マイナ保険証に関する社説・コラム(2024年9月26・10月1日)

マイナ保険証 不安残る移行は撤回を(2024年10月1日『北海道新聞』-「社説」)
 
 病院受診などに欠かせない現行の健康保険証の新規発行廃止まであすで残り2カ月となる。
 政府はマイナンバーカードと一体化した保険証への移行を既定方針とするが、利用率はいまだ1割程度に低迷する。
 マイナカードを巡っては情報が誤ってひも付けされるトラブルが相次ぎ、保険証移行に対する不信感は根強い。デジタルに不慣れな層の不安も尽きぬ。
 当初は現行制度との選択制だったはずが、事実上義務化した経緯も不透明なままである。
 このままでは移行時の混乱は避けがたく、デジタル化による利便性を上回る社会的損失を引き起こしかねない。
 自民党総裁選では廃止期限見直し論議が浮上したが、うやむやに終わった。きょう発足する石破茂内閣は一度立ち止まり、廃止期限撤回を図るべきだ。
 発行済みの保険証は廃止期限の12月2日を過ぎても最長1年の猶予期間は使用できる。保険証代わりに使える最長5年有効の資格確認書も送付される。
 世論の反発を受けた末の苦肉の策だが、逆に医療現場の窓口業務が停滞する恐れもあろう。
 厚生労働省によると8月時点のマイナ保険証利用率は12.43%にとどまり、規模別では病院より診療所で低い状態だ。
 デジタル化推進は少子高齢化の中で効率アップや医療費のムダ排除を図るのが目的である。
 今のマイナ保険証で医療機関が共有できるのは薬剤や診察・手術履歴、メタボ健診などで、血液検査の詳細やCTなど画像情報はまだ利用できない。
 これでは医療機関が変わる度に同じ検査を繰り返す現状は変わらないのではないか。自民党総裁選の討論会でも、前厚労相加藤勝信氏は医療デジタル化が進まないために「使い勝手が確かに悪い」と認めていた。
 岸田文雄政権は一昨年の骨太方針に「2024年度中をめどに保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し」と明記した。それが数カ月で廃止に転換し、昨年6月に法制化した。
 マイナカード普及が狙いとも見られるが丁寧な説明はない。
 一方、来年3月には運転免許証機能もマイナカードに導入されるが、現行免許証との併用である。海外で従来の免許証がないと運転できない国があることを考慮したという。なぜ保険証はできないのか理解に苦しむ。
 石破氏は総裁選期間中、マイナ保険証に関し「期限が来ても納得しない人がいっぱいいれば併用も選択肢として当然」と発言したことがある。国民の声に耳を傾けた決断を求めたい。

マイナ保険証 国民の不安は払拭できたのか(2024年9月26日『読売新聞』-「社説」)
 
 健康保険証の新規発行は、あと2か月余りで停止となる。だが、マイナンバーカードに保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」のトラブルは今も続いている。
 岸田首相は保険証の廃止について「国民の不安 払拭 ふっしょく が大前提」と強調してきたが、現状は、不安が払拭されたと言えるのか。政府は虚心に議論し直すべきだ。
 政府は12月2日から紙の保険証などの発行を停止し、原則としてマイナ保険証に一本化する。
 それ以降も現行の保険証は最長で1年、使用できる。また、マイナ保険証を持たない人には、申請がなくても自治体や健康保険組合が保険証と同じように使える「資格確認書」を交付する方針だ。
 政府がマイナ保険証の普及を急ぐのは、医療分野のデジタル化を進め、将来的に医療費の抑制につなげる狙いがある。
 マイナ保険証には、過去の検査結果や処方された薬の履歴を閲覧できる機能がある。医師がそうしたデータを把握すれば、患者の持病を考慮した治療が可能になる。検査や薬の重複も避けられる。
 患者は、より適切な医療を受けられるようになるだろう。
 マイナ保険証の保有者は、今年7月時点で国民の59%に上っている。だが、病院や薬局での利用率は11%にとどまっている。
 マイナ保険証を巡っては昨年、他人の個人情報が 紐 ひも 付けられるトラブルが頻発した。そうした問題は解消されたが、今も通信エラーで本人確認ができず、患者がいったん医療費を全額請求された、といった報告は後を絶たない。
 そもそもマイナカードの交付が始まった2016年当時、政府は、個人情報の 漏洩 ろうえい を避けるため外出時にはカードを携帯しないよう呼びかけていた。だが今は、情報漏洩の心配はないとして常時、持ち歩くよう求めている。
 これでは国民がマイナ保険証の信頼性を疑い、利用率が低迷するのも無理はない。
 保険証の廃止は、河野デジタル相が2年前、唐突に表明した。その後の政府の場当たり的な対応を見ると、デジタル機器に不慣れな高齢者などにどう配慮するか、といった視点を欠いていたと言わざるを得ない。
 政府は来春、運転免許証とマイナカードを一体化させた「マイナ免許証」の運用を始めるが、この免許証は現行の免許証との併用を認める方針だ。それができるなら、マイナ保険証と現行の保険証の併用も可能ではないのか。