マイナカード 普及ごり押し目に余る(2024年6月25日『東京新聞』-「社説」)

 政府が、マイナンバーカードを健康保険証として使うマイナ保険証の利用率向上に向け、利用者が増えた医療機関に支給する支援金の上限を倍増すると発表した。
 マイナカードの取得は法的には強制ではなく任意。税金を原資とした支援金で利用を促すのは筋違いで、国民を愚弄(ぐろう)しているのではないか。今年12月に現行健康保険証を廃止する政府方針を撤回し、選択制に移行するよう求める。
 厚生労働省は5月から医療機関窓口でマイナ保険証利用を促し、利用者が増えた病院や診療所、薬局への支援金支給を始めた。
 しかし、一部の薬局ではマイナ保険証を持参しないと処方しないという誤った対応から患者に謝罪文を出す混乱も生じた。利用率も5月時点で7・73%と低迷を続けている=グラフ。
 そもそもマイナ保険証の利用率低迷の原因は利便性や個人情報保護の欠如にある。これまでも個人情報を誤ってひも付けしたミスが頻発。全国保険医団体連合会によると、昨年10月から今年1月にマイナ保険証から保険資格が読み取れず、患者に一時全額負担を求めたケースは753件あった。
 任意取得の原則を脅かしかねない強引なマイナカード普及策は、携帯電話の契約にも見られる。
 政府は特殊詐欺対策として、インターネットを通じた非対面での携帯電話契約ではマイナカードで本人確認することを原則とし、運転免許証や健康保険証などでの確認を廃止することを決めた。
 対面契約でも運転免許証などを含むICチップの読み取りを義務化するため免許証などがなく、マイナカードも持たない人は携帯電話を契約できない恐れがある。
 犯罪対策が必要であることは理解するが、免許証やマイナカードを持たないという理由で、今や暮らしに必需品となった携帯電話の契約を妨げていいのか。
 任意であるはずのマイナンバーカードの取得を強引に進めれば、利便性向上というマイナンバー制度の理念や「誰一人取り残されない」というデジタル化の原則を空文化させ、失われつつある政府の信頼をさらに損ないかねない。