んだ総裁選は、序盤から石破氏と高市早苗経済安全保障担当相、小泉進次郎環境相の3人が有力視され、混戦模様となった。総裁選終盤は決選投票を見据えた多数派工作が活発化し、派閥の影響が色濃くにじんだ。
 1回目の投票で、石破氏は高市氏に次ぐ2位。決選投票では215票と、わずか21票差で高市氏を制した。候補乱立で地方票の重みが増して強みを発揮したが、政権批判をいとわない野党的な言動から党内基盤の弱さがかねて指摘されている。安定した党運営が課題となろう。
 岸田文雄首相は、党派閥の政治資金パーティー裏金事件の責任を取る形で退陣を表明した。だが、共同通信が先月実施した世論調査では、自民支持層さえ、7割近くが「退陣表明は自民の信頼回復のきっかけにならない」と回答。総裁選は党再生をアピールする絶好の機会だったはずだ。
 厳しい視線が注がれたにもかかわらず、各候補とも再調査による実態解明や処分見直しに後ろ向きな姿勢を示した。石破氏も「党に説明責任がある」と強調したが、対策は「不記載議員に厳しく反省を求め、倫理観確立に全力を挙げる」などと抽象的だ。国民の納得が得られたとは到底言えず、信頼回復には程遠い。
 石破氏は岸田政権の路線継承を訴える一方、格差是正に向け、株式の売却益など金融所得の課税強化を主張した。防災省創設やアジアでの集団安全保障体制構築のほか、選択的夫婦別姓の導入にも意欲を示す。いずれも党内で賛否が分かれており、実現には困難が待ち受ける。
 地方創生にも強い思いを持つ。東北をはじめ、少子化などの課題先進地でもある災害被災地の状況を深く見つめ、政治の役割を考えてほしい。
 選挙戦では、社会保障制度の持続性や財政規律の議論が低調だった。将来的に社会保障費抑制は避けられない。日銀が利上げ政策に転じ、経済成長と財政健全化の両立にも難しい判断を迫られる。国民の負担増に関する議論を先送りすべきではない。
 今後の焦点は衆院解散の時期となる。石破氏は解散前の国会論戦に応じる意向だ。与野党の建設的な議論を期待したい。
 衆院選に加え、来年夏には参院選が控える。山積する難題に立ち向かい、希望を持って生きられる社会をどうつくるか。有権者も政治の行方を厳しく見定めねばならない。

(2024年9月28日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽自民党総裁選ではかつて多額の現金が飛び交った。1972(昭和47)年の総裁選を制した田中角栄氏は、票固めに「100億円を投じた」と噂(うわさ)された。逆にカネに頼らぬ姿勢を通したのが対抗馬の福田赳夫氏である。
▼▽劣勢の福田氏に、当時新人議員だった森喜朗氏が「カネをどんと積んでは」と車中で進言した。すると福田氏は「そんな汚らわしいことを言うなら車から降りろ」と激怒した(五百旗頭(いおきべ)真(まこと)監修「評伝 福田赳夫」)。福田氏が念願の首相の座をつかむのはその4年後だった。
▼▽当時ほどではないかもしれぬ。だが「政治とカネ」は、半世紀を経た今も解決されていない問題だ。そんな中で行われた自民総裁選である。過去最多の9人による争いは決選投票にもつれ込んだ結果、1回目2位の石破茂元幹事長が高市早苗経済安全保障担当相を逆転した。
▼▽高市氏の推薦人には「裏金議員」が名を連ねていた。次に控える衆院選への影響を考えて、決選で石破氏を選んだ方もいたのでは。5度目の挑戦で総裁を引き寄せた石破氏にしても、首相就任後の国会では「政治とカネ」をただされるだろう。まずはお手並みを拝見したい。

自民総裁に石破氏/政治への信頼取り戻せるか(2024年9月28日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 派閥の裏金や旧統一教会の問題で失われたのは自民党だけではなく、政治そのものへの信頼だ。どのようにして信頼を取り戻し、国内外の課題に有効な手だてを講ずることができるようにしていくかが問われる。
 自民党総裁選は、石破茂元幹事長が高市早苗経済安全保障担当相らを破り、当選した。石破氏は来月1日召集の臨時国会で首相に指名される。
 石破氏は当選後、「国民を信じ、勇気と真心を持って真実を語り、日本をもう一度、皆が笑顔で暮らす、安全で安心な国にするために力を尽くす」と述べた。
 政権を取り戻した2012年以降、自民は裏金問題をはじめ、国民への説明責任を重視すると言いながら、実質的にはそれを軽んじる姿勢を続けてきた。さまざまな問題について説明責任を徹底できるかが、自民が変化し、再生に進んでいるかの指標となる。
 総裁選の決選投票では高市氏を上回ったものの、最初の投票は議員票に限れば3位だった。石破氏は農相や防衛相などの閣僚を務め、党でも幹事長や政調会長の要職に就くなど政治経験は豊富だが、党内での基盤は弱い。そのなかで、いかに党内を掌握して、指導力を発揮できる基盤をつくれるかが最初の焦点だ。
 石破氏は総裁選期間中、政治への信頼回復に向け、政治資金をチェックする第三者機関の設置や、政党交付金の使途明確化などに意欲を示した。一方で、総裁選終盤には、唯一継続している派閥のトップ、麻生太郎副総裁に支援を要請したとみられる。また、決選投票での石破氏への票の流れにも旧派閥など、グループ単位の動きがあったとみるのが自然だろう。
 旧派閥が党運営や政権運営に影響力を持ち続けるのであれば、旧態依然と言わざるを得ず、抜本的な改革は期待できまい。石破氏は総裁選で掲げた公約の実現や透明性の高い人事を通じ、派閥の弊害解消を国民に示す必要がある。
 石破氏は福島市で開かれた演説会で、人口減少への対応として地方の活性化に力を入れるとしたほか、省への格上げを前提に防災庁を創設する考えを示した。しかし本県の東日本大震災東京電力福島第1原発事故からの復興に向けた言及は、ほかの候補と比べても希薄だったのは否めない。
 政権復帰後の自民は濃淡こそあるものの、本県の復興を重点課題に掲げてきた。石破氏にはいま一度、本県の状況に目を向け、復興加速に向けた考えを示すよう強く求めたい。

政治家の言葉(2024年9月28日『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 コロナ禍のドイツで当時のメルケル首相の行った演説が共感を呼んだ。生活の制限を強いるに当たり、必要なのは政治的決断を透明にして説明し根拠を示すことーと語った上で、痛みを分かち合い結束するよう訴えた。リーダーの言葉は国の行く末を左右する
▼正義の名の下に武力で相手をねじ伏せようと、戦火を広げている国々のリーダーの語り口は力強い。ただどうも空疎に響く。非人道的な行為を正当化しようと口をついて出る言葉に、人々を共感させる力が宿るはずもない
▼数学者の藤原正彦さんは、優れた政治家に求められる資質として、何より言葉の大切さを強調する。「人を動かすには説得力のある論理的な言葉、そして胸を打ち情に訴える言葉が必要だ」(「日本人の真価」文春新書)
▼日本の新しいリーダーとなる自民党の総裁に、石破茂元幹事長が選出された。「国民を信じ、勇気と真心を持って真実を語る」。新総裁としてこう述べた
▼課題を積み残したままの政治とカネの問題や、物価高が続く経済の立て直し、相次ぐ領空侵犯など内憂外患の状況だ。党をどう変え、日本をどう導いていくのか。まずは論理的で、そして共感できる言葉で真実を語ってもらいたい。

【自民総裁に石破氏】不信払拭への責任重い(2024年9月28日『福島民報』-「論説」)
 
 自民党総裁選で、石破茂氏は混戦を制し、次期首相に選任される見通しとなった。挑んでは敗れ、今に至る苦節を思えば、内心の喜びはひとしおに違いない。防衛、安全保障などの政策通で知られ、政治経験は豊富とされても、真価が試されるのはこれからだ。党派閥の裏金事件で失われた政治への信頼を取り戻し、国内外の課題解決に当たる重い責任を背負う。
 脱派閥の総裁選はどう進むのかが注目された。最終盤は現旧派閥、党重鎮らの存在感や影響力が増し、各陣営によるすり寄り、支持議員の引き剥がしが活発化した。石破氏側も例外ではないはずだ。
 勝たねば政策は具現化できない。あらゆる手を尽くすのが常道とはいえ、総裁選で掲げた政策を揺るぎなく遂行できるのか。党人事や組閣にも忖度[そんたく]が働くようでは、信は遠ざかる。
 石破氏は長らく「党内野党」とやゆされ、時の政権や党執行部に異を唱える場面も少なくなかった。議員の支持獲得が最大の課題とされる背景としても語られてきた。今回は最初の議員票こそ伸び悩んだものの、決選投票は他候補の票が寄せ集まり、高市早苗氏に逆転勝ちした。
 石破、高市両氏のどちらが次期衆院選、続く参院選を優位に戦えるのか、といった思惑が作用するのも総裁選びの常と言える。しかし、政権を預かる党と党所属議員に求められるのは、国民生活の苦境と国際社会の難局を見据えた政治、政策を誠実に担う姿勢一点であるべきだ。
 石破氏は、地方票では地力を示した。党員・党友が投じた票は政界の論理と一線を画し、世論の側におそらく近い。党内のしこりをなくし、別の意見もきちんと聞いた上で判断する資質は、組織を束ねる上で必要ではある。支持率が低迷した現政権の経緯を踏まえれば、旧派閥や党重鎮らのくびきを廃し、国民目線の政治をどう進めるかが何より問われる。
 政治改革などの課題に謙虚に臨み、国民が検証できる仕組みをつくると、記者会見で述べた。野党との論戦を経て、早い時期の衆院解散にも言及した。政治とカネ問題などへの野党の厳しい追及に真摯[しんし]に向き合い、説明責任を果たすのか。しっかりと見極めねばならない。(五十嵐稔)

おむすび(2024年9月28日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 おむすび処「笑いーと」は、東京・永田町の国会議事堂衆院第一別館の一角にある。お昼に国会議員や秘書らがひっきりなしに訪れる。小さな店内は、本県産コシヒカリを炊いた豊かな香りが漂う
原発事故が起きた2年後、いわき市の女性が開いた。県産米を使っていると知り、店を出ていく人も当時はいた。常連客が増えた今、ふっくらとした甘みにみんなが夢中だ。女性は「福島のお米はおいしいと言ってもらえるのが励み」と笑顔を見せる
▼NHK連続テレビ小説「おむすび」が30日に始まる。橋本環奈さん演じる米田結[ゆい]が栄養士を志し、食を通して人と人をつなげてゆく。進路のきっかけは、幼い頃に経験した阪神大震災。心のこもったおむすびは人を癒やし、励ます。活力そのものだ。関西、東北、そして今また、能登の人も身に染みているだろう
自民党の新総裁が決まり、立憲民主党の新代表と合わせて新たな対決構図が固まった。国会のお店の女性は慌ただしさの中で世界に視線を向け、県産米粉を使った麺を海外に売り込む。震災から歩みを止めず、世界と心を結び合う人々には超党派でエールを。合言葉は「ふくしまはoishii」。

自民新総裁に石破氏 国民の信を取り戻せるか(2024年9月28日『毎日新聞』-「社説」)
 
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決選投票で自民党総裁に選ばれ立ち上がる石破茂氏=同党本部で2024年9月27日午後3時23分、平田明浩撮影
 自民党派閥の裏金事件で極まった政治不信を拭い去り、国民の信頼を取り戻さなければならない。党を再生できるか、実行力が問われる。
 自民党の新総裁に石破茂元幹事長が選出された。来月1日召集の臨時国会で新首相に指名される見通しだ。
 麻生派を除く5派閥が解散を決め、締め付けが弱くなったことで、過去最多の9人が立候補する混戦となった。決選投票で国会議員票を大幅に上積みし、1回目投票の党員・党友票で拮抗(きっこう)した高市早苗経済安全保障担当相を降した。
自民党総裁選出後に開催された両院議員総会で、健闘をたたえ合う(左から)高市早苗氏、岸田文雄首相、石破茂新総裁=
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東京・永田町の同党本部で2024年9月27日午後3時40分(代表撮影)
 裏金事件の震源地で最大派閥だった安倍派議員の多くは高市氏の支持に回ったが、及ばなかった。
 中国への強硬姿勢を示し保守的な主張を掲げる高市氏に対し、経験や安定感のある石破氏を国会議員が選んだ形だ。「選挙の顔」としてどちらがふさわしいかが、判断基準になったのではないか。
問われる裏金のけじめ
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自民党の総裁室の椅子に座る石破茂新総裁=同党本部で2024年9月27日午後6時54分、平田明浩撮影
 長らく非主流派だった石破氏の勝利は、菅義偉岸田文雄両政権に継承された「安倍路線」からの転換を印象付けるものだ。
 ただ、党内基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。目指す改革や政策を実行するには、政権を安定的に運営できる体制の構築が急務だ。
 真っ先に手を付けなければならないのは「政治とカネ」の問題である。
 裏金作りの経緯や使途はいまだに明らかになっていない。立件されなかった麻生派でも、新たな疑惑が浮上した。リーダーシップを発揮し、真相解明に向けて徹底した再調査を実行すべきだ。
 裏金作りに関わった議員のけじめもつけなければならない。
 石破氏は当初、次期衆院選で公認するかどうか「徹底的に議論する」と発言し、党内の反発を招いた。裏金の使途などを自らが聞き取り、説明を求めるというが、結果に基づき厳正に対処する必要がある。
 これまで使途の公開義務がなかった政策活動費についても、廃止に踏み込まなかった。
 通常国会で改正された政治資金規正法では10年後に使途が公開されることになったが、政治資金の透明化を徹底するのであれば廃止するほかない。
 総裁選でも自民の金権体質が露呈した。
 高市氏が政策リーフレットを全国30万人以上の党員らに郵送したことが、告示直前に発覚した。「カネのかからない総裁選」を呼び掛けていた党総裁選挙管理委員会から、注意を受けた。
 少子高齢化が進む中、政治に求められているのは、国民が将来への希望を持てるビジョンを示すことである。まずは、物価高など暮らしへの不安を解消することだ。
まず政策論戦を国会で
 賃上げと投資による成長を目指す岸田政権の経済政策を引き継ぐ考えを示す一方、金融所得課税の強化や法人税引き上げの余地に言及した。財政健全化の必要性を訴えるものの、市場の警戒感は強い。丁寧な説明が求められる。
 看板政策である「地方創生」は、東京一極集中の是正と人口減少対策の具体化を急ぐべきだ。
 激甚化する災害に対応する体制整備も待ったなしだ。「防災省」の創設を掲げるが、実効性のある仕組みにしなければならない。
 国際情勢が厳しさを増す中、外交戦略も問われる。中国を念頭にしたアジア版NATO北大西洋条約機構)の創設が持論だ。ただ、地域各国には温度差があり、現実的な提案とは言えない。関係国との摩擦も生みかねない。
 対等な日米関係を目指し、在日米軍の活動ルールを定めた日米地位協定の見直しも主張している。米軍基地が集中する沖縄の負担軽減につなげるためには、米国の理解を得る努力が不可欠だ。
 石破氏は総裁就任を受けた記者会見で、衆院解散・総選挙の時期ついて「なるべく早く(国民の)審判を賜らなければならない」と語った。
 だが、まず取り組まなければならないのは、国民に対して政権の基本方針をわかりやすく示すことだ。与野党議員と一問一答でやりとりする予算委員会党首討論で、有権者の判断に資する論戦を展開してほしい。
 何よりも「政治とカネ」の問題を清算することが求められる。身内の論理に従うのではなく、幅広く国民の声に耳を傾け、改革を進める責任がある。

石破茂自民党元幹事長が…(2024年9月28日『毎日新聞』-「余録」)
 
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決選投票で自民党総裁に選ばれ、笑顔を見せる石破茂元幹事長(中央)=自民党本部で2024年9月27日午後3時24分、猪飼健史撮影
 石破茂自民党元幹事長が政界入りしたのは、自治相などを歴任した父親を通じての田中角栄元首相(故人)との縁からだった。今も「角栄先生」と呼ぶ。田中派事務局で修業し、東京・目白邸で田中の「闇将軍」ぶりと、その落日にふれた。田中は師であり、カネの力で権力を行使した反面教師でもあった
▲その石破氏が「最後の挑戦」、5度目の自民党総裁選を決選投票で制した。優勢とみられた党員票で2位だったが、逆に決選はこれまで厚い壁だった議員票で力を得た
▲モノ言う論客。安倍晋三内閣当時は政権運営に異を唱えた。大衆人気の一方で、「後ろから鉄砲を撃つ」と嫌う「アンチ石破」も党内に多い。首相に就くケースを自身の近著で「自民党や日本が大きく行き詰まった時」と評していた(「保守政治家」講談社)。裏金問題で党が不信に沈む中、「刷新感プラス安定感」で議員も判断したということか
▲だが議員票への配慮からか、総裁選では裏金問題の対応を巡り歯切れが悪かった。石破氏ら候補の麻生太郎副総裁らへの「重鎮詣で」は古い党の体質を印象づけた
▲党員票で首位だった高市早苗経済安全保障担当相は安倍路線の継承を掲げた。「安倍氏的なもの」が浸透する党の掌握は容易でない
▲最近の党内の「モノ言えぬ雰囲気」を懸念し、「議論のある自民党」こそ本来の姿と説く石破氏である。ならば衆院解散よりも、新政権はまず国会での徹底論戦にのぞむべきだ。脱・国会軽視も、新総裁の重要な責務であろう。

石破新総裁 新しい自民党の出発となるか(2024年9月28日『読売新聞』-「社説」)
 
◆地に足の着いた政策を遂行せよ◆
 5回目の挑戦で、ようやく首相の座をつかみ取った。地に足の着いた政策を遂行し、自民党への信頼を取り戻せるかどうかが問われる。
 自民党総裁選で、石破茂元幹事長が新総裁に選出された。石破氏は来月1日に召集される臨時国会で、首相に指名される予定だ。
 これまで党内で野党的な発言を続けてきた石破氏が政権を担う。自民党の新時代を築けるか、見識と力量が試されることになる。
◆決選で旧派閥が存在感
 総裁選は1回目の投票で過半数を得た候補がなく、決選投票が行われた結果、石破氏が高市早苗経済安全保障相を破った。
 自民党内では派閥の解消が進んでいるが、決選投票では旧岸田派が石破氏に、今も存続している麻生派高市氏に、それぞれまとまって投票するよう呼びかけるなど派閥が一定の存在感を示した。
 今後の党役員や閣僚人事でも、派閥が影響力を行使する可能性があるのではないか。
 今回の総裁選は過去最多の9人が立候補し、それぞれが主張を戦わせた。この経験を生かし、政策論争を活発に展開することを通じて、自民党の体質を新しいものに変えていくべきだ。
 石破氏が政権を担う上で気をつけなければならないのは、いかに党内を 纏 まと め、融和を図るかだ。
 石破氏はこれまで、時の政権への注文や批判も辞さなかった。総裁選後の記者会見で「自民党はルールを守り、公平公正で常に謙虚な政党でなければならない」と述べたのも、従来の党運営を暗に批判したものとみられる。
 こうした姿勢は、世論の注目を集める効果があった反面、党内から冷ややかな目で見られ、総裁選で敗れ続ける要因になった。
 今度は自分が行政のトップとして、批判を浴びる側に回る。苦言や批判にも謙虚に耳を傾け、政権運営に生かせるかどうかが、「石破政権」の浮沈を左右しよう。
 党運営では、派閥が担ってきた議員の教育はどの組織で行うのかが定まっていない。部会長など様々な人事をどう調整していくのかも決める必要がある。
 内外の政策課題への対応も、待ったなしだ。
 人口減少や少子化に歯止めをかけないと、経済や社会は縮小し、社会保障制度の維持は難しくなる。中露両国は、日本の政治空白を見透かすかのように領空侵犯や領海侵入を強行している。
 難局を乗り越えていくために、石破氏は強力な内閣を組織しなければならない。
 だが、総裁選での石破氏の訴えの中には、実現可能性を疑いたくなるものが目立った。
◆公約の実現性問われる
 石破氏は、中露や北朝鮮の脅威が増大したことを踏まえ、「アジア版NATO北大西洋条約機構)」の構想を掲げた。
 だが、中国と経済面で結びつき、利害関係も複雑な東南アジア諸国が、中国を念頭に置いた軍事協力に賛同するとは思いにくい。
 日米韓や日米豪印4か国の「クアッド」など今ある枠組みを活用し、アジアや太平洋 島嶼 とうしょ 国を支援することで良好な関係を築いていくことが建設的ではないか。
 石破氏は、米国内に自衛隊の訓練基地をつくることも提案している。日米同盟を対等な関係にする狙いだというが、米国が対日防衛義務を負い、日本が基地を提供する、という現在の同盟関係を不安定にしてはならない。
 石破氏はまた、北朝鮮による拉致問題の解決に向けて、東京と平壌に連絡事務所を開設する、と述べているが、拉致被害者家族は反対している。家族は高齢化しており、拉致問題の解決は新政権にとって最優先課題となろう。
 憲法改正について石破氏は、戦力不保持を定めた9条2項は「自衛隊の存在と矛盾する」として削除を主張している。さらに「国の自衛権を体現する実力組織は国際的に『軍』だ」とも指摘し、「国防軍」の明記を求めてきた。
◆逆風をどうはね返す
 こうした考え方は、9条に自衛隊を明記するという自民党の現在の方針に矛盾している。総裁として再度、憲法改正の方向性について議論し直すつもりなのか。
 政治とカネの問題で、自民党は逆風にさらされている。
 石破氏は、党が議員に支給している政策活動費について、「廃止も選択肢だ」と述べていた。
 政治活動には一定の資金がかかるが、カネのかからない選挙の実現は時代の要請と言える。新たな政党像を作り上げることもまた、石破氏に課せられた使命だ。

石破新総裁は行動で信頼を取り戻せ(2024年9月28日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 自民党の新総裁に石破茂氏が選ばれた。10月1日召集の臨時国会で102代目の首相に就任する運びだ。裏金問題で傷ついた党の信頼回復を急ぎ、日本が直面する国内外の重要課題の解決に指導力を発揮してもらいたい。
 今回の総裁選は岸田文雄首相が出馬を見送り、過去最多の9人が立候補した。上位2人の決選投票で、1回目投票で2位だった石破氏が高市早苗氏を逆転した。
成長戦略の具体化急げ
 主要派閥の解散で組織の縛りが解け、多様な人材が活発に政策論争を交わしたことは評価できる。ただ終盤では候補者が有力なベテラン議員に支援を仰ぐ動きも目立った。今後は旧派閥への配慮や論功行賞ではなく、実力本位の人材登用を徹底してほしい。
 石破氏は27日夜の記者会見で、派閥の裏金問題をめぐり「自民党が極めて厳しい状況にあることはよく承知している」と述べ、真摯な取り組みを強調した。
 先の通常国会でパーティー券購入者の公開基準額の引き下げなどを盛り込んだ改正政治資金規正法が成立したが、資金の流れを監査する第三者機関の制度設計など詰めの作業はこれからだ。
 総裁選では複数の候補者が政策活動費の廃止や調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開に言及した。新執行部は今回の議論を放置せず、裏金問題の真相究明と再発防止への行動が求められる。
 総裁選の政策論争では日本の成長力強化と持続的な賃上げ実現で様々な発言があった。生煮えの提言も目立ち、政策の中身を詰めていく努力が重要となる。
 石破氏は「地方こそ成長の主役」と訴え、①デジタル技術を活用した大規模な地方創生②スタートアップ企業の支援拡充や投資促進の税制改革――などを例示した。従来型の交付金補助金を増やす発想では経済の活性化は程遠く、人口減社会を乗り切れない。持論である「防災省」新設を含め、政策の肉付けが急務となる。
 石破氏は金融所得課税の強化にも言及し、「貯蓄から投資の流れに水を差す」との批判を招いた。少額投資非課税制度(NISA)などへの課税強化という誤解を生んだ点は反省すべきだが、税の公平性をどう保つべきかは重要な問題提起といえる。
 小泉進次郎氏らが言及した解雇規制の見直しも、議論をタブー視すべきではない。労働市場流動性を高めて成長分野に多くの人材を移動させる取り組みは重要だ。企業によるリスキリングや再就職支援のあり方を含め、議論を加速していくべきだろう。
 社会保障改革をはじめ長期的な視点の議論が乏しかったのは残念だ。新政権は一時的な給付や減税の発想を脱し、財政の持続性を高めて国民の将来不安の解消につながる議論を進めてもらいたい。
 外交・安全保障は引き続き喫緊の課題である。中国やロシアは周辺国を軍事的に威圧し、軍用機による領空侵犯が相次いだ。北朝鮮も核・ミサイル開発を継続し、地域情勢は緊迫している。
 石破氏は防衛政策に詳しく、岸田政権が進めた防衛力の抜本的強化を引き継ぐ考えを示している。他方、総裁選ではやや唐突感がある提案もあった。
外交安保で対応強化を
 石破氏は「アジア版NATO北大西洋条約機構)」の創設構想に触れ、中国を念頭に欧州のような集団防衛体制の確立を主張した。与党内にも時期尚早との声があり、周辺諸国に与える影響も大きい。米国の新政権とも緊密に連携し、国際情勢の変化を踏まえた丁寧な議論を求めたい。
 日中関係は中国の強引な海洋進出や中国内での日本人児童の刺殺事件などできしんでいる。地域の平和と安定のために重要なのは、隙のない抑止と緊密な対話を両輪としたバランスだ。
 総裁選では保守的な考え方で知られる高市氏が、国会議員票と地方票の双方で大きく支持を伸ばした。新政権は国民の意識変化を認識しつつ、外交や歴史認識をめぐる歴代政権の見解も踏まえた冷静な対応を心がけてもらいたい。
 与党内では早期の衆院解散・総選挙が想定されている。立憲民主党公明党でも党首交代が決まった。次の臨時国会は衆参両院の代表質問だけでなく、党首討論予算委員会の質疑を経たうえで有権者の審判を仰ぐのが筋だろう。

自民総裁に石破氏 保守の精神踏まえ前進を 外交安保政策の継承が重要だ(2024年9月28日『産経新聞』-「主張」)
 
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会見する石破茂新総裁=27日午後、党本部(関勝行撮影)
 
 自民党総裁選で、石破茂元幹事長が高市早苗経済安全保障担当相を決選投票で破り、新総裁に選出された。
 10月1日召集の臨時国会で首相に指名され、宮中での認証式などを経て、石破内閣が発足する見通しだ。
 石破氏は当選後、「安全安心な国にするため全身全霊を尽くしたい」と語った。
 ほとんどの派閥が解散を決めたこともあって史上最多の9人が立候補し、激しい総裁選となった。
 石破氏は1回目の投票で高市氏に次ぐ2位だった。決選投票の票差は21票で、党内基盤は強いとはいえない。
「挙党態勢」が問われる
 政治とカネの問題で自民をみる有権者の目は依然として厳しい。石破氏と自民は挙党態勢で国政運営に当たる必要がある。党役員や閣僚の人事は適材適所の観点で、総裁選のライバル候補を含め起用すべきだ。党所属国会議員は結束して新総裁を支えてもらいたい。
 石破氏と自民に求めたいのは保守の精神を尊重、堅持することだ。自民は党綱領で「日本らしい日本の確立」をうたい、自らを「保守政党」と位置付けている。この基本線から外れるべきではない。
 総裁選で論じられた選択的夫婦別姓の導入は見送るべきである。石破氏は前向きな姿勢を示してきたが、保守政党が取り組む課題ではない。家族や社会の根幹に関わる話だ。片方の親と子の「強制的親子別姓」を意味し、戸籍制度も揺らぐ。個人の自由の問題とはいえず、自民どころか社会の分断を招きかねない。旧姓使用の充実で対応してもらいたい。
 国家と国民を守り抜く外交安全保障は政治リーダーにとって最も重要な責務だ。
 安倍晋三元首相は「自由で開かれたインド太平洋」構想を国際社会に示し、限定的ながら集団的自衛権の行使容認を実現した。菅義偉前首相は米国とともに「台湾海峡の平和と安定の重要性」を打ち出した。岸田文雄首相は5年間の防衛費43兆円、反撃能力の保有を決め、防衛力の抜本的強化を開始した。
 石破氏は安倍氏以降の外交安全保障を確実に継承し、発展させなければならない。中国やロシア、北朝鮮といった核武装した専制国家の脅威をどうとらえているかを語ってほしい。ウクライナ支援の継続も重要だ。
 心配なのは、石破氏がアジア版NATO北大西洋条約機構)の具体化に意欲を示した点だ。創設には憲法問題の解決や各国との比較的長期の交渉などに相当の年月と大きな政治エネルギーを要する。数年先の発生も懸念される台湾有事の抑止を優先すべきではないか。日米同盟の対処力と抑止力の強化も欠かせない。
男系の皇統を守り抜け
 北朝鮮による日本人拉致問題の解決も急がれる。石破氏は「東京と平壌に連絡事務所を開設して交渉の足掛かりとする」と唱えてきた。家族会は時間稼ぎに利用されるだけだと懸念している。まず、家族会などと真剣に語り合ってほしい。
 千年、二千年の視野で日本を守るため、安定的な皇位継承策を確立すべきである。自民は、男系(父系)による継承を堅持する内容の岸田内閣の報告書に賛同する立場だ。石破氏は総裁選でこの党の方針に従うと表明した点を強調しておきたい。
 自民は来年、結党70年を迎える。憲法改正は党是であり、改憲原案の条文化を臨時国会中に完成させるべきだ。憲法への自衛隊明記は最優先だ。首都直下地震などの大規模災害や日本有事への懸念が高まっている。緊急政令を含む緊急事態条項創設も急務である。自民総裁として与党公明党の説得にも努める必要がある。
 日本が抱える課題はほかにもある。物価高を上回る持続的な賃上げを確実なものとし、デフレからの完全脱却を目指してもらいたい。少子高齢化を背景にした人口減少への対策や社会保障制度改革も欠かせない。
 政治とカネの対応は引き続き重要だ。パーティー収入不記載事件の再発防止と政治資金の透明性確保を確実にしたい。信頼を取り戻さなければ、政策は遂行できまい。
 早期の衆院解散・総選挙が取り沙汰されている。臨時国会では所信表明演説で国家観と政策の全体像を披露するとともに質疑にも応じ、国民に投票の判断材料を示すべきである。

石破総裁よ理想論より具体論を語れ(2024年9月28日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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自民党総裁選での当選後、総裁の椅子に座る石破茂新総裁=27日午後、党本部(春名中撮影)
 
「私はあたかも運命とともに歩いているように感じた。そしてすべての私の過去は、ただこの時、この試練のための準備にすぎなかったように感じた」。第二次世界大戦中の1940年5月、英首相に就いたチャーチル回顧録で、こう就任時の胸中を記している。
自民党の第28代総裁に石破茂元幹事長が当選した。次期首相となる石破氏に何より求められるのは、年々厳しさを増す国際情勢への対応である。もっとも、安全保障をライフワークとし、軍事オタクとも呼ばれた石破氏には釈迦(しゃか)に説法だろうが。
▼もはや台湾有事は時間の問題だとされ、中国は日本の領海・領空を侵犯して悪びれない。北朝鮮は核・ミサイルによる恫喝(どうかつ)をやめない。ロシアはその両国と連携を深め、ウクライナ侵略を続ける。中東に目を転じれば、第三次世界大戦の萌芽(ほうが)が現れている。
▼石破氏は総裁選中、必然的に片親と子供が別姓となる選択的夫婦別姓の推進を明言し、皇室の伝統に前例がない女系天皇容認に含みを残した。だが、くれぐれも政策遂行の優先順位を間違えないでもらいたい。これらを強行して社会に分断と対立を招く余裕は日本にはない。
▼アジア版NATO北大西洋条約機構)や、憲法9条からの2項(戦力の不保持)削除など近い将来には実現不可能な理念を掲げるより、現実の課題を一つ一つ片づけていくべきだろう。リーダーが国民に訴えるべきは、理想論ではなく目の前の危機である。
チャーチルは、前々任者のボールドウィンについてこう指摘している。「選挙に敗れるのを恐れるあまり、国家の安全に関して自分の責任を果たさなかった」。近いとされる次期衆院選では、国民を守るための具体論が聞きたい。

裏金事件に幕は引けぬ 自民新総裁に石破氏(2024年9月28日『東京新聞』-「社説」)
 
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 自民党新総裁に石破茂氏=写真(右)、代表撮影=が就任した。派閥の裏金事件で国民の信頼を失った岸田文雄首相=同(左)=に代わる党の「顔」を選んだに過ぎず、体質が刷新されたわけではない。石破体制が党の金権体質を改めなければ、裏金事件に幕を引けない。
 石破氏は党役員人事を経て、臨時国会が召集される10月1日に首相に指名され、新内閣を発足させる。まず取り組むべきは裏金事件の徹底解明と、政治資金規正法の抜本改正だ。岸田政権が通り一遍の党内調査と甘い処分にとどめ、国民から信頼を失ったことを決して忘れてはならない。
 しかし、総裁選での石破氏の発言から、その決意は伝わってこない。「ルールを守る自民党」を掲げ、裏金事件に「有権者は納得していない。国民に対する説明責任は総裁もともに負う」と述べながらも、裏金の再調査には慎重姿勢を崩さなかったからだ。
 党による調査はすでに信用を失った。裏金を違法な使途に充てた議員はいないとしていたが、規正法と公職選挙法違反の有罪が確定した堀井学衆院議員は裏金を原資に地元有権者に違法な香典を配ったとされる。他の裏金議員の使途も再調査すべきではないか。
 石破氏は裏金議員を選挙で公認しない可能性に言及した後、旧安倍派の反発を受けて「新体制がどうするのか決める」と軌道修正した。十分に説明しない裏金議員は非公認とすることも含め、候補者を厳正に選定するよう求める。
 総裁選では、党が議員個人に支出し、使途公開の義務がない政策活動費の廃止を複数候補が訴え、石破氏も選択肢に入れる姿勢を示した。不透明な資金の廃止に異論はないが、先の通常国会で野党の廃止要求を拒んだのは自民党。石破氏の意欲を疑われて当然だ。
企業献金廃止は論ぜず
 総裁選では金権政治の元凶とされてきた企業・団体献金の廃止は議論すらされなかった。1994年の政党交付金助成金)導入に代わり廃止が決まったが、今も実現していない。石破氏は若手議員として「平成の政治改革」議論に加わった原点に返り、企業・団体献金の全廃に取り組むべきだ。
 裏金事件を受けた「派閥解消宣言」後、初の総裁選でもあった。候補者9人の乱立は、派閥の締め付けが解かれ、推薦人を集めやすくなったからだろう。多くの候補者は「脱派閥」を訴えた。
 しかし、総裁選終盤には派閥政治や長老支配が復活した。石破氏は唯一存続している麻生派を率いる麻生太郎副総裁、無派閥議員に影響力を持つ菅義偉前首相に相次いで面会。麻生氏は最終盤で高市早苗経済安全保障担当相の支援を派内に指示した、とされる。
 派閥は解消されるのか、党重鎮が裏で牛耳る政治にならないか。党・内閣人事を注視したい。
 石破氏は岸田政権の経済政策継承を掲げ、安倍政権以来の「成長と分配の好循環」を確実にするというが、国民が暮らし向きの好転を実感するに至っていない政策でもある。物価高対策はもちろん、暮らしに寄り添う金融・財政政策に改めるよう強く求める。
 石破氏が持論とする「アジア版北大西洋条約機構NATO)」創設には強い懸念を抱く。加盟国が攻撃された場合、防衛する義務を他の加盟国に課すNATOのような枠組み参加は平和憲法に合致しない。中国への対抗が念頭にあるなら軍拡競争を煽(あお)るだけだ。
 衆院解散・総選挙の時期について、石破氏は「なるべく早く審判を受けなければならない」と述べた。首相交代を受けて国民に信を問うことは大義となるが、新内閣の支持率が高いうちに解散を急ぐ思惑なら国民に見透かされる。
 立憲民主党野田佳彦元首相を新代表に選出した。臨時国会では与野党代表質問だけでなく、予算委員会党首討論での論戦を通じて、衆院選に向けて国民に判断材料を示さなければならない。
政権を選ぶのは主権者
 震度7地震に続き、豪雨災害にも見舞われた石川県・能登半島の復旧・復興に向けた予算措置の議論も急ぐ必要がある。自民党も本気で政策活動費を廃止するというのであれば、衆院解散前に規正法を再改正すべきだ。
 自民、立民両党首選はあくまで党内の選挙に過ぎない。衆院選で政権を選択し、首相を決めるのは主権者たる国民だ。自民党は「表紙」を替えただけなのか、中身まで変わるのか。政治改革は立民中心の政権に委ねるのか。それを判断するのは、私たち自身であることを確認しておきたい。

米国で歴代大統領の人気投票を行うとトップはだいたい奴隷解放…(2024年9月28日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 米国で歴代大統領の人気投票を行うとトップはだいたい奴隷解放宣言のリンカーンで、初代大統領のワシントンたちを上回る
▼おもしろいのはリンカーンが大統領になるまでは決して人気が高くなかったことだ。出馬した上院選などでたびたび落選。敗れた選挙は8回という
▼それには及ばぬが、この人は5度目の挑戦で花を咲かせた。自民党総裁選で当選した石破茂さん。「万年総裁候補」がついに自民党のトップとなり、首相になる
▼三十数年前の九段の衆院議員宿舎の夜が浮かぶ。記者からすると、正直扱いにくく、会えば小難しい政策論を延々と語りだす。「それを政治改革というのかい?」。今もモノマネできる
▼こちらの勉強不足を容赦なく責め、毎度、説教されている気分になったものだ。そのくせ、こっちの聞きたい政界情報などは一切、話さない。真面目だが、不器用、自信過剰。そんな印象を持ったが、党内の見方も同じだったはずだ。だから、長く総裁の座に届かなかった
▼党内で煙たがられていることを自覚しているだろう。決選投票直前の演説にびっくりする。「多くの人々を傷つけた。おわびする」-。この人も変わったのだと思う半面、あまり変わりすぎぬことを願おう。党内で嫌われても信じた政治を前に進める。党の信頼回復に向け、その生真面目さが支持されたのだろう。まずは、党改革である。

石破自民新総裁 政治の信頼取り戻せるか(2024年9月28日『新潟日報』-「社説」)
 
 自民党は生まれ変わることができるのか。新総裁は、地に落ちた政治への信頼を取り戻す方策を示さねばならない。
 国民が納得できる政治改革を断行し「政治とカネ」の問題の払拭が求められる。
 自民党は27日、総裁選の投開票を行い、石破茂元幹事長を新総裁に選出した。
 石破氏は来月1日召集の臨時国会で、岸田文雄首相の後継首相に指名される。
 物価高騰対策や厳しさを増す安全保障環境、頻発する災害への対応などで難しいかじ取りを迫られる。
 ◆「本命不在」の大混戦
 過去最多の9候補で最長の15日間にわたった総裁選は、本命不在の混戦だった。1回目の投票で過半数を獲得した候補はおらず、2位の石破氏が、トップの高市早苗経済安全保障担当相を決選投票で逆転した。
 石破氏は新総裁に選出後「国民が笑顔で暮らせる安全安心の国にするために全身全霊を尽くす」と語った。
 総裁選は5回目の挑戦で「最後の戦い」としていた。次の総裁候補として世論調査での人気は高く、党員・党友票を多く獲得した。一方、1回目投票の国会議員票は、高市氏や3位の小泉進次郎環境相を下回った。
 党内基盤が弱い石破氏が、安定した政権運営をするには、総裁選でのしこりを残さないよう努めねばならない。
 衆院解散・総選挙が近いと予想される。石破氏は会見で「野党と論戦を交わした上で、なるべく早く審判を受けなければならない」と述べた。
 野党第1党の立憲民主党新代表に就いた野田佳彦元首相は論戦力に定評がある。決選投票では、野田氏に対抗する観点から、論客で知られ安定感のある石破氏を、多くの議員が「党の顔」に選んだとみられる。
 自民党衆院選で勝つには、派閥裏金事件で生じた党への逆風をはね返す信頼回復策を打ち出さねばならない。
 しかし、総裁選を通して石破氏は裏金事件の再調査に言及せず、「新事実が判明すれば必要な対応を検討する」と述べただけだった。
 政策活動費についても廃止を主張した候補がいた中で、石破氏は「透明性を高めることが重要だ」とし、廃止は必要ないとの立場だった。
 岸田首相は裏金事件の責任を取る形で退陣表明したが、共同通信の8月の緊急世論調査では、首相の退陣表明が「自民党の信頼回復のきっかけにならない」との回答が78%に上った。
 国民の政治不信は根強い。政治資金規正法改正も不十分だったことは明らかだ。信頼回復へ、さらなる対策が求められることは論をまたない。
 ◆地方活性化に全力を
 課題が山積する中で、問われるのは石破氏の実行力だ。
 鳥取県選出で地方創生担当相も務めた石破氏は、地方の衰退を肌で感じているだろう。
 「経済の起爆剤として、10年間に集中的な地方創生策を実施する」と訴える。
 原発・エネルギー政策では、再生可能エネルギーの普及を進めて、原発依存度を低減するとの考えだ。
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働については、「地元の理解を得るために最大限の努力をするべきだ」と述べている。地元住民の声をしっかり受け止めてもらいたい。
 拉致問題前進のために、日本と北朝鮮が互いの首都に連絡事務所を開設する案を示した。
 石川県能登半島の豪雨被害に関しては会見で「補正予算の編成を待っているわけにはいかない。基本的には予備費で対応したい」と述べた。被災者が一日も早く元の生活に戻れるよう全力を挙げてほしい。
 今回の総裁選は、派閥裏金事件を受けて麻生派以外の派閥が解散した中で行われた。派閥の締め付けが弱まり、最多の立候補となった。
 若手も立候補した。石破氏の防災省設置など独自政策が示され百家争鳴の感を呈したが、議論が深まったかは疑問だ。
 終盤には派閥や旧派閥の領袖(りょうしゅう)に支援を要請する候補や、勝ち馬を見極めて、影響力を保とうとする派閥回帰の流れが鮮明になった。
 石破氏がどのような党役員人事や組閣をするのか、注目される。派閥の力学が働くような人事が行われることがないか、目を凝らしたい。

(2024年9月28日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 演出家の久世光彦さんはエッセーに、なりたかった職業の一つは本の装丁家だと書いた。「昔読んで好きだった本の表紙は、たいてい憶(おぼ)えているものだ。中身は忘れてしまっていても、装丁だけは思い出せるということもあるし…」(「ひと恋しくて」)
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▼表紙のデザインに引かれて本を手に取ることがある。表紙はいわば本の顔だ。内容を端的にイメージさせるものがあり、内容とは全く関係なくても妙に気になるデザインのものもあり。時には売れ行きを左右することもあるだろう
▼一方、こんなせりふも知られている。「本の表紙だけ変えても、中身が変わらなければだめだ」。発言の主は元自民党衆院議員で官房長官や外相などを歴任した伊東正義さん。1989年にリクルート事件竹下登首相が辞意を表明した際は党総務会長を務めていた
▼後継として名前が挙がったが、会津生まれの硬骨漢は頑として首を縦に振らなかった。前述の発言は金権主義がはびこる政界の改革を棚上げし、首相の首をすげ替えてごまかそうとの風潮を戒めたものだった
自民党という本の表紙が変わった。新たな顔は石破茂さんである。首相に就くことも確実だ。時に公然と政権を批判し「党内野党」と言われることもあった。過去の総裁選では苦杯をなめ続けた
▼では中身はどうか。派閥の多くは表向き解散を決めたが候補者は有力者の顔色をうかがい、裏金事件の真相究明にも後ろ向きだった。総裁選を見る限り、相変わらずと言わざるを得ない。

自民総裁に石破氏 論戦成果 新政権に生かせ(2024年9月28日『福井新聞』-「論説」)
 

 自民党総裁選を石破茂氏が制した。5回目の出馬で「これが最後」と宣言して臨み、混戦を勝ち抜いた。1日、首相に指名される。活発に交わされた政策論議の成果を国のかじ取りに生かしてもらいたい。
 今回の総裁選は派閥の縛りが緩くなったことで乱戦模様となった。ベテランから若手といわれる年代まで幅広い候補者がそろい、国民の高い関心の中で候補者の討論会が連日開かれ、テレビやSNSを通じてそれぞれの主張に接する機会が多かった。政策論争が可視化されていたといえる。
 実は石破氏は、この状況をうまく生かしたとはいえない。政治課題を指摘する力量は高かったが解決策を明確に提示できない場面も見られ、党員票の1位を高市早苗氏に譲った。ただ、以前から課題だった議員間の不人気を今回は克服。議員票は1回目、高市氏に26票離されたものの決選投票で189票を集めた。
 石破氏は、9人がしのぎを削った論戦の成果を政権運営に活用してほしい。石破氏は財政健全化重視の立場とみられるが選挙中は積極財政優先にも言及した。この点、他候補からは戦略的財政出動、経済成長による財源確保といった意見が少なからずあった。また、省庁再編に関する意見だけをみても内閣情報局資源エネルギー庁環境省の統合、危機管理庁、宇宙庁など多彩な主張が展開された。これらせっかくの議論を検討の俎上(そじょう)に載せる度量を石破氏に求めたい。その上で透明性の高い政策決定を心がけるべきだろう。
 政治改革では派閥裏金事件関係議員の選挙公認について厳しい態度を示す。派閥の影響を廃し、こうした姿勢をどこまで貫けるかは政権運営の試金石になる。
 一方、日本人拉致問題解決について石破氏は「東京と平壌に相互の連絡事務所を開設する」と公約。連絡事務所開設がなぜ解決につながるのか。石破氏は具体的に説明する必要がある。解決への道筋が描けなければ公約撤回を含め、柔軟な対応が求められるだろう。
 高市氏は論戦力を示して保守層を中心に党員票を多数獲得。決選投票で及ばなかったが女性初の首相にあと一歩と迫り、存在感を示した。小泉進次郎氏は抜群の知名度に加え菅義偉氏のグループの支援を受け、序盤をリード。ただ、自身が打ち出した解雇規制見直しなど政策の細部について説明力を欠いた。健闘したのは小林鷹之氏。知名度の低さを政策発信力で補い、次回への足がかりを築いた。
 論戦が活発に行われる様子は一方で、事実上首相を決める選挙に国民の大半が参加できない残念さも改めて浮き彫りにした。自民1強はいつまで続くのか。野党の奮起を求めたい。

新総裁に石破氏 裏金の棚上げ許されない(2024年9月28日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 自民党の新総裁に石破茂元幹事長(67)が選出された。10月1日召集の臨時国会で、首相に指名される。
 派閥の政治資金パーティー裏金事件などで政治不信を招き、岸田文雄首相が責任をとる形で不出馬を表明した総裁選である。問われたのは自民党政治を総括して党を再生し、政治不信を払拭できるか―だった。
 1回目の投票で2位となった石破氏は、上位2人の決選投票で高市早苗経済安全保障担当相を逆転した。当選後の記者会見では「真実を自由闊達(かったつ)に語り、公平公正で常に謙虚な自民党をつくりたい」と述べている。
 石破氏は5回目の挑戦だった。党内基盤が弱く、2012年は1回目の投票で1位だったが、議員のみが参加した決選投票で安倍晋三氏に敗れた経緯がある。
 今回の決選投票では、石破氏は議員票で高市氏を16票上回った。高市氏は推薦人に裏金事件の主要な舞台となった旧安倍派の議員が多く、裏金事件にあいまいな態度をとっていた。
 改革を訴えていた石破氏が決選投票で議員票を集めたのは、党内の危機感が一定程度表れた影響といえる。首相にふさわしい人を選ぶ世論調査で常にトップ争いをする石破氏を「選挙の顔」に選び、支持を広げたいという思惑もうかがえる。
 ただし、政治不信を払拭するには、裏金事件を解明して責任を問い、再発を防ぐ仕組みを構築することが欠かせないはずだ。
 石破氏は総裁選の当初、裏金事件に関係した議員の公認について「公認にふさわしいかどうか徹底的に議論すべきだ」と述べていたが、党内の反発を受けて発言を修正。きのうの会見では「選挙区の事情や当選の可能性を踏まえ、判断する」と述べている。
 再調査にも言及せず、「事件の誠実なおわびと改善策を示す」とするだけだ。政党のあり方を規定する政党法制定も構想段階にすぎない。これで信頼が回復できるのか。党内の反発に押されて「政治とカネ」の問題を棚上げすることは許されない。
 事件を受け、派閥は麻生派を除き解散方針を決めており、今回の総裁選では派閥や旧派閥の動向が注目された。過去最高の9人が出馬したのは影響力低下の表れだ。ただし、終盤に動きが活発化し、勝敗を左右した可能性がある。
 今後の党役員人事や組閣にも派閥や旧派閥が影響を与える懸念が拭えない。石破氏の党改革の試金石として注視する必要がある。

新総裁に石破氏/生まれ変わる姿示せるか(2024年9月28日『神戸新聞』-「社説」)
 
 自民党の総裁選がきのう投開票され、28代総裁に石破茂元幹事長が選ばれた。岸田文雄首相に代わり、10月1日召集の臨時国会で正式に新首相に指名される。
 過去最多の9人が立つ混戦で、1回目でトップの高市早苗経済安全保障担当相と2位の石破氏との決選投票にもつれ込んだ。最後は石破氏が国会議員、地方票ともに上回り逆転した。近づく総選挙に向け、靖国神社参拝を明言するなどタカ派的姿勢を隠さない高市氏を避け、「地方を守る」など比較的穏健な主張が目立つ石破氏に票が流れたとみられる。
 岸田政権では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との癒着や派閥の裏金事件が相次いで発覚し、自民党への信頼は失墜した。長く政権を担う中で培ってきた「カネと数の力」で支配する政治と決別し、生まれ変わる党の姿を見せられるか。新総裁が背負う責任は重く、道は険しい。
 総裁選の最終盤では決選投票を見据えた多数派工作が激化し、旧派閥の数の力に頼る動きが見られた。石破氏も麻生太郎副総裁、菅義偉元首相に自ら支援を求めた。党役員人事と組閣で独自性を貫けるか。石破氏の覚悟が早速問われる。
 国民は裏金問題を忘れてはいない。石破氏は「新事実が判明した場合の再調査はあり得る」との立場をとるが、裏金に関係した議員の公認や要職起用は否定しない。だが、世代交代と若手・女性の登用で党運営を刷新する好機ではないか。
 併せて、改正政治資金規正法の穴をふさぎ、政策活動費の廃止など残る課題に取り組み、再発防止を徹底しなければならない。
 急浮上した選択的夫婦別姓制度の導入を巡り、石破氏は個人的には賛成としつつ、議論を深める必要があるとの姿勢だ。1996年に法制審議会が導入を答申し、法務省が法改正案も整えたが自民党の反対で国会提出は見送られた。この間に国民の理解も深まっている。封印を解き、国会審議を促す時である。
 論戦が深まらなかったのは、岸田政権から引き継ぐ「異次元の少子化対策」や防衛費増額の財源確保策、経済成長と財政再建の道筋、原発・エネルギー政策、外交・安全保障政策などだ。負担増を伴い、賛否が分かれるなど政権の体力を消耗する課題ばかりだが、避けては通れない。早期解散が取り沙汰される中、臨時国会では与野党が政策の対立軸を明らかにし、国民に選択肢を示す論戦の場が不可欠である。
 石破氏は総裁選後、「国民を信じ、勇気と真心をもって真実を語る自民党に」と述べた。まずは目指す国のかたちと重視する政策を国民に語り、逃げずに論戦に臨むべきだ。

自民総裁に石破氏 地方の声に応える政権に(2024年9月28日『山陽新聞』-「社説」)
 
 自民党の新しい総裁に石破茂元幹事長が選ばれた。来月1日には首相に就くことになる。初代の地方創生担当相を務め、ことあるごとに地方への目配り、気配りを口にしてきた政治家である。東京一極集中を是正し、国土の均衡ある発展につながる政策を展開してもらいたい。
 きのう投開票があった総裁選で、石破氏は党員・党友による地方票に関し、高市早苗経済安全保障担当相と共に圧倒的な支持を集めた。国会議員票でトップの小泉進次郎環境相に30票近く引き離された石破氏を、上位2人による決選投票に押し上げたのは地方の声だ。
 今回の総裁選は裏金事件を受けた派閥解消が進む中、「派閥なき総裁選」という異例の展開となった。派閥の締め付けが弱まったのを受け、過去最多の9人が立候補して乱戦模様を呈した。とはいえ、最終盤では旧派閥単位の動きが目立ち、解消の難しさを改めて印象づけた。
 新総裁に課された責務の一つは、裏金事件に端を発した国民の政治不信解消である。先の国会で政治資金規正法を改正し、政治資金パーティー券購入者名の公開基準引き下げなどを決めた。だが、政治資金の使い道をチェックする第三者機関の制度設計など、内容が煮詰まっていない検討事項が多い。党内外で議論を早急に深めねばならない。
 そもそも裏金事件がいつ、何を目的に始まり、具体的に何に使っていたのか。事件の核心は明らかになっていない。再発防止のためには真相解明が欠かせない。対象議員を処分し、党則などを改正したことを理由に幕引きとするのは許されない。
 地方の人口減少や衰退に歯止めをかけるための地方創生も極めて重要な課題だ。石破氏は総裁選で、農業や林業、サービス業の活性化を促し、雇用と所得を創出するのが肝要だと主張した。婚姻率の低下と人口減少の相関関係に触れ「若い女性に選ばれる地方とは何か、突き詰めて考えなければならない」と指摘もした。具体的な対策を示し、実行してもらいたい。
 来月末で衆院議員の任期満了まで残り1年となる中、石破氏は衆院解散・総選挙の時期を探ることになる。総裁選の討論会では、就任後直ちに解散する意向を示す候補者もいたが、石破氏は衆参両院での予算委員会を開くべきだと言及した。国民の代表が集う国会で、信を問う課題を説明するのは本来あるべき姿だ。
 近年各地で甚大な災害が相次ぐ中、石破氏は「防災省」の創設を訴える。地震に続いて記録的豪雨に見舞われた石川県能登半島の復旧については、きのうの記者会見で、迅速な執行が可能な予備費で対応する考えを示した。
 石破氏は5度目の挑戦で総裁の座を射止めた。国会議員からの人望の薄さを指摘する声もある。政権基盤をいかに強化するかも問われよう。

義理と人情より「正論」(2024年9月28日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
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 2003年12月、護衛艦「しらね」艦上で、海上自衛隊海上パレードを観閲する小泉純一郎首相(中央)と石破茂防衛庁長官(左)=神奈川県沖の相模湾
 「首相になるためには才能と努力と運が必要だ」。5月14日夜、自民党石破茂元幹事長は東京都内であった会合で小泉純一郎元首相から、そう助言を受けたという。「努力の中で義理と人情を大切にしなさいということも言われていた」と同席した山崎拓元党副総裁が取材陣に明かしている
▼経験豊富で才能は十分とされる石破氏。国民には人気だが、人付き合いが悪く党内での人気がない-。そんな評判を踏まえての助言だったのだろう
▼その3日後の講演会。当の本人は「(党内で人気がないのは)不徳の致すところ」とわびる一方、こう語ったという。「『この国をこうします』ということにおいて一致すれば、嫌いだろうが一緒にやるのがお国のためだ。どんなに好きな人でも政策が違ったら一緒にはやっていけない」
▼まさに正論。曲がったことを嫌う性格が出ている。だからこそ「石破さんなら政治とカネの問題にけじめをつけてくれる」と渇望した国民も多かった。そんな“異分子”を今の自民党は容認するか否か-。岸田文雄首相の「次の首相」を決めるきのうの総裁選。「選挙の顔」として期待する国会議員票を集め、決選投票で競り勝った。運も味方した
▼「これが最後」と背水の陣で臨んだ5度目の出馬でつかんだ総裁、そして首相の椅子。とはいえ、政治改革をはじめ難題が山積する。小泉元首相は今度はどんな助言を送るのだろう。(健)

自民新総裁に石破氏 政治改革、本当にできるのか(2024年9月28日『中国新聞』-「社説」)
 
 自民党の新総裁に、石破茂元幹事長が決まった。来月1日召集の臨時国会で、岸田文雄首相の後継首相に選出される予定だ。鳥取県から初の首相誕生となる。
 派閥の裏金事件に代表される「政治とカネ」問題が、政治不信を増幅させた。岸田氏が国民の信頼を失って退陣に追い込まれた要因である。物価高対策や豪雨被害も重なった能登半島地震の被災地復興をはじめ、内政、外交の課題に取り組むには国民の理解と協力が欠かせない。石破氏にはとりわけ、地方再生に向けた期待が大きい。
 石破氏は立候補表明で「政治は変わる。自民党は変わる。それを実現できるのは自分だ」と訴えた。その決意にたがわぬ政治改革を断行しなければならない。
 総裁選には史上最多の9人が立候補し、1回目の投票で過半数に達した候補はなかった。高市早苗経済安全保障担当相との上位2人による決選投票で、石破氏は国会議員票を約140票上積んだ。
 早期の衆院解散・総選挙が取り沙汰される中、世論調査で人気があるため「選挙の顔」として期待が集まったのは間違いない。加えて、今後の影響力をにらんだ重鎮の意向が働いた可能性は高い。
 総裁選の最終盤で、石破氏ら有力候補が首相経験者や派閥領袖(りょうしゅう)らを訪ね、協力を求める動きが目立った。「派閥なき総裁選」のはずが、「派閥政治の復活」と国民の目には映っても仕方あるまい。
 しがらみを振り払い、政治改革を断行できるか。最初の試金石となるのが、今後の党役員人事と組閣である。派閥・旧派閥の意向や論功行賞がうかがえるような人選となれば、国民の期待は一気にしぼんでしまうだろう。
 気がかりなのは、裏金事件の真相究明への姿勢である。「新事実が判明した場合は再調査はあり得る」との立場にとどまる。旧安倍派を中心に裏金を得ていた議員の大半は国会での説明を拒んでいる。こうした議員を衆院選で公認したり、政府や国会への要職に起用したりすることを石破氏は否定していない。
 なぜ裏金をつくるようになったか、何に使ったのかを明らかにしなければ、金のかからない政治の実現に向けた改革の道筋も描けまい。
 使途公開の義務がない政策活動費については「可能な限り明らかにする」としたが、廃止を唱える候補がいたことを考えれば踏み込み不足は否めない。少なくとも1円単位の公開が筋ではないか。
 「政治とカネ」問題とともに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍晋三元首相らの関係についても再調査し、全容を解明する必要がある。安倍政権から岸田政権までを一つの時代と捉えるならば、安倍政権からの「負の遺産」を清算することも改革に含まれよう。
 石破氏は臨時国会で野党との論戦を通じ、政見と改革方針を競い合うべきだ。衆院選有権者の審判材料となる。国会審議を軽んじるような独善的な手法を排する手始めとしたい。

自民党は変わるか(2024年9月28日『中国新聞』-「天風録」)
 
 スマホの使用は控えてください―。コンサート前などに会場で聞かれるお願い。きのう実質的な次の首相を決める場でも申し合わされた。自民党総裁選で投票先の指示や最後のお願いのメッセージを送れないように
▲9人が立候補。「派閥なき総裁選」といわれた。麻生派以外、派閥は解散したから。議員それぞれが共感する人に入れる本来の選挙に。派閥トップの指示に「右へ倣え」で票を投じる、あしき慣習は消えたはずだった
自民党も変わった―と思われたが現実はどうか。終盤には「重鎮詣で」が目立った。首相経験者や派閥を率いた重鎮の元へ、候補者が続々と。派閥・旧派閥の力は生きており、実力者に頼めば票が動くと考えたのだろう
▲首相が選ばれる「力学」は変わらぬようだ。事前の打ち合わせもあったか。あるいは将来、「選挙の顔」として自らの当選に有利なのは誰か―。打算を働かせた議員がいたかもしれない
▲「ルールを守る党、政治に」。そう訴える石破茂氏が新総裁になった。裏金事件に関係した議員は「公認にふさわしいか、徹底議論する」。先月語っていたが、翌日にはトーンダウンさせた。自民党の政治は変わるか。国民は見ている。

【自民総裁選】政治不信は拭えていない(2024年9月28日『高知新聞』-「社説」)
 
 自民党の総裁選で、石破茂元幹事長が新しい総裁に選ばれた。来月1日に召集される臨時国会で第102代首相に指名される見通しだ。
 総裁選には、派閥による縛りが緩んだことで史上最多となる9人が出馬。多様な人材が主張をぶつけ合ったことに意義はあった。混戦下での討論や競り合う展開の緊張感、勝ち負けの妙味は、党員のみならず有権者の関心を引きつけた。
 しかし、最大の課題でもあった政治不信、党不信については解消できたと言えないだろう。
 派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で党の信頼は失墜。そのけじめを理由に岸田文雄首相は退陣表明した。不信払拭が求められたが、各候補とも、未解明の部分が多い事件の再調査や関係議員の処分見直しには後ろ向きで、「政治とカネ」の本質的な議論もなかった。総じて踏み込み不足だった。
 使途が分からないとして批判の強い政策活動費の廃止などに言及し、改革意欲を強調する候補は確かにいた。しかし、先の通常国会で野党が廃止を求めた項目だ。その時に声を上げず、この段階で訴える姿勢にはむしろ不信感が募った。総裁選を経たことが、裏金事件の免罪符になるわけではない。
 各論では、選択的夫婦別姓の導入、解雇規制の見直し、金融所得課税の強化など幅広い政策が提起されたが、その中には、防衛増税の見直し、現行の健康保険証の廃止期限の見直しもあった。持論を展開するのは自由だが、政権与党の幹部である総裁候補が、自らが関わった政策を覆したのは、岸田政権のいびつなガバナンス(統治)も露呈した。
 自民党は、支持率が下がると党首を代える「疑似政権交代」で政権を維持してきたが、そのやり方も冷静な有権者からは見透かされている。
 5度目の挑戦を実らせた石破氏は「裏金議員」の公認について「国民が納得をしてないなら公認権者の総裁も説明責任を果たすべきだ」との説明をしてきた。当選後には「勇気と真心を持って真実を語る」と語った。党改革の覚悟が問われる。
 総裁選の在り方そのものは、派閥解消の流れを受けて変わったように映る。史上最多の候補が出馬しただけでなく、投票に当たって所属議員個々の考えが尊重されやすくなったのは確かだろう。
 一方で、旧派閥単位の行動や首相経験者らの影響力なども報じられた。投票行動でどのような力学が働いたかは現時点で判断しにくいが、人物本位、政策本位で選ばれる流れを強めていくべきだ。
 論戦を振り返れば、2012年に自民が与党に復帰してからの総括が物足りなかったのは否めない。安倍政権以降、国会軽視や説明責任軽視の傾向が強まり、「おごり」「緩み」も指摘されてきた。
 長く非主流派にいた石破氏が当選後、「自由闊達(かったつ)、公平公正、謙虚な自民党」を強調したのはそうした意識があるからだろう。政権運営の流れが変わるか注目される。

ワンマン宰相の憂い(2024年9月28日『高知新聞』-「小社会」)
 
 本県選出の吉田茂元首相はおのれを語るのが好きではなく、退任当初は回顧録の類いを拒んでいたようだ。それが周囲の熱意と根気で「まんまと、禁を破らされてしまった」のが1957年に出版された「回想十年」になる。
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 戦後、新憲法によって民主政治は確立された。しかし、当時の政治のあり方はまだ発展途上とみていた節がある。〈真に民主政治が確立されるまでは、国民は深き注意を以(もっ)て、常に政治、政局の推移を監視せねばならぬ〉
 カネがかかり過ぎる選挙、政治も憂えている。〈それは結局国民の負担となり、政治資金の乱費となる。ひいては政治の腐敗、道義の低下を助長する〉。出版から70年近く。政治は長く同じ問いを繰り返しているのかもしれない。
 きのうの自民党総裁選を石破茂元幹事長が制して事実上、次の首相に決まった。父親が旧制高知高校出身。来高しては、父のよさこい節はうまくなかったという小話を披露する。地方創生にも熱心で、近しさはある。
 ただ、最初の壁は総裁選の出発点だった「刷新」だろう。石破氏は、いわゆる裏金議員を次の選挙で公認するかを「徹底的に議論すべきだ」。だが、旧安倍派などの反発を案じてか、すぐに主張を弱めた。今後は自ら言う「国民目線」でどう向き合うかが試されよう。
 近づく衆院選は一般の有権者も判断する。〈監視せねばならぬ〉。ワンマン宰相が残した言葉を心したい。

新総裁に石破氏 自民党の再生はまだ遠い(2024年9月28日『西日本新聞』-「社説」)
 
 自民党は本当に生まれ変われるのか。新総裁のお手並み拝見である。
 きのう投開票された自民党総裁選で、元幹事長の石破茂氏(67)が当選した。来月1日召集の臨時国会で首相に指名される。
 総裁選には過去最多の9人が立候補した。1回目の投票で過半数を獲得する候補者がなく、石破氏は高市早苗経済安全保障担当相(63)との決選投票を制した。
 5回目の総裁選となった石破氏は「最後の戦い」と訴えた。防衛相、農相、地方創生担当相を歴任するなど閣僚経験が豊富で、国会答弁はそつがない。政治家としての安定感が支持されたようだ。
 総裁選で真っ先に問われたのは、派閥の裏金事件に象徴される「政治とカネ」にどう対処するかである。
 この問題で国民の信頼を失い、不出馬に追い込まれた岸田文雄首相は、自民党が変わる姿を示すことに総裁選の意義があると語っていた。
 その観点で15日間の選挙戦を振り返ると、党再生は程遠いと言わざるを得ない。
 政治資金の流れをいかに透明化し、カネのかからない政治を実現するか。この本質的な命題に言及する候補者はほとんどいなかった。
 党に巣くう政治資金問題を解決する意思が乏しいと受け止めるほかない。
 石破氏にも積極的な姿勢が見られなかった。「説明責任は当該議員とともに、党として果たすべきものだ」との発言は具体性に欠ける。
 裏金事件は依然として全容が解明されていない。火種も残っているのに再調査には否定的な考えだ。
 党内で煙たがられるのもいとわず、自説を主張してきた石破氏にしては腰が引けているのではないか。
 新総裁として、改めて見解を示すべきだ。
 今回の総裁選は脱派閥も問われた。麻生派以外は活動をやめ、派閥の縛りがない初の総裁選といわれた。
 候補者の顔触れは多彩だった。女性、40代が2人ずつ名乗りを上げて9人の争いとなったのは、派閥を解消した効果と言える。
 ところが選挙戦の終盤になると、上位をうかがう候補者はまとまった国会議員票を得ようと、派閥を率いた有力者を相次いで訪問した。派閥の力に頼ろうとする行動を見せつけられ、しらけた国民も多いのではないか。
 石破氏がかつて率いた派閥は少人数だった。他派閥のリーダーに比べ、党内基盤は明らかに弱かった。本人も自覚しているはずだ。
 今回は無派閥議員を含め、幅広い支持を集めて新総裁に押し上げられた。党や政権の運営に派閥の影がちらつくようでは期待値は低下する。
 裏金事件と派閥政治は一体である。ここから脱却せずに自民党が生まれ変わることなどあり得ない。石破氏は肝に銘じてほしい。

自民党新総裁決まる(2024年9月28日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 自民党総裁選に初めて挑んだ女性は、現東京都知事小池百合子さん。5人が争った2008年のこの選挙で小池さんは3位だった。以来16年。女性の進出を阻む政界の「ガラスの天井」は変わらずに分厚かった
◆女性2人を含む過去最多の9人が立候補し、きのう投開票された総裁選は石破茂さんが決選投票の末、高市早苗さんに勝利した。石破さんが総裁選に挑んだのは5回目。最初の挑戦は08年で、小池さんより得票は少なく最下位だった。2回目の12年は決選投票で敗れた。3、4回目も大きく届かなかった。それでも諦めなかった。「捲土(けんど)重来」の言葉が似合う歩みである
◆元プロ野球監督の星野仙一さんはリーダーの心得について「目的を述べる」「公平である」「決断を迷わない」「責任をとる」「明確なビジョンを持つ」「覚悟を決める」ことなどを挙げる。政治に限らず肝に銘じたい言葉だ
◆新総裁は決まったが、自民党派閥の裏金事件で失墜した政治への信頼が回復したわけではない。石破さんは「政治家の仕事は勇気と真心をもって真実を語ること」を信条とし、きのうの演説でも使った
◆過去の総裁選と同じように今回も聞こえのいい公約が並んだ。問題は実行力。政策活動費の在り方をはじめ勇気と真心で難題に対処できるか。新しいリーダーの手腕を国民は注視する。(義)

逆風満帆の人(2024年9月28日『長崎新聞』-「水や空」)
 
 訪日客よ、再び日本へ-と願いを込めて「遠客再来」。「千客万来」をもじった創作四字熟語だが、秀作はほかにもある。昨年は野球の侍ジャパンの活躍を「獅子奮迅」ならぬ「侍士(しし)奮迅」とする佳作もあった
▲ひと文字やふた文字の違いで言葉は表情を変える。「逆風満帆」という創作熟語もある。健康面か仕事のことか、人には順風ではなく逆風に身をさらし、帆を膨らませることもある
▲「政治とカネ」という向かい風に「謙虚で、誠実で、温かく実行力のある自民党」という理想の帆を高く掲げる。「逆風満帆」の人かもしれない。自民の新総裁に石破茂氏が選ばれた。10月1日の臨時国会で首相に就く
▲派閥に縛られず、過去最多の9人が立候補したのに、総裁選の終盤では、石破氏を含む何人もの候補者が「派閥の有力者詣で」を続けた。「なりふり構わず」の見本市を見た気がする。それでも組閣や党人事で「脱派閥」に胸を張れるのかどうか。早々に覚悟が問われる
▲波風を受けて転覆しないよう、船に砂利や水を積んで重心を下げることがある。これを底荷(そこに)と言う。論戦に強く、政策に通じているのは新総裁の強みであり、底荷だろう
▲ずしりと底荷を重くして、信頼や安定感、重量感を得られるか。逆風満帆の船出はもう針路を誤ることができない。(徹)

自民新総裁に石破氏 県要望に沿う協定改定を(2024年9月28日『琉球新報』-「社説」)
 
 自民党総裁選は決選投票の結果、石破茂氏が新総裁に選出された。10月1日召集の臨時国会で新首相に指名される運びだ。年内にも解散総選挙が実施される公算が大きい。
 岸田政権は「政治とカネ」「政治と宗教」を巡る問題で内閣支持率は低迷し、深刻な政治不信を招いた。総裁選は岸田政権を総括し、政治の信頼を取り戻すための道筋を示す機会であるべきだった。
 しかし、総裁選に立候補した9氏の論戦を通じて、政治不信払拭の具体案が提示されたとは言いがたい。
 12日の告示から27日の投開票まで自民党総裁選は多くの耳目を集めた、しかし、政治不信を招いた責任は残されたままである。石破氏は党派閥や議員が引き起こした問題への反省を踏まえ、政治の信頼を取り戻す方策を自らの言葉で語らなければならない。
 石破氏は党内でも論客、政策通と目されてきた。特に安全保障政策に明るく、防衛庁長官、防衛相を歴任した。総裁選で唯一、日米地位協定の見直しを明言した。防衛庁長官時代に発生した沖縄国際大米軍ヘリ墜落事故で日本の警察が捜査のらち外に置かれた経験を踏まえたものだ。
 総裁選後の会見で地位協定改定を求める党県連など沖縄の声を「等閑視すべきだとは思っていない」と述べ、強い姿勢で臨む考えを示した。
 これを口約束で終わらせてはならない。沖縄県は米軍に特権的な地位を与える協定の改定を要望し続けている。県の要望に沿い、改定実現に向けて具体的に行動することが求められる。対米交渉にも果敢に挑んでもらいたい。
 持論である「アジア版北大西洋条約機構NATO)」創設を政策に掲げた。しかし、このような施策が東アジアに無用な緊張を生むことにならないか。
 沖縄から石破氏に注文したいのは軍備増強ではなく、対話による平和と安定の構築である。「台湾有事」を念頭に、岸田政権下で急速に進んだ宮古八重山地区の自衛隊配備は中国をいたずらに刺激するだけでなく、地域住民の新たな基地負担となっている。このような軍備増強路線を修正してもらいたい。
 辺野古新基地建設で沖縄の民意を押しつぶすような強硬姿勢も改めるべきだ。
 2013年11月、党幹事長だった石破氏は自民県選出・出身国会議員5氏の普天間県外移設公約を撤回させ、辺野古移設容認の発表に同席させた。石破氏と、その横でうなだれて座る5氏の姿は「平成の琉球処分」とも例えられた。その時の自民党や石破氏の高圧的な態度を県民は今も忘れてはいない。
 事業費が際限なく膨張し、完成時期のめどすら立たない新基地建設計画は既に破綻している。石破氏はそのことを認め、新たな普天間の危険性除去策を追求すべきだ。実現可能性が乏しい計画にいつまでも執着してはならない。

自民新総裁に石破氏 地位協定の改定進めよ(2024年9月28日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 自民党の新総裁に石破茂元幹事長が決まった。10月1日召集の臨時国会で首相に就く。
 総裁選は5度目の挑戦だった。過去最多の9人が立候補し、上位2人による決選投票で高市早苗経済安全保障担当相を破った。
 世論調査で人気が高く、次期衆院選での集票や論戦力が期待されての選出とみられる。派閥解消の流れによって派閥の影響力が低下したことも有利に働いた。
 「防衛政策通」として知られ、防衛庁長官や防衛相を歴任した。自民党幹事長として、名護市辺野古の新基地建設を進めるなど、沖縄との関係も深い。
 17日に那覇市で開かれた地方演説会では、日米地位協定について「運用の改善で事が済むとは思わない。見直しに着手する」と踏み込んだ。総裁選後の記者会見でも改定に取り組む考えを改めて示した。
 米軍の法的な特権を認める日米地位協定は、事件・事故が起きても日本側が全面的に捜査や調査できないなど、不平等さの元凶となっている。県が長年、改定を要求しているが、政府は運用改善でかわしてきた。 石破氏には言葉通り、約束を確実に実現してほしい。
 「米軍基地を自衛隊と共同管理する」考えも示している。
 県内では事件や事故、環境汚染などが起こるたび、米軍基地に立ち入りできないことが問題になってきた。基地の共同管理が、国内法適用など、こうした問題の解決につながるのか。慎重に見極めたい。
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 石破氏といえば県民には忘れられない光景がある。
 幹事長だった2013年、米軍普天間飛行場の県外移設を訴えていた自民党の県関係国会議員5人と会談し「辺野古容認」に方針転換させた。うなだれる議員を横に座らせ会見する姿は「平成の琉球処分」と呼ばれ、批判を浴びた。
 演説会で石破氏は「十分に沖縄の理解を得て決めたかというと必ずしもそうではなかった」と振り返った。
 県民投票で7割が反対した新基地建設を進めるなど政府はこれまで県民の民意をないがしろにしてきた。
 地位協定改定や共同管理が実現すれば沖縄の基地対応では大きな変化になる。県と対話しながら丁寧に進めてもらいたい。
 県民が求めているのは目に見える形での負担軽減だ。
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 早い時期の衆院解散・総選挙が取り沙汰されている。「ご祝儀相場」のうちにとの狙いが透けるが、石破氏は衆院解散前の国会論戦の必要性に言及していた。
 派閥裏金事件をはじめとする「政治とカネ」の問題や旧統一教会との関係などをうやむやにすることは許されない。
 地震後の豪雨被害に苦しむ能登半島の復旧へ向けた対応にも早急に取り組む必要がある。
 立憲民主党の新代表も決まったばかりだ。解散前に党首討論予算委員会を開くなど、論戦に応じ有権者に判断材料を示すべきだ。