健康保険証の廃止、立ち止まって再考を マイナ保険証に国民は不安を募らせている<取材記者の視点>(2024年9月25日『東京新聞』)

 
<シリーズ「検証マイナ保険証」>
現行の健康保険証とマイナンバーカード

現行の健康保険証とマイナンバーカード

現行の健康保険証の新規発行廃止まで70日を切った。
マイナンバーカードを健康保険証として利用登録をしている人は約7451万人(7月末)、つまり「マイナ保険証」を作った人は、カードを持っている人の80%を占める。
だが、その利用率は12.43%にとどまる(8月末)。どうして利用率が上がらないのか。
国民が不安を抱いているからだ。加えて、マイナポイント事業をはじめとした政府のカード普及政策に対し国民が不信感を持っていることは否めない。

◆「マイナ免許証」は希望者なのに

東京新聞のマイナ保険証取材班は、現行の保険証をなくしてまでマイナ保険証への一本化を急ぐ政府の進め方を疑問視してきた。
来年3月から、マイナンバーカードに運転免許証機能を持たせる「マイナ免許証」への切り替えが可能となる。
こちらは希望者が対象で、従来の免許証も持つことができる。
カードの取得が任意であること、従来の運転免許証に顔写真とICチップが内蔵されているなど偽造が難しいことを考慮しても、多くの国民が利用する公的証明書の仕様を一斉に変更する場合、「マイナ免許証」ような手順を踏むのが合理的なのではないか。

◆180の地方議会が廃止延期や存続希望

全国180を超える地方議会が、今年8月までに保険証の廃止延期、または存続を求める意見書などを採択している。
自民党総裁選に出馬した林芳正官房長官は、「まだ国民に不安がある」として、一時、保険証の廃止時期の見直しにまで言及した。

◆こぼれ落ちる人はいないのか

健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化しようとする政府に抗議する人たち=2024年5月、国会前で

健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化しようとする政府に抗議する人たち=2024年5月、国会前で

健康保険証は、転職や結婚、転居で加入する保険者(保険組合や自治体など)が変わる。70歳以上の高齢者は所得によって窓口の負担割合が変わる。さらに、加入する保険者によって保険証の有効期限が異なる。
マイナ保険証をトラブルなく使っている人は確実にいる。記者も一部の医療機関で利用している。
高齢者など"デジタル弱者"が今後の移行手続きの際に対応できず、一時的にせよ、公的医療保険制度からこぼれ落ちる心配は本当にないのか。

◆国民の不安払拭を目指すなら

政府は、マイナ保険証の利用率に関わらず、保険証の新規発行を廃止する方針を示している。
政府が国民の不安払拭を最大限尊重するというのなら、一度、立ち止まって考えてほしい。まだ、間に合う。(長久保宏美)
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シリーズ「検証マイナ保険証」
現行の健康保険証の廃止には、いまだに不安や疑問の声が聞こえます。東京新聞は「検証マイナ保険証」と題して、マイナ保険証への一本化の課題や影響を伝えていきます。
マイナ保険証に関するご意見や情報を募集しています。
メールはtdigital@chunichi.co.jp、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞デジタル編集部「マイナ保険証取材班」へ。